仕事漫画おすすめ!キャリア発達研究エビデンスで読む大学生の就活準備5選
「働く」とは何か、考えたことがあるか
博士課程で認知科学を研究している僕は、「就職活動」について大学生から相談を受けることがある。
多くの学生が「どの会社に入るか」を考えているが、「どのように働きたいか」を深く考えている人は意外と少ない。
興味深いことに、2021年にJournal of Vocational Behaviorで発表されたメタ分析では、キャリア探索(career exploration)は知覚された雇用可能性(employability)と正の相関(rc = 0.35)があることが示された(DOI: 10.1016/j.jvb.2021.103645)。
この研究は109の研究、34,969名の学生を対象としており、キャリア探索が就職活動の成功に重要であることを示している。
今回は、キャリア発達理論のエビデンスに基づいて、就活準備に役立つ仕事漫画5作品を選定した。
キャリア発達の心理学的基盤
キャリア探索とは
キャリア探索(career exploration)とは、キャリアに関する情報を収集するために、環境と自己を探索する活動を指す。
前述のメタ分析によると、キャリア探索は以下の成果と関連している:
- キャリア決定性(career decidedness): rc = 0.22
- 知覚された雇用可能性(perceived employability): rc = 0.35
- キャリア関連のサポート: rc = 0.33
Superのキャリア発達理論
キャリア心理学者のDonald Superは、キャリア発達は生涯を通じて進行すると提唱した。
特に大学生が該当する**「探索段階(15〜25歳)」**では、趣味、活動、初期の仕事経験を通じて自己概念を形成し、職業的アイデンティティを確立していく。
2024年のFrontiers in Psychologyの論文では、職業的アイデンティティの発達がキャリア発達と職業定着の鍵であることが指摘されている(DOI: 10.3389/fpsyg.2024.1425138)。
漫画で学ぶ意義
就活セミナーでは「業界研究」「企業分析」を学ぶが、「働くとはどういうことか」という本質的な問いに向き合う機会は少ない。
漫画は、様々な職業のリアルな日常を描いている。登場人物が仕事に悩み、成長していく姿を追体験することで、自分自身の仕事観を形成するきっかけになる。
就活準備に役立つ仕事漫画5選
1. 『働きマン』安野モヨコ ー 仕事への情熱と代償
『働きマン』は、週刊誌の編集者・松方弘子が「働きマン」モードで仕事に没頭する姿を描いた作品だ。
キャリア発達の観点から注目すべきは、この漫画が仕事への情熱とその代償を正直に描いている点だ。
弘子は仕事に全力を注ぐあまり、恋愛や私生活を犠牲にすることがある。しかし、それでも「良い記事を作りたい」という情熱が彼女を突き動かす。
キャリア研究では、**職業的アイデンティティ(vocational identity)**の確立が重要とされる。弘子は「編集者である自分」というアイデンティティを持っており、それが彼女の行動の原動力になっている。
就活を控えた大学生にとって、「自分はどこまで仕事に打ち込めるか」を考えるきっかけになる作品だ。
キャリア心理学的ポイント: 職業的アイデンティティの形成と、仕事への情熱。
2. 『重版出来!』松田奈緒子 ー チームで作る仕事の価値
『重版出来!』は、漫画雑誌の編集部を舞台に、新人編集者・黒沢心の成長を描く物語だ。
この漫画が優れているのは、**仕事の「社会的意義」**を丁寧に描いている点だ。
「重版出来」とは、本が売れて増刷されること。一冊の漫画が読者に届くまでには、編集者、漫画家、営業、印刷所、書店など、多くの人の努力が必要だ。
キャリア発達理論では、**仕事の意義(work meaning)**がモチベーションと持続性に重要であるとされる。『重版出来!』は、自分の仕事が社会にどう貢献しているかを可視化してくれる。
また、心が様々な人と関わりながら成長していく姿は、キャリア関連のサポートの重要性を示している。メタ分析でも、サポートとキャリア探索には正の相関(rc = 0.33)があることが確認されている。
キャリア心理学的ポイント: 仕事の社会的意義と、キャリアサポートの重要性。
3. 『左ききのエレン』かっぴー ー 才能と努力の現実
『左ききのエレン』は、広告代理店で働くデザイナー・朝倉光一と、天才アーティスト・エレンの物語だ。
キャリア発達の観点から興味深いのは、**「才能がない人はどう生きるべきか」**という問いに正面から向き合っている点だ。
光一は努力家だが、天才ではない。業界で上を目指すほど、自分の限界を突きつけられる。しかし、彼は「天才をサポートする側」としての自分の価値を見出していく。
キャリア研究では、**キャリア適応力(career adaptability)**の重要性が指摘されている。環境や状況の変化に応じて、自分のキャリア観を柔軟に修正できる力だ。光一の姿は、この適応力の実践例と言える。
就活で「自分には特別な才能がない」と悩む学生にとって、光一の生き方は一つのロールモデルになるだろう。
キャリア心理学的ポイント: キャリア適応力と、自分なりの価値の発見。
4. 『課長島耕作』弘兼憲史 ー 組織内キャリアのリアル
『課長島耕作』は、大手電機メーカーで働く島耕作が課長から社長へと昇進していく物語だ。
この漫画が就活準備に役立つのは、日本の大企業の組織文化がリアルに描かれている点だ。
派閥争い、人事異動、海外赴任、買収劇。教科書では学べない「会社の論理」を、島耕作の目を通して追体験できる。
Superのキャリア発達理論では、組織内でのキャリアパスも重要なテーマだ。昇進、異動、転職など、組織の中でどのようにキャリアを築いていくかを考える上で、『島耕作』シリーズは貴重な教材になる。
ただし、この作品は1980年代から連載が始まっており、現代とは異なる働き方も描かれている。その点を意識しながら読むことで、「日本の働き方はどう変わったか」を考えるきっかけにもなる。
キャリア心理学的ポイント: 組織内キャリアの理解と、時代による働き方の変化。
5. 『ブラックジャックによろしく』佐藤秀峰 ー 職業倫理と葛藤
『ブラックジャックによろしく』は、研修医・斉藤英二郎が医療の現実に直面し、葛藤する物語だ。
キャリア発達の観点から注目すべきは、**職業倫理(professional ethics)**の問題を正面から描いている点だ。
「患者のために最善を尽くしたい」という理想と、「病院の経営」「保険制度の限界」といった現実の間で、斉藤は何度も葛藤する。正解のない問いに向き合い続ける姿は、どの職業にも通じる普遍的なテーマだ。
研究によると、職業的アイデンティティには「価値観」が深く関わっている。自分がどのような価値観を持って仕事に臨むかを考える上で、この漫画は強烈な問いを投げかけてくる。
就活で「やりがい」を求める学生は多いが、「やりがいと現実の矛盾にどう向き合うか」を考えている学生は少ない。『ブラックジャックによろしく』は、その問いに向き合わせてくれる。
キャリア心理学的ポイント: 職業倫理と、理想と現実の葛藤。
キャリア発達段階別・漫画の読み方
| キャリアの関心 | 該当漫画 | 学べるポイント |
|---|---|---|
| 仕事への情熱を知りたい | 働きマン | 職業的アイデンティティ |
| 仕事の意義を考えたい | 重版出来! | 社会的貢献、チームワーク |
| 才能がないことに悩む | 左ききのエレン | キャリア適応力 |
| 会社組織を理解したい | 課長島耕作 | 組織内キャリア |
| 仕事の倫理を考えたい | ブラックジャックによろしく | 職業倫理 |
漫画から就活準備を進める3つの方法
1. 「なぜこの人は働くのか」を分析する
漫画の登場人物が働く理由を言語化してみる。お金のため?やりがいのため?社会貢献のため?自分自身の「働く理由」を考えるヒントになる。
2. 業界のリアルを知る
就活の業界研究では表面的な情報しか得られないことが多い。漫画は、その業界で働く人の日常や悩みをリアルに描いている。興味のある業界の漫画を読んでみよう。
3. 「理想と現実の矛盾」を考える
どの仕事にも理想と現実の矛盾がある。漫画の登場人物がその矛盾にどう向き合っているかを観察し、自分ならどうするかを考えてみる。
まとめ:「働く」を考えることがキャリア探索
就活は「どの会社に入るか」を決める活動だと思われがちだが、本質は**「自分はどのように働きたいか」を探索する活動**だ。
研究が示すように、キャリア探索は雇用可能性と正の相関がある。漫画を通じて様々な「働き方」を知ることは、立派なキャリア探索だ。
今回紹介した5作品は、それぞれ異なる角度から「働く」を描いている。就活を控えた大学生は、エントリーシートを書く前に、まずこれらの漫画を読んでみてほしい。
漫画の中で「この人の働き方、参考になる」と感じたとき、あなた自身のキャリア観も少しずつ形成されているはずだ。




