科学漫画おすすめ!視覚的学習と概念理解を促進する認知科学的メカニズム

科学漫画おすすめ!視覚的学習と概念理解を促進する認知科学的メカニズム

「化学式が覚えられない」「物理の法則が抽象的すぎてイメージできない」

理系科目でこうした悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。興味深いことに、認知科学の研究では、漫画で科学を学ぶことで抽象的な概念の理解が大幅に向上することが明らかになっています。

なぜ科学漫画で概念が理解しやすくなるのか

科学漫画が概念理解を促進する理由は、認知心理学者のPaivioが提唱した「二重符号化理論」で説明できます。

この理論によると、私たちの脳は視覚情報と言語情報をそれぞれ別々に処理しています。そして、両方のコードで同時に符号化された情報は、どちらか一方だけで符号化された情報よりも記憶に残りやすく、理解も深まるのです。

科学の教科書では、抽象的な概念を文字だけで説明しなければなりません。しかし漫画では、その概念を視覚的なイメージとして「見える化」できます。たとえば、細胞の働きを擬人化したキャラクターで表現したり、化学反応をドラマチックな場面で描いたりすることで、抽象から具象への変換が行われるのです。

この記事では、科学漫画の教育効果を認知科学の視点から解説し、概念理解に効果的なおすすめ作品を紹介します。

二重符号化理論:視覚と言語の同時処理が学習を強化する

Paivioの理論が示す漫画学習の効果

認知心理学者のアラン・パイヴィオが1986年に提唱した二重符号化理論は、なぜ漫画が学習に効果的なのかを説明する重要な理論的基盤です。

この理論の核心は、私たちの脳が言語的コード(文字・言葉の情報)とイメージ的コード(視覚的な情報)という2つの独立したシステムで情報を処理しているという発見にあります。

データによると、テキストだけで学習した場合と比較して、イラストを加えた学習では記憶保持率が向上します。さらに重要なのは、両方のコードで符号化された情報は、検索(思い出す)の際に2つの経路からアクセスできるため、想起が容易になるという点です。

漫画が二重符号化を自然に実現する

漫画は、セリフやナレーション(言語的コード)と絵やコマ割り(イメージ的コード)を同時に提示します。読者は意識することなく、両方のコードで情報を符号化しているのです。

たとえば、『はたらく細胞』で白血球が細菌と戦う場面を読むとき、読者は「白血球は体内に侵入した細菌を攻撃する」という言語的情報と、実際に戦闘している白血球のビジュアルイメージを同時に処理します。この二重の符号化が、免疫システムの理解を深めるのです。

これは心理学漫画の認知科学的分析でも解説した「状況モデル」の形成とも関連しています。

抽象概念の具象化:漫画が科学を「見える化」する

なぜ抽象的な概念は理解しにくいのか

科学の多くの概念は、目に見えない現象や抽象的な法則を扱っています。

原子の構造、電気の流れ、遺伝子の働き。これらは日常生活で直接観察できないため、言葉だけの説明では「イメージ」を形成することが困難です。認知科学では、イメージを形成できない情報は理解も記憶も困難になることが知られています。

漫画による具象化のメカニズム

慶應義塾大学の研究によると、主題の本質的な部分の絵を含む漫画は、文章の本質的な部分を要約的に強調するので理解を促進することが明らかになっています。

さらに興味深いことに、非本質的な部分を表した絵も、実験参加者が状況を視覚的に捉えることを助けることがわかりました。つまり、漫画の「背景」や「雰囲気」を描く絵も、概念理解に貢献しているのです。

仮説ですが、漫画は抽象的な科学概念に「物語的文脈」と「視覚的表現」を与えることで、読者の脳内に豊かな「状況モデル」を構築させているのだと考えられます。

研究が証明する科学漫画の学習効果

PMC掲載論文:非専攻学生への効果

CBE—Life Sciences Educationに掲載された研究は、科学漫画が学習に与える効果を実証した重要な研究です。

この研究では、科学漫画「Optical Allusions」を使用した授業の効果が測定されました。興味深いことに、非専攻学生(理系以外の学生)において、コンテンツスコアと科学への態度が統計的に有意に向上したことが報告されています。

研究者たちは、漫画が持つ「テキストと画像の複雑な相互作用」が、概念の伝達と学習モチベーションの向上に効果的であると結論づけています。

日本の研究:漫画学習の長期記憶保持効果

日本でも漫画学習の効果は実証されています。

向後・向後の研究(J-STAGE掲載)では、解答にあまり深い理解を必要としない場合は漫画による学習内容部分の提示が有効であり、推論や新しい事態への知識の適用が必要とされるテストでは、漫画によるストーリー部分を提示することが成績を有意に高めることが明らかになりました。

さらに、別府大学の研究(2017年)では、学習マンガによる教材で提示を行った方が学習内容の理解は3週間後まで保持されやすいことが示されています。これは歴史漫画の記憶定着効果で解説したエピソード記憶の働きとも関連しています。

ビジュアル言語:漫画を読む脳のメカニズム

ニール・コーンのビジュアル言語理論

認知科学者のニール・コーンは、漫画を「ビジュアル言語」として捉える理論を提唱しています。

コーンによると、私たちが漫画を読むとき、脳は言語を処理するときと同様のメカニズムを使っています。連続した画像の系列を理解し、物語の流れを把握し、登場人物の行動を予測する。これらはすべて、言語処理と共通する認知能力なのです。

科学漫画とビジュアルリテラシー

Journal of Science Communication(2024年)の研究によると、漫画は抽象的な科学トピックを視覚的表現に変換する効果的な教育ツールとして機能します。

特に注目すべきは、ユーモアの効果です。研究では、ユーモアは内発的動機づけを高め、学習を促進することが示されています。科学漫画が持つ「楽しさ」は、単なるエンターテインメントではなく、学習効果を高める重要な要素なのです。

認知科学的に効果的な科学漫画の選び方

選定基準:概念理解を最大化する3つの条件

科学漫画を選ぶ際、認知科学の視点から以下の3つの条件を考慮することをおすすめします。

条件1:抽象概念の視覚化が優れている

科学の抽象的な概念を、わかりやすいビジュアルで表現している作品を選びましょう。たとえば、細胞を擬人化したり、化学反応を冒険として描いたりする作品は、二重符号化を効果的に促進します。

条件2:物語性がある

単なる図解ではなく、ストーリーを通じて科学を学べる作品は、エピソード記憶として定着しやすくなります。登場人物に感情移入できる作品ほど、記憶に残りやすいのです。

条件3:科学的正確性が担保されている

漫画で形成された知識は長期間保持されます。だからこそ、監修者がついている作品や、科学的な正確性に配慮された作品を選ぶことが重要です。

おすすめ科学漫画:概念理解に効果的な作品

はたらく細胞:人体の仕組みをエピソード記憶で学ぶ

清水茜先生の『はたらく細胞』は、人体の細胞を擬人化した科学漫画の代表作です。

この作品の最大の特徴は、白血球、赤血球、血小板などの細胞を個性的なキャラクターとして描き、体内で起きる免疫反応や生理現象を「物語」として描いていることです。

たとえば、インフルエンザウイルスの感染から回復までの過程が、免疫細胞たちの「戦い」として描かれます。読者は登場人物に感情移入しながら、自然と免疫システムの仕組みを理解できるのです。

シリーズ累計930万部を突破した人気作であり、その教育効果は多くの読者に実証されています。

はたらく細胞(1)

著者: 清水茜

細胞擬人化漫画の傑作。体内の仕組みを楽しみながら学べる

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Dr.STONE:科学の原理を「再発見」する体験

稲垣理一郎先生原作、Boichi先生作画の『Dr.STONE』は、文明をゼロから科学で再建する物語です。

この作品のユニークな点は、主人公・石神千空が科学の原理を使って様々な発明を行う過程を、読者が「追体験」できることです。火薬の作り方、電気の発電方法、抗生物質の精製。教科書では暗記するだけだった科学知識が、「なぜそうなるのか」という原理レベルで理解できます。

仮説ですが、この作品が科学学習に効果的なのは、科学知識を「問題解決のツール」として描いているからだと考えられます。読者は「どうやって問題を解決するか」という文脈の中で科学を学ぶため、知識が実践的な形で記憶されるのです。

Dr.STONE

文明をゼロから科学で再建。科学の原理を楽しく学べる本格科学漫画

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天地創造デザイン部:生物学を「デザイン」の視点で学ぶ

蛇蔵先生ら原作の『天地創造デザイン部』は、動物の「デザイン」を通じて生物学を学べるコメディ作品です。

天界にある動物のデザイン室で、神様(クライアント)からの依頼に応えて様々な動物がデザインされていく。この斬新な設定により、「なぜキリンの首は長いのか」「なぜコアラはユーカリしか食べないのか」という生物学の疑問が、エンターテインメントとして楽しめます。

科学史家の多久和理実氏が監修を担当しており、科学的な正確性も担保されています。

天地創造デザイン部(1)

動物の「デザイン」を通じて生物学を学ぶ科学コメディ。専門家監修

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科学漫画の効果的な読み方:概念理解を深める

アクティブリーディングの実践

漫画を読むだけでなく、「なぜ」を意識的に考えることで、学習効果をさらに高められます。

読み方1:現象の原理を考える

漫画で描かれた科学現象について、「なぜこうなるのか」を考えながら読みましょう。『Dr.STONE』で千空が発明を行う場面では、その背後にある科学原理を意識することで、理解が深まります。

読み方2:日常との関連を探す

漫画で学んだ知識を日常生活と結びつけることで、知識の転移が促進されます。『はたらく細胞』を読んだ後、風邪をひいたときに「今、体内ではこういうことが起きているのか」と想像することで、知識が定着します。

読み方3:関連知識を調べる

漫画で興味を持った内容について、さらに調べることで学習が深まります。これは経済漫画の学習効果でも紹介したナラティブ学習の応用です。

まとめ:科学漫画で学ぶ認知科学的意義

科学漫画が概念理解を促進する理由は、認知科学的に説明できます。

二重符号化理論により視覚と言語の両方で情報が処理され、抽象概念の具象化により目に見えない科学現象がイメージ可能になる。さらに、物語構造がエピソード記憶としての定着を促し、ビジュアル言語として脳が効率的に情報を処理する。これらのメカニズムが、科学漫画の教育効果を支えているのです。

PMCの研究で非専攻学生の科学への態度が有意に向上したように、科学漫画は「理系嫌い」を克服する可能性を秘めています。

抽象的な科学概念を「見える化」し、「物語」として体験する。この視覚的学習のアプローチが、科学への扉を開くきっかけになるかもしれません。

漫画がどのように脳で処理されるかについてより深く知りたい方には、ニール・コーン著『マンガの認知科学』をおすすめします。ビジュアル言語理論の全体像を理解できる一冊です。

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この記事のライター

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西村 陸

京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。

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    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

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