『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで震えた。Z世代女子が感じた現代女性の生き方への共感と葛藤

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで震えた。Z世代女子が感じた現代女性の生き方への共感と葛藤

実は、『82年生まれ、キム・ジヨン』を読むのが怖かった。

SNSのタイムラインで「読んで泣いた」「怒りで手が震えた」という感想が流れてくるたびに、手に取ることをためらっていたんです。でも、bookwormsのライターとして、そして28歳の女性として、避けて通れない一冊だと思い、ついに読みました。

結果、私も震えました。共感と、悔しさと、これからへの希望で。

キム・ジヨンという「普通の女性」の物語

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

韓国で100万部、日本で140万部を超えるベストセラー。一人の女性の人生を通じて、現代を生きる女性たちの生きづらさを描いた衝撃作。

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『82年生まれ、キム・ジヨン』の主人公は、1982年生まれの韓国人女性。特別な才能があるわけでもなく、波乱万丈な人生を送るわけでもない、どこにでもいる「普通の女性」です。

なぜ「82年生まれ」なのか。それは、韓国で女児の出生率が最も低かった年だから。男児選好思想が根強く、超音波検査で性別がわかると女児を中絶する例が多かった時代。生まれてくることさえ「選ばれた」世代なんですよね。

物語は、精神科医のカルテという形で淡々と進みます。キム・ジヨンの人生を、幼少期から現在まで追いかけていく構成。この淡々とした語り口が、かえって読者の心をえぐるんです。

幼少期から学生時代 - 無意識に刷り込まれる性差別

「女の子だから」という呪文

キム・ジヨンの幼少期のエピソードを読んでいて、自分の子供時代を思い出しました。弟が生まれたときの家族の喜びよう、「跡取りができた」という祖父母の言葉。私の場合は福岡の実家でしたが、韓国と変わらない光景がそこにはありました。

物語の中で、ジヨンは弟の食べ残しを食べさせられたり、良いものは弟に譲るよう言われたりします。「女の子だから我慢しなさい」「女の子だから優しくしなさい」。この呪文のような言葉、私たちの世代でも聞き覚えがありませんか?

学校でも、力仕事は男子、細かい作業は女子。クラス委員長は男子、副委員長は女子。「自然に」そうなっていく役割分担。個人的に、小学校の頃「なんで女子は応援団長になれないの?」と聞いて、先生に困った顔をされたことを思い出しました。

痴漢被害と「自衛」の責任

中高生時代のジヨンが経験する痴漢被害のシーンは、読んでいて息が苦しくなりました。電車で、路上で、執拗につきまとう男性。そして被害を訴えると「スカートが短いから」「夜遅く出歩くから」と、なぜか被害者側が責められる。

私も高校時代、制服姿で痴漢にあったことがあります。怖くて声も出せず、次の駅で降りて、トイレで震えながら泣きました。友達に話したら「私も」「私も」と次々に体験談が。でも大人には言えなかった。「心配かけたくない」というより、「自分が悪いと言われるのが怖い」から。

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで気づいたんです。これって個人の問題じゃない、社会の構造的な問題なんだって。

就職活動と職場 - ガラスの天井の現実

能力があっても選ばれない理由

大学を優秀な成績で卒業したジヨンが、就職活動で直面する現実。同じスペックの男性同期は次々と内定をもらうのに、女性は「結婚したら辞めるでしょ」という理由で落とされる。

これ、2020年代の日本でも変わってないんですよね。私が出版社で働いていた頃、人事の人が「女性は育休取るから計算しづらい」って普通に言っていて、ドン引きしたことがあります。表向きは「男女平等」を謳っているのに、本音はこれかって。

実際、日本の女性管理職比率は12.7%(2023年)で、G7最下位。韓国の16.3%よりも低いんです。「女性活躍推進」って言葉だけが踊っている現実に、改めて愕然としました。

キャリアウーマンへの無言の圧力

やっと就職できても、職場での扱いは男性社員とは違う。お茶出し、電話番、「職場の花」扱い。仕事で成果を出しても「女のくせに生意気」、残業すれば「女は早く帰れ」。

個人的に共感したのは、ジヨンが職場で感じる「二重拘束(ダブルバインド)」です。優しくすれば「女は仕事ができない」、きつく言えば「女のくせに」。どっちに転んでも批判される。これ、今でもSNSで女性が何か発言するたびに起きている現象ですよね。

結婚・出産・育児 - アイデンティティの喪失

「○○ちゃんのママ」になること

結婚して出産したジヨンは、いつの間にか「ジヨン」ではなく「○○ちゃんのママ」と呼ばれるようになります。名前を失う感覚。これ、本当に怖いなって思いました。

友人の中にも、出産後に仕事を辞めざるを得なかった子が何人もいます。保育園に入れない、夫の転勤についていく、実家が遠くて頼れない。理由はさまざまだけど、結果的にキャリアを中断する。そして数年後、復職しようとしても元のポジションには戻れない。

統計を見ると、日本では第一子出産後に仕事を辞める女性が約5割。これって個人の選択というより、社会がそう仕向けているんじゃないかって思うんです。

夫との温度差

ジヨンの夫は「理解ある夫」として描かれています。家事を「手伝う」し、育児にも「協力的」。でも、この「手伝う」「協力する」という言葉自体が、家事育児は妻の仕事という前提に立っているんですよね。

私の周りでも「うちの旦那は家事を手伝ってくれる」って言う既婚の友達がいるけど、内心「それって当たり前じゃない?」って思っちゃう。でも言えない。だって、手伝わない夫の方が多数派だから、彼女にとっては「良い夫」なんです。

この温度差、独身の私から見てもモヤモヤするのに、当事者はもっと苦しいはず。

なぜ日本でもベストセラーになったのか

『82年生まれ、キム・ジヨン』が韓国だけでなく、日本でも140万部を超えるベストセラーになった理由。それは、描かれている女性の生きづらさが、国境を越えて共通しているからです。

ジェンダーギャップ指数で見ると、日本は146カ国中118位(2024年)、韓国は105位。どちらも下位に沈んでいます。特に政治・経済分野での男女格差は深刻で、この小説が描く構造的な問題は、まさに日本の現実でもあるんです。

2018年に日本で翻訳出版されたタイミングも絶妙でした。ちょうど医学部の不正入試問題が発覚し、#MeToo運動が盛り上がっていた時期。「女性だから」という理由で不当に扱われることへの怒りが、社会全体で共有されつつあったんですよね。

小説の構成の巧みさ

作家チョ・ナムジュの筆力にも触れておきたいです。この小説、ところどころに実際の統計データが挿入されているんです。個人の物語を語りながら、それが特殊なケースではなく、データに裏付けられた「普通」であることを示す。

淡々とした精神科医のカルテという形式も効果的。感情的にならず、事実を積み重ねていく語り口が、かえって読者の感情を揺さぶります。私も読みながら何度も本を閉じて、深呼吸しました。

これって、個人の体験を社会構造の問題として可視化する、すごく巧妙な手法だと思うんです。「私だけじゃなかった」という気づきを与えてくれる。

Z世代女子として感じた共感と違和感

変わってきたこと、変わらないこと

1996年生まれの私から見ると、ジヨン世代(1982年生まれ)から確実に変わったこともあります。SNSの普及で、女性同士の連帯が可視化されやすくなった。#MeTooや#KuTooのように、声を上げる手段ができた。

でも、根本的な構造は変わっていないんですよね。就活セクハラ、マタハラ、賃金格差。形を変えて、巧妙になっただけ。むしろSNSでの誹謗中傷など、新しい形の女性差別も生まれています。

最近、TikTokで「女の子は愛嬌」みたいな動画が流行っているのを見て、ゾッとしました。私たちの世代でも、まだこの価値観が再生産されているんだって。

私たちの世代の葛藤

Z世代の女性として感じる葛藤もあります。上の世代が勝ち取ってきた権利を享受しながら、でも「もう平等でしょ」という圧力も受ける。キャリアも恋愛も諦めたくないけど、両立の大変さは変わってない。

「強い女性」であることを期待されるけど、疲れちゃうんですよね。弱音を吐けば「これだから女は」、頑張れば「女のくせに」。このダブルバインドから、いつ解放されるんだろう。

読後に変わった日常の見方

職場での小さな違和感に気づく

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んでから、日常の中の小さな違和感に敏感になりました。会議で女性の発言が遮られる頻度、「女性らしい」服装への無言の圧力、「彼氏いるの?」という質問の多さ。

今まで「そういうもの」として流していたことが、実は構造的な問題の表れだったんだと気づいて。例えば、取材に行くとき「女性一人で大丈夫?」って心配されるのも、親切心の裏にある偏見ですよね。

友人たちとの対話

読書好きの友達と『82年生まれ、キム・ジヨン』について話したら、みんな何かしら思い当たることがあって。「私も」「私も」の連鎖。痴漢被害、就活での差別、彼氏からの何気ない言葉での傷つき。

興味深かったのは、男友達の反応。「そんなに大変なの?」って驚く人もいれば、「確かに俺も無意識にやってたかも」って反省する人も。『82年生まれ、キム・ジヨン』をきっかけに、性別を超えた対話ができたのは収穫でした。

これからの生き方について考える

『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで、絶望だけじゃなく希望も感じました。問題が可視化されれば、変えていける。個人でできることもあるし、社会全体で取り組むべきこともある。

編集長が創刊記事で書いていたように、「なんで?」という問いかけが変化の第一歩になるんだと思います。なぜ女性だけが仕事を辞めなければならないのか、なぜ管理職は男性ばかりなのか。当たり前とされてきたことに疑問を持つことから始まる。

個人的には、違和感を感じたら声を上げること、連帯すること、そして男性も巻き込んで対話することが大事だと思います。「女性の問題」じゃなくて「社会の問題」として。

Z世代の私たちは、SNSという武器もある。上の世代が切り拓いてくれた道を、さらに広げていける。そう信じたいです。

まとめ:すべての「ジヨン」たちへ

『82年生まれ、キム・ジヨン』は、一人の女性の物語でありながら、すべての女性の物語でもあります。そして、女性だけでなく、この社会に生きるすべての人が読むべき本だと思います。

読み終わって思ったのは、私も「2025年を生きる、モリタミユウ」なんだということ。名前を持ち、自分の人生を生きる一人の人間。それを忘れないでいたい。

この記事を読んでくださったあなたは、どう感じましたか? ぜひコメント欄で教えてください。みんなで対話することから、変化は始まると信じています。

関連して読みたい本

『82年生まれ、キム・ジヨン』に共感した方には、以下の本もおすすめです。

女の子はどう生きるか: 教えて、上野先生! (岩波ジュニア新書)

上野千鶴子さんが若い世代に向けて書いた、これからの時代を生き抜くためのフェミニズム入門書。

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私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない

韓国の若手フェミニストによる、日常の中の性差別と闘うための実践的な言葉の本。

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個人的には、『私たちにはことばが必要だ』も読んでよかったです。

フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学

フェミニズムの基本的な考え方を分かりやすく解説した、世界中で読まれている入門書。男性も女性も一緒に考えるべきテーマがここにあります。

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森田 美優

出版社勤務を経てフリーライターに。小説からビジネス書、漫画まで幅広く読む雑食系読書家。Z世代の視点から現代的な読書の楽しみ方を発信。

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