進路選択漫画おすすめ!価値観形成エビデンスで読む大学生の自己発見5選

進路選択漫画おすすめ!価値観形成エビデンスで読む大学生の自己発見5選

「何がしたいかわからない」という悩み

博士課程で認知科学を研究している僕は、大学生から「将来何がしたいかわからない」という相談を受けることがある。

興味深いことに、これは特別な悩みではない。むしろ、アイデンティティ形成の過程では極めて正常な状態だ。

2025年にFrontiers in Psychologyで発表された研究では、キャリア意思決定自己効力感(Career Decision-Making Self-Efficacy)と成長マインドセットには有意な正の相関があることが示された(DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1599906)。

この研究では、670名の大学生を対象に調査を行い、成長志向の思考と進路決定の自己効力感の間にr = 0.468(p < 0.01)という相関を発見している。

今回は、キャリア発達心理学のエビデンスに基づいて、進路選択と価値観形成を「体験的に学べる」漫画5作品を選定した。

進路選択の心理学的基盤

キャリア意思決定自己効力感とは

キャリア意思決定自己効力感(CDMSE)とは、「自分は適切なキャリア選択ができる」という自己への信頼感を指す。

2025年のFrontiers in Psychologyの研究では、構造化されたキャリア教育プログラムがCDMSEを向上させることが準実験的デザインで実証された(DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1612768)。

この研究では、5週間のキャリア計画教育を受けた学生群は、コントロール群と比較してキャリア適応力とCDMSEの両方が有意に向上した。

アイデンティティ発達の重要性

心理学者エリクソンの発達理論によれば、青年期から成人初期にかけての主要な発達課題は**「アイデンティティの確立」**だ。

Psychology and Aging誌に掲載された研究では、大学時代にアイデンティティを確立できなかった人でも、その後の人生で発達課題を達成できる可能性があることが示されている(DOI: 10.1037/pag0000537)。

つまり、「今」進路が決まっていなくても、探索を続けることが重要なのだ。

漫画で学ぶ意義

進路選択は「知識」だけでは解決しない。実際に悩み、選択し、その結果を引き受ける経験が必要だ。

しかし、漫画は安全な環境で進路選択の疑似体験を提供してくれる。キャラクターたちの葛藤や決断を追体験することで、自分自身の価値観を明確にするきっかけになる。

進路選択・価値観形成に役立つ漫画5選

1. 『宇宙兄弟』小山宙哉 ー 遅すぎる夢はない

宇宙兄弟 1巻

著者: 小山宙哉

宇宙飛行士を目指す兄弟の物語。30代からの進路変更と夢の追求を描く

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『宇宙兄弟』は、幼い頃に「二人で宇宙飛行士になる」と約束した兄弟の物語だ。

キャリア発達の観点から注目すべきは、主人公・六太が31歳で人生をやり直す決断をする点だ。

六太は大手自動車メーカーを解雇された後、かつての夢である宇宙飛行士を目指すことを決意する。「もう遅い」という周囲の声にもかかわらず、彼は挑戦を続ける。

研究によれば、アイデンティティの確立は青年期だけで完了するものではない。六太の姿は、何歳からでも自分の価値観に基づいた選択ができることを示している。

僕自身、博士課程という「遅め」の進路を選んだ一人として、六太の姿には深く共感する。

キャリア心理学的ポイント: 年齢に関係なく、価値観に基づいた進路変更が可能であること。

2. 『ブルーピリオド』山口つばさ ー 「好き」を見つける転換点

ブルーピリオド 1巻

著者: 山口つばさ

優等生が美術の道に目覚め、東京藝大を目指す。高校3年での進路変更を描く

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『ブルーピリオド』は、成績優秀だが「何かが足りない」と感じていた高校生・矢口八虎が、絵を描くことに目覚める物語だ。

この漫画が優れているのは、「好き」を見つける瞬間を丁寧に描いている点だ。

八虎は最初、美術に興味がなかった。しかし、ある日の早朝に見た渋谷の風景を絵に描いたとき、「これが自分のやりたいことだ」という確信を得る。

CDMSEの研究では、自己効力感と創造性傾向には正の相関があることが示されている(DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1585195)。八虎は絵を描く中で自己効力感を高め、それがさらなる挑戦への動機づけになっていく。

キャリア心理学的ポイント: 「好き」の発見が進路選択の自己効力感を高めること。

3. 『銀の匙 Silver Spoon』荒川弘 ー 「何がしたいかわからない」からの出発

銀の匙 Silver Spoon 1巻

著者: 荒川弘

進学校から農業高校へ。何がしたいかわからない状態からの自己発見を描く

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『銀の匙』は、進学校から逃げ出した主人公・八軒勇吾が北海道の農業高校で成長していく物語だ。

キャリア発達の観点から特に興味深いのは、八軒が**「何がしたいかわからない」という状態**から物語が始まる点だ。

周囲の農業高校生は「酪農家を継ぐ」「獣医になる」と明確な目標を持っている。しかし八軒には目標がない。この「目標がないこと」への焦りと向き合いながら、彼は徐々に自分の価値観を見つけていく。

エリクソンの発達理論では、アイデンティティ形成には**「探索(モラトリアム)」の期間**が必要とされる。八軒の3年間は、まさにこの探索期間の物語だ。

僕も学部時代、「研究者になりたい」という漠然とした思いはあったが、具体的な専門分野は決まっていなかった。八軒のように、様々な経験を通じて自分の方向性を見つけていった。

キャリア心理学的ポイント: 「わからない」状態を受け入れ、探索を続けることの重要性。

4. 『バクマン。』大場つぐみ・小畑健 ー 夢と現実のバランス

バクマン。 1巻

著者: 大場つぐみ小畑健

中学生二人が漫画家を目指す。夢を追う決断と現実的な戦略を描く

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『バクマン。』は、漫画家を目指す中学生二人の物語だ。

この漫画が進路選択の教材として優れているのは、夢を追うことと現実的な戦略の両方を描いている点だ。

主人公たちは「漫画家になりたい」という夢を持つだけでなく、「ジャンプで連載を勝ち取る」という具体的な目標を設定し、そのための戦略を立てる。編集者との関係、読者アンケートの分析、ライバルとの競争。夢を実現するための「仕事」の側面がリアルに描かれている。

研究によれば、キャリア意思決定自己効力感は具体的な計画と行動によって向上する。『バクマン。』の主人公たちは、まさにこの「計画的行動」を実践している。

キャリア心理学的ポイント: 夢を具体的な目標と計画に落とし込むことの重要性。

5. 『BLUE GIANT』石塚真一 ー 情熱だけで進む道

BLUE GIANT 1巻

著者: 石塚真一

仙台の高校生がジャズサックス奏者として世界一を目指す。純粋な情熱を描く

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『BLUE GIANT』は、仙台の高校生・宮本大がジャズサックス奏者として世界一を目指す物語だ。

この漫画が他の進路選択漫画と異なるのは、主人公が論理的な分析や計画ではなく、純粋な情熱で進路を決めている点だ。

大は「なぜジャズなのか」を論理的に説明できない。ただ、サックスを吹いているときだけ「生きている」と感じる。その感覚だけを頼りに、彼は音楽の道を選ぶ。

興味深いことに、アイデンティティ研究では**物語的アイデンティティ(narrative identity)**の重要性が指摘されている。自分の人生をどのような物語として語るか——大は「世界一のジャズプレイヤーになる男」という物語を生きている。

キャリア心理学的ポイント: 論理を超えた「情熱」も進路選択の重要な要素であること。

進路選択段階別・漫画の読み方

段階該当漫画学べるポイント
何がしたいかわからない銀の匙探索期間の重要性
好きなことを見つけたいブルーピリオド「好き」の発見プロセス
夢はあるが不安バクマン。現実的な計画立案
遅いスタートに悩む宇宙兄弟年齢に関係ない挑戦
情熱はあるが言語化できないBLUE GIANT感覚で進む勇気

漫画から進路選択を学ぶ3つの方法

1. 登場人物の「決断の瞬間」を分析する

漫画の中で、キャラクターが重要な決断を下す場面に注目する。「なぜその選択をしたのか」「自分なら同じ選択をするか」を考えることで、自分の価値観が明確になる。

2. 「もしも自分だったら」を想像する

キャラクターの状況に自分を置き換えて考える。八軒のように「何がしたいかわからない」状態から、どのように探索を進めるか。六太のように「遅いスタート」を切る勇気があるか。

3. 複数の作品を比較する

異なる進路選択のパターンを比較することで、「正解は一つではない」ことを理解できる。論理的に計画を立てるバクマン。型と、情熱で突き進むBLUE GIANT型。どちらも有効なアプローチだ。

まとめ:進路選択は「探索」の旅

進路選択に「正解」はない。大切なのは、自分の価値観を探索し、それに基づいた選択をすることだ。

研究が示すように、キャリア意思決定自己効力感は成長マインドセットと正の相関がある。「まだ見つかっていない」ことを恐れるのではなく、「これから見つけていく」と考えることが重要だ。

今回紹介した5作品は、それぞれ異なる進路選択のパターンを描いている。「何がしたいかわからない」と悩んでいる人は『銀の匙』から、「遅すぎるかも」と不安な人は『宇宙兄弟』から読み始めてみてほしい。

漫画の中で「この人の選択、わかる」と感じたとき、あなた自身の価値観も少しずつ明確になっているはずだ。

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西村 陸

京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。

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