認知科学の本おすすめ12選!脳科学から行動経済学まで研究者が厳選した必読書

認知科学の本おすすめ12選!脳科学から行動経済学まで研究者が厳選した必読書

「人間の心はどのように働いているのか」——この問いに、科学はどこまで迫れているのだろうか。

興味深いことに、認知科学という学問分野は、20世紀後半になってようやく確立された比較的新しい領域だ。しかし、その進展は目覚ましく、脳科学、心理学、言語学、人工知能研究などが融合しながら、人間の知性の本質に迫ろうとしている。

京都大学大学院で認知科学を研究している私自身、毎週のように新しい論文が発表され、教科書的な知識が更新されていく感覚を味わっている。だからこそ、この分野に興味を持つ方々に、確かな基盤を築くための書籍を紹介したいと思った。

今回は、認知科学・脳科学の分野から、入門書から専門書まで12冊を厳選した。学術的な厳密さを保ちながらも、一般読者にも理解しやすい本を選んでいる。

認知脳科学

著者: 嶋田総太郎

認知科学の全体像を体系的に学べる教科書。図解が豊富で、理系・文系問わず理解しやすい構成になっている。

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認知科学の基礎を固める入門書

『認知脳科学』——体系的学習の出発点

認知科学を本格的に学びたい方にまず手に取ってほしいのが、嶋田総太郎氏の『認知脳科学』だ。

『認知脳科学』の特徴は、その網羅性にある。視覚、運動、記憶、感情、社会性認知といった主要トピックを、神経科学的基盤と結びつけながら解説している。図解が豊富で、複雑な概念も視覚的に理解できるよう工夫されているのが、著者の教育者としての配慮を感じさせる。

データによると、認知科学を学ぶ学生の多くが、最初の段階で全体像を把握できずに挫折するという。『認知脳科学』は、まさにその問題を解決するために書かれた教科書だと言える。

認知脳科学

著者: 嶋田総太郎

明治大学教授による認知脳科学の教科書。視覚、記憶、感情など主要分野を網羅的にカバー。

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『心と脳——認知科学入門』——情報概念で心を理解する

安西祐一郎氏の『心と脳——認知科学入門』は、岩波新書という手軽な形式ながら、認知科学の本質を鋭く捉えた入門書だ。

『心と脳』が興味深いのは、「情報」という概念を軸に心と脳の働きを統一的に理解しようとするアプローチだ。従来の学問区分にとらわれず、横断的な視点から認知科学の全体像を描いている。元慶應義塾長である著者の知的な語り口は、読む者を知的探求の旅へと誘ってくれる。

心と脳――認知科学入門

岩波新書の認知科学入門書。情報概念を軸に、心と脳の働きを横断的に解説する。

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『学力喪失』——学びの認知科学的解明

2024年に発売された今井むつみ氏の『学力喪失』は、認知科学の知見を教育問題に応用した意欲的な一冊だ。

仮説として提示されているのは、乳幼児が持つ驚異的な「学ぶ力」が、なぜ学校教育の過程で失われていくのかという問題だ。今井氏は言語心理学・発達心理学の専門家として、学力不振の認知科学的メカニズムを解明し、回復への道筋を示している。

脳科学の最前線を知る

『脳と人工知能をつないだら』——脳AI融合の衝撃

紺野大地氏と池谷裕二氏の共著『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか』は、脳科学と人工知能研究の最前線を伝える刺激的な一冊だ。

興味深いことに、脳とコンピュータを直接接続する「ブレインテック」は、すでにSFの世界から現実へと移行しつつある。追試研究や臨床試験の結果を踏まえながら、著者たちは脳AI融合の可能性と課題を冷静に分析している。池谷氏は東京大学薬学部教授として、日本の脳科学研究をリードする存在だ。

『脳の意識 機械の意識』——意識は機械に宿るか

渡辺正峰氏の『脳の意識 機械の意識』は、「意識」という科学最大の謎に正面から挑んだ野心的な著作だ。

『脳の意識 機械の意識』で提示される「脳半球と機械半球を繋いで機械に意識を移植する」というアイディアは、一見すると荒唐無稽に思える。しかし、著者は神経科学の知見を精緻に積み上げながら、この仮説の科学的根拠を論じている。意識研究の現在地点を知る上で、避けては通れない一冊だ。

『脳の大統一理論』——自由エネルギー原理とは

乾敏郎氏と阪口豊氏による『脳の大統一理論』は、カール・フリストンが提唱した「自由エネルギー原理」を日本語で解説した貴重な入門書だ。

データによると、自由エネルギー原理は、知覚、認知、運動、思考、意識といった脳の多様な機能を、単一の原理で説明しようとする野心的な理論だ。「脳は推論するシステムだ」という基本命題から出発し、脳のあらゆる働きを予測誤差の最小化として理解する。難解な理論だが、『脳の大統一理論』はそのエッセンスを噛み砕いて紹介している。

『脳とクオリア』——意識の哲学的探求

茂木健一郎氏の『脳とクオリア』は、意識研究の古典的名著として、今なお読み継がれている。

「クオリア」とは、赤の赤らしさ、痛みの痛さといった、主観的な質感のことだ。原著論文を遡ると、この問題は「意識のハードプロブレム」として知られ、神経科学だけでは解決できない哲学的難問とされている。茂木氏は脳科学者としての視点から、この問題に挑んでいる。

言語と思考の認知科学

『言語の本質』——新書大賞2024受賞作

今井むつみ氏と秋田喜美氏の共著『言語の本質』は、新書大賞2024を受賞し、25万部を突破したベストセラーだ。

『言語の本質』が興味深いのは、オノマトペ(擬音語・擬態語)を手がかりに、言語の起源と本質に迫るアプローチだ。「ことばはどう生まれ、進化したか」という根本的な問いに、認知言語学の最新知見を駆使して答えようとしている。学術的な内容でありながら読みやすく、一般読者からも高い支持を得ている。

『ことばと思考』——言語が世界をピント合わせする

同じく今井むつみ氏の『ことばと思考』は、言語と認知の関係を探求した名著だ。

「言語が思考を規定する」というサピア=ウォーフ仮説は、言語学の古典的論争だ。今井氏は最新の実験心理学の知見を踏まえ、言語が私たちの世界認識にどのような影響を与えているかを検証している。異なる言語を話す人々が、同じ世界を異なる仕方で見ている可能性——そんな知的刺激に満ちた一冊だ。

ことばと思考

言語は思考を規定するか。認知言語学の視点から言語と認知の関係を探る。

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行動経済学と意思決定の科学

『ファスト&スロー』——ノーベル賞学者の名著

ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』は、行動経済学の分野でおそらく最も影響力のある著作だろう。

カーネマンは人間の思考を「システム1(直感的・自動的)」と「システム2(論理的・意識的)」の二重過程として捉える。原著論文で示された実験結果は、人間がいかに不合理な判断をするかを明らかにしている。投資判断、医療判断、日常の選択——あらゆる場面で私たちは認知バイアスの影響を受けている。

『予想どおりに不合理』——行動経済学の入門書

ダン・アリエリーの『予想どおりに不合理』は、行動経済学をより親しみやすく紹介した入門書として定評がある。

『予想どおりに不合理』の魅力は、ユーモアあふれる実験の数々だ。無料のチョコレートに人がどう反応するか、価格が味覚にどう影響するか——身近な例を通じて、人間の不合理さを実感できる。アリエリー氏はデューク大学教授として、行動経済学研究の第一人者だ。

進化心理学——人間の本性を理解する

『進化心理学から考えるホモサピエンス』——一万年変化しない価値観

アラン・S・ミラーとサトシ・カナザワの『進化心理学から考えるホモサピエンス』は、進化心理学の入門書として最適な一冊だ。

興味深いことに、現代社会に生きる私たちの心理は、狩猟採集時代に形成されたものだという。配偶者選び、家族関係、犯罪行動——『進化心理学から考えるホモサピエンス』は、これらの人間行動を進化の視点から解き明かす。北海道大学で初の外国人終身教授を務めたミラー氏の遺作でもある。

学術書で知的基盤を構築する

ここまで12冊の認知科学・脳科学関連書籍を紹介してきた。最後に、これらの本をどう読み進めるか、私なりの提案をしたい。

まず、『認知脳科学』か『心と脳』で全体像を把握することをお勧めする。その上で、自分の関心に応じて専門領域を深めていく。脳の仕組みに興味があれば『脳と人工知能をつないだら』や『脳の大統一理論』へ。言語と思考の関係に惹かれたなら『言語の本質』や『ことばと思考』へ。意思決定のメカニズムを知りたければ『ファスト&スロー』へ。

学術書を読む意義は、単に知識を得ることだけではない。科学者たちがどのように問いを立て、どのように検証し、どのような結論に至ったのか——そのプロセスを追体験することで、批判的思考力が養われる。

認知科学は、「人間とは何か」という根本的な問いに、科学の方法で迫ろうとする試みだ。この知的冒険に参加する準備は、これらの書籍で十分に整う。

認知脳科学

著者: 嶋田総太郎

認知科学の全体像を体系的に学べる教科書。まずはここから始めよう。

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西村 陸

京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。

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