歴史漫画おすすめ!エピソード記憶と二重符号化で記憶に残る認知科学的理由

歴史漫画おすすめ!エピソード記憶と二重符号化で記憶に残る認知科学的理由

「歴史の年号が覚えられない」「人物名と出来事がごちゃごちゃになる」

歴史学習でこうした悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。興味深いことに、認知科学の研究では、漫画で歴史を学ぶことで記憶定着が大幅に向上することが明らかになっています。

なぜ歴史漫画は記憶に残りやすいのか

歴史漫画が記憶に残りやすい理由は、私たちの脳が持つ「エピソード記憶」という仕組みにあります。

脳科学辞典によると、エピソード記憶とは「個人が経験した出来事に関する記憶」であり、時間・空間的文脈とともに記憶されるという特徴があります。認知心理学者のTulvingが1972年に提唱したこの概念は、なぜ物語形式の情報が記憶に残りやすいのかを説明してくれます。

教科書で「794年平安京」と覚えようとしても、それは単なる意味記憶(事実の記憶)にすぎません。しかし、漫画で桓武天皇が遷都を決意する場面を読むと、その出来事が「体験」としてエピソード記憶に刻まれるのです。

この記事では、歴史漫画の記憶定着効果を認知科学の視点から解説し、学習に効果的なおすすめ作品を紹介します。

エピソード記憶論

エピソード記憶研究の第一人者・太田信夫氏による専門書。Tulvingの理論を詳しく解説

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エピソード記憶が歴史学習を変えるメカニズム

文脈依存効果:物語が記憶の「フック」になる

エピソード記憶の重要な特徴は、経験した文脈との連合が保たれることです。

たとえば、「本能寺の変」を教科書で学ぶ場合と、漫画で明智光秀の葛藤や織田信長との確執を追体験する場合を比較してみましょう。後者では、登場人物の感情、場面の雰囲気、物語の展開といった豊かな文脈情報が記憶と結びつきます。

データによると、文脈情報が豊富なほど、後から情報を検索(思い出す)する際の手がかりが多くなり、想起が容易になります。これは認知心理学で「符号化特殊性原理」と呼ばれる現象です。

関連脳部位:海馬と前頭前皮質の働き

エピソード記憶の形成には、内側側頭葉(海馬と海馬傍回)と前頭前皮質が深く関わっています。

海馬は新しい情報を時間・空間的文脈と結びつけて記憶する役割を担っています。物語を読むとき、私たちの海馬は登場人物の行動、場所の変化、時間の流れを統合して「エピソード」として記録します。

前頭前皮質は、記憶の検索と統合を担当します。歴史漫画を読んだ後、「あの場面で○○が△△した」と思い出せるのは、前頭前皮質が海馬に記録されたエピソードを検索しているからです。

二重符号化理論:漫画が脳に刻まれる科学的理由

Paivioの二重符号化理論とは

認知心理学者のPaivioが1986年に提唱した二重符号化理論は、漫画学習の効果を説明する重要な理論です。

この理論によると、私たちの脳には2つの情報処理システムがあります。

1つ目は言語的コード(文字情報の処理)、2つ目はイメージ的コード(視覚情報の処理)です。そして、両方のコードで同時に符号化された情報は、どちらか一方だけで符号化された情報よりも記憶に残りやすいのです。

漫画は二重符号化の理想的なメディア

漫画は言語(セリフ、ナレーション)とイメージ(絵、コマ割り)を同時に提示します。これにより、読者の脳は自動的に二重符号化を行います。

たとえば、キングダムで信が「天下の大将軍になる」と宣言する場面を考えてみましょう。読者は文字情報(セリフ)と視覚情報(信の表情、構図)を同時に処理します。この二重の符号化が、シーンを強く記憶に刻み込むのです。

これは心理学漫画の認知科学的分析でも解説した「状況モデル」の形成にもつながります。漫画を読むことで、歴史的事象を視覚的に体験し、文脈情報が豊富なエピソード記憶として定着するのです。

研究が証明する歴史漫画の学習効果

Frontiers in Education の研究(2023年)

Frontiers in Educationに掲載された研究では、教員志望者を対象に漫画を使った歴史教育の効果が調査されました。

興味深いことに、研究参加者の**90.5%**が漫画を使った歴史教育に意欲を示しました。研究者たちは、視覚的ストーリーテリングが歴史への興味を促進し、「難しい」歴史を親しみやすくする効果があると結論づけています。

この結果は、漫画が単なるエンターテインメントではなく、教育ツールとして有効であることを示しています。

向後・向後の研究:漫画と長期記憶保持

日本の研究でも、漫画学習の効果が実証されています。

向後・向後の研究(別府大学紀要)では、「学習内容をマンガ形式で表現した場合、文章だけの表現に比較して、長期の記憶保持に効果的」であることが明らかになりました。

さらに重要なのは、ストーリーを漫画で提示することで「状況モデル」が構築され、新しい事態への知識の適用が促進されるという発見です。つまり、漫画で学んだ歴史知識は、他の文脈にも応用しやすいのです。

これは経済漫画の学習効果で紹介したナラティブ学習の効果とも共通する知見です。

認知科学的に効果的な歴史漫画の選び方

選定基準:記憶定着を最大化する3つの条件

歴史漫画を選ぶ際、認知科学の視点から以下の3つの条件を考慮することをおすすめします。

条件1:人物の心理描写が豊か

エピソード記憶は感情と結びつくと強化されます。登場人物の葛藤、喜び、悲しみが丁寧に描かれた作品は、読者の共感を呼び、記憶に残りやすくなります。

条件2:歴史的事実の正確性

漫画で形成されたエピソード記憶は長期間保持されます。だからこそ、歴史的事実が正確に描かれていることが重要です。監修者がついている作品や、参考文献が明示されている作品を選びましょう。

条件3:時系列が明確

エピソード記憶は時間的文脈と結びついて記憶されます。時系列が明確で、出来事の前後関係がわかりやすい作品は、歴史の流れを理解するのに効果的です。

おすすめ歴史漫画:記憶定着に効果的な作品

キングダム:中国古代史をエピソード記憶で学ぶ

原泰久先生の『キングダム』は、中国・春秋戦国時代を舞台にした大河ドラマです。

この作品の特徴は、秦の始皇帝(嬴政)と大将軍を目指す少年・信の成長物語を通じて、中国統一の歴史を追体験できることです。登場人物の心理描写が非常に豊かで、読者は自然と感情移入しながら歴史を学べます。

仮説ですが、キングダムを読んだ人が「秦の統一」について詳しいのは、単に情報量が多いからではなく、登場人物との感情的なつながりがエピソード記憶を強化しているからだと考えられます。

キングダム 1

累計発行部数1億部超。中国古代史を壮大なスケールで描く大河ドラマ

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講談社 学習まんが 日本の歴史:体系的な学習に最適

学習まんがの中でも、講談社の『学習まんが 日本の歴史』は認知科学的に優れた設計がされています。

2020年に刊行されたこのシリーズは、最新の歴史研究を反映しており、歴史的事実の正確性が担保されています。また、各巻で時代ごとの出来事が時系列で整理されているため、エピソード記憶の形成に適した構造になっています。

さらに、監修者として歴史学の専門家が参加しているため、学校の授業や受験勉強にも直結する内容になっています。

逃げ上手の若君:マイナーな時代を深く学ぶ

松井優征先生の『逃げ上手の若君』は、鎌倉時代末期から南北朝時代という、比較的マイナーな時代を舞台にしています。

この作品の魅力は、北条時行という実在の人物を主人公に、「逃げる」という一風変わった視点から歴史を描いていることです。2024年にアニメ化もされ、注目を集めています。

認知科学的に見ると、ユニークな視点で歴史を描くことは「精緻化リハーサル」を促進します。「なぜ逃げることが重要だったのか」と考えながら読むことで、その時代の政治状況や人間関係をより深く理解できるのです。

逃げ上手の若君 1

鎌倉時代末期〜南北朝時代を「逃げる」視点で描く新感覚歴史漫画

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歴史漫画の効果的な読み方:知識転移を促進する

状況モデルを意識した読み方

漫画を読むだけでなく、「状況モデル」を意識的に構築することで、学習効果をさらに高められます。

状況モデルとは、物語の内容を自分の頭の中で再構成した心的表象のことです。漫画を読みながら、「この時代の人々はどのような生活をしていたのか」「なぜこの出来事が起きたのか」と考えることで、より豊かな状況モデルが形成されます。

具体的には、以下のような読み方が効果的です。

読み方1:登場人物の立場で考える

「もし自分が信長だったら、どうしただろう」と考えることで、歴史的事象を自分事として捉えられます。これにより、エピソード記憶がより強固になります。

読み方2:因果関係を意識する

「なぜこの戦いが起きたのか」「この決断がどのような結果をもたらしたのか」と因果関係を考えながら読むことで、歴史の流れを構造的に理解できます。

読み方3:現代との関連を考える

「この時代の価値観は現代とどう違うのか」「この歴史的教訓は現代にも生かせるか」と考えることで、知識の転移が促進されます。

まとめ:歴史漫画で学ぶ科学的意義

歴史漫画が記憶に残りやすい理由は、認知科学的に説明できます。

エピソード記憶として時間・空間的文脈とともに記憶され、二重符号化により言語と視覚の両方で脳に刻まれる。さらに、状況モデルの形成により知識の転移が促進される。これらのメカニズムが、歴史漫画の学習効果を支えているのです。

Frontiers in Educationの研究で90.5%の教員志望者が漫画教育に意欲を示したように、漫画は教育ツールとしての価値が科学的に認められつつあります。

歴史を「覚える」のではなく「体験する」。エピソード記憶の力を借りて、歴史漫画で知識を自分のものにしてみてはいかがでしょうか。

エピソード記憶と学習についてより深く知りたい方には、太田信夫氏の『エピソード記憶論』をおすすめします。Tulvingの理論から最新の研究まで、エピソード記憶の全体像を理解できる一冊です。

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エピソード記憶研究の第一人者による専門書。記憶と学習の関係を科学的に理解できる

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この記事のライター

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西村 陸

京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。

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    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

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