『生きとるわ』又吉直樹|要約・感想【火花から10年、6年ぶりの長編小説】
「あかん、人生終わった……」
阪神タイガースがセ・リーグ優勝を決めた夜。
大阪・道頓堀の熱狂の中で、主人公はそう呟く。
又吉直樹さんの6年ぶりの長編小説『生きとるわ』を読んだ。『火花』から10年。芥川賞作家が描く、人生の不条理と友情の物語。
読み終えて、しばらく動けなかった。
『生きとるわ』とは
著者の又吉直樹さんは、お笑いコンビ「ピース」のメンバーであり、2015年に『火花』で芥川賞を受賞した作家。
本作は「文學界」で2024年1月号から2025年3月号まで連載され、2026年1月に単行本化された。
『火花』『劇場』に続く、又吉さんの代表作になりうる長編だ。
あらすじ:500万円の借金が人生を狂わせる
主人公の岡田は、公認会計士として順調なキャリアを歩んでいた。
ある日、高校時代の仲間横井から連絡が来る。
「500万円、貸してくれへんか」
断ればよかった。でも、岡田は貸してしまう。
横井は他の仲間たちからも借金を重ね、やがて姿をくらます。
そして、阪神タイガースのセ・リーグ優勝が決まった夜——。
大阪・道頓堀の熱狂の中で、岡田は偶然、横井と再会する。
衝撃の展開:「どうしようもないあいつ」との再会
この小説の核心は、「どうしようもない人間」とどう向き合うか という問いだ。
横井は、客観的に見れば「最低な人間」だ。
友人から金を借りて返さない。約束を破る。連絡を絶つ。
でも、岡田は横井を嫌いになれない。
「あいつは確かにどうしようもない。でも、高校時代の思い出が、俺の中で確かに輝いている」
この感情、わかる気がする。
私にも、連絡が取れなくなった友人がいる。借金こそしていないけど、約束を何度もすっぽかされて、いつの間にか疎遠になった。
でも、学生時代に一緒にバカやった記憶は、今でも大切なものとして残っている。
又吉文学の真骨頂:人生の不条理を描く
又吉さんの小説には、「人生の不条理」 が常に描かれている。
『火花』では、才能があっても報われない芸人の姿を描いた。
『劇場』では、自分勝手な男と、それでも離れられない女の関係を描いた。
そして『生きとるわ』では、「裏切られても断ち切れない友情」 を描く。
「なんで俺は、あいつを許してしまうんやろう」
岡田のこの独白が、読者の心に刺さる。
理屈では説明できない人間関係。損得では割り切れない感情。
それが、又吉文学の魅力だ。
印象に残った言葉
本作には、心に残るセリフがいくつもある。
「生きとるわ」の意味
タイトルの「生きとるわ」は、関西弁で「生きているよ」という意味。
横井が姿をくらましている間、岡田は何度も考える。
「あいつ、生きとるんかな」
再会したとき、横井は笑ってこう言う。
「生きとるわ」
この一言に、どれだけの感情が込められているか。
怒りも、安堵も、諦めも、愛情も。全部が混ざり合っている。
人生は「正解」がない
本作を読んで感じたのは、人生には正解がない ということ。
岡田は横井に金を貸すべきではなかった。それは「正解」かもしれない。
でも、貸したことで生まれた物語がある。再会があった。
「あの500万円で、俺は何を買ったんやろう」
岡田のこの問いかけに、簡単に答えは出せない。
『火花』との比較:10年の成熟
『火花』を読んだのは、大学生のときだった。
芸人の世界、才能と挫折、師弟関係——。当時の私には、少し遠い世界の話だった。
28歳になって『生きとるわ』を読むと、物語が「自分ごと」として迫ってくる。
社会人になって、人間関係の複雑さを知った。
友人との距離感、お金のトラブル、連絡が途絶える関係——。
『火花』が「若者の熱量」を描いた作品だとすれば、『生きとるわ』は**「大人の諦念と愛情」** を描いた作品だと思う。
又吉さん自身も、この10年で変わったのだろう。
その成熟が、作品に深みを与えている。
読後感:「どうしようもない人」への眼差し
この本を読み終えて、自分の人間関係を振り返った。
疎遠になった友人。喧嘩別れした知人。連絡を絶った元カレ。
その中には、「どうしようもない人」もいた。
でも、その人たちとの思い出が、私の人生の一部を形作っている。
「どうしようもない」と「大切」は、矛盾しない。
そんなことを、この本は教えてくれた。
こんな人におすすめ
- 『火花』『劇場』など又吉作品が好きな人
- 人間関係の複雑さを描いた小説を読みたい人
- 友人との関係に悩んだことがある人
- 大阪・関西を舞台にした小説が好きな人
- 30代前後の「人生の転換期」にいる人
特に、「許せない人」を心のどこかで許してしまう 経験がある人には、深く刺さる作品だと思う。
まとめ:又吉直樹の新たな代表作
『生きとるわ』は、又吉直樹さんの新たな代表作になりうる傑作だ。
『火花』から10年。芥川賞作家として、人間として、又吉さんは確実に深みを増している。
「どうしようもない人間」への愛情。 「正解のない人生」への肯定。
この小説には、そんなメッセージが込められている。
読み終えたとき、自分の人生を少し肯定できた気がした。
どんなに不格好でも、どんなに間違いだらけでも、「生きとるわ」——それでいいのかもしれない。
又吉直樹の他の作品
『生きとるわ』を読んで又吉作品に興味を持った方には、過去作もおすすめ。
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