心理学漫画おすすめ!認知科学が証明するフィクションの驚くべき学習効果

心理学漫画おすすめ!認知科学が証明するフィクションの驚くべき学習効果

「漫画で心理学を学んでも、本当に身につくのだろうか」

そう疑問に思ったことはありませんか。私も認知科学を研究する大学院生として、長らくこの問いに関心を持ってきました。結論から言えば、フィクションには科学的に実証された驚くべき学習効果があります。

スタンフォード大学の神経科学チームが行った研究では、興味深い発見がありました。フィクションを「注意深く」読んでいるとき、登場人物の気持ちと行動の両方に対応する脳の部位が同時に活性化することが確認されたのです。つまり、漫画で心理学を学ぶことは、単なる「楽な勉強法」ではなく、脳科学的に理にかなったアプローチなのです。

本記事では、なぜ漫画で心理学を学ぶと記憶に残りやすいのか、その認知科学的メカニズムを解説しながら、おすすめの心理学漫画と学術書を紹介していきます。

フィクションが脳に与える影響:最新研究が明かす驚きのメカニズム

物語体験は「擬似的な実体験」として脳に記録される

フィクションと脳の関係について、近年の神経科学研究は革新的な発見をもたらしています。

PLOS ONEに掲載された研究によると、フィクションを読んだときに反応する脳の部位は、同じ出来事を実際に体験したときに反応する部位と一致することが明らかになりました。これは何を意味するのでしょうか。

つまり、漫画で描かれた心理学的な場面——たとえば、発達障害を持つ子どもとの関わり方や、精神科患者との対話——を読む体験は、脳にとっては「擬似的な実体験」として処理されるのです。教科書で「〇〇障害の特徴は△△である」と読むのとは、まったく異なる神経回路が活性化しています。

スタンフォード大学の研究:共感の訓練としてのフィクション

スタンフォード大学の神経科学者とナタリー・フィリップス博士が行った「ジェーン・オースティンを読んでいるときの脳」と題された研究では、さらに興味深い知見が得られています。

被験者がフィクションを注意深く読んでいるとき、脳は登場人物の意識を能動的に模倣していることが確認されました。研究者たちは「われわれがフィクション作品を読んでいるとき、脳は他者の意識を能動的に模倣している」と結論づけています。

心理学漫画を読むという行為は、単に知識を得ることではありません。登場人物の心理状態を追体験することで、共感力そのものを訓練しているのです。これは特に、臨床心理士や公認心理師を目指す学生にとって重要な示唆です。

エモリー大学の発見:読書の効果は脳に「残る」

エモリー大学の研究チームは、長編小説を読んでいる被験者の「静止状態の脳」をMRIで定期的に検査しました。その結果、読書をやめた後も、言語処理を担う左側頭葉と、人の感覚に関連する中心溝において持続的な変化が確認されたのです。

この発見の意義は大きい。読書の効果は読み終わった瞬間に消えるのではなく、脳構造に永続的な影響を与えるということです。心理学漫画を通じて得た知識や感覚は、長期的に脳に刻まれると考えてよいでしょう。

なぜ漫画形式は学習に効果的なのか:エピソード記憶の科学

物語形式と記憶の深い関係

人間の記憶システムには、大きく分けて「意味記憶」と「エピソード記憶」があります。教科書で学ぶ知識は意味記憶として処理されますが、物語体験はエピソード記憶として処理されます。

脳科学辞典によれば、エピソード記憶は「個人が経験した出来事に関する記憶」であり、時間・空間的文脈とともに記憶され、単一の経験により成立するという特徴があります。記憶研究の第一人者であるTulving(1972)も、エピソード記憶は物語にたとえることができると指摘しています。

漫画で描かれた「発達障害の子どもが学校で困っている場面」は、時間と空間の文脈を持った「エピソード」として記憶されます。「発達障害とは〇〇である」という定義を覚えるよりも、はるかに深く、長く記憶に残るのです。

J-STAGEの研究が示すマンガの学習効果

J-STAGEに掲載された「マンガによる表現が学習内容の理解と保持に及ぼす効果」という研究は、漫画による学習効果を実証的に検証しています。

研究の結果、以下の3点が明らかになりました。

  1. 深い理解を必要としない場合:マンガによる学習内容提示が有効
  2. 推論や知識の適用が必要な場合:マンガによるストーリー部分が成績を有意に向上させる
  3. 関心度の向上:ストーリー部分を含む全体提示で、学習への関心が高まる

特に注目すべきは2点目です。心理学のような「知識の適用」が求められる分野では、物語を通じた学習が単なる情報提示よりも効果的なのです。

マンガの認知科学:「ビジュアル言語」としての漫画

ニール・コーンの革新的研究

認知科学者ニール・コーンは、漫画を「ビジュアル言語」として捉える新しい視点を提示しました。彼の著書『マンガの認知科学』では、連続した画像の系列を理解する認知能力が、言語処理と同様の過程を脳内で経ていることが示されています。

これは仮説ですが、私は漫画という形式が心理学学習に特に適している理由の一つとして、この「二重のエンコーディング」があると考えています。言語情報と視覚情報が同時に処理されることで、より堅牢な記憶痕跡が形成されるのではないでしょうか。

デフォルトモードネットワークと物語理解

物語の階層構造——細かいエピソードから大きなエピソードへ——を認識するとき、脳の「デフォルトモードネットワーク」が活性化することが知られています。

関連する脳部位として、側頭葉の前部領域(意味処理)、頭頂葉の角回(感覚情報の統合)、腹側内側前頭前野(意思決定)が挙げられます。これらの領域は、他者の心を理解する「心の理論」にも深く関与しています。

心理学漫画を読むという行為は、これらの脳領域を総動員する「認知的エクササイズ」なのです。

「深い読書」の重要性:注意が分散した読書では効果は得られない

ここで一つ注意点を述べておかなければなりません。スタンフォード大学の研究が示すように、フィクションの学習効果は「注意深く読む」ことが前提です。

研究者たちは、「熟読は単に言葉を読み取ることとは異なる体験」であり、「文学作品に描かれる感情の葛藤や道徳的ジレンマは、脳にとって激しいエクササイズである」と述べています。しかし同時に、「情報をすくい取るような読書や、タブを15個開いたままの読書では同じ効果は得られない」とも警告しています。

漫画だからといって「流し読み」してしまっては、せっかくの学習効果を十分に得られません。登場人物の心理状態に注意を向け、なぜそのような行動をとるのかを考えながら読むことが重要です。

おすすめ心理学漫画:脳科学的に効果的な作品選び

ここからは、認知科学的な観点から見て学習効果が高いと考えられる心理学漫画を紹介します。

『リエゾン ーこどものこころ診療所ー』:発達障害と愛着障害を深く学ぶ

ヨンチャン(作画)、竹村優作(原作)による『リエゾン』は、児童精神科を舞台にした作品です。発達障害、愛着障害、虐待など、現代の子どもたちが抱える心の問題を丁寧に描いています。

この作品が学習に効果的な理由は、主人公の佐山卓が自身も発達障害(ADHD)を持つ研修医であるという設定にあります。「当事者視点」と「専門家視点」の両方から物語が展開されるため、読者は多角的な理解を得ることができます。

臨床心理を学ぶ学生だけでなく、教育現場で働く方、子育て中の保護者にもおすすめできる作品です。

『ブラックジャックによろしく』精神科編:精神医療の現実を知る

佐藤秀峰による『ブラックジャックによろしく』は、第6回文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞を受賞した作品です。特に9巻から13巻の「精神科編」は、精神医療の現場を深く掘り下げています。

データによると、この作品は現在二次利用フリーで公開されており、誰でもアクセスできます。統合失調症患者への偏見、精神科医療の制度的問題、患者と医療者の関係性など、心理学・精神医学を学ぶ上で避けて通れないテーマが真正面から描かれています。

ブラックジャックによろしく(1)

著者: 佐藤秀峰

第6回文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞。精神科編(9-13巻)が特におすすめ

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フィクションと脳の関係を深く学ぶ学術書

心理学漫画の学習効果を最大化するためには、なぜフィクションが脳に効くのかを理論的に理解することも重要です。以下の3冊は、物語と脳の関係を科学的に解説した良書です。

『マンガの認知科学』:ビジュアル言語の科学

ニール・コーンによる本書は、認知科学・言語学・認知心理学・認知神経科学の観点からマンガ読解の仕組みを探る入門書です。「なぜ漫画を読むと内容が理解できるのか」という根本的な問いに、科学的なアプローチで答えています。

漫画好きの方が自分の「読み」を科学的に理解したい場合にも、研究者が漫画の認知プロセスを学びたい場合にも、おすすめできる一冊です。

『記憶は実在するか ナラティブの脳科学』:物語と記憶の関係

ダブリン大学教授ヴェロニカ・オキーンによる本書は、記憶と物語(ナラティブ)の関係を脳科学から解明しています。

私たちの記憶は、実は「物語」として構成されているという視点は非常に示唆的です。心理学漫画で得た知識が、なぜ教科書的知識よりも「使える」形で記憶されるのか。その答えがこの本にあります。

『脳が読みたくなるストーリーの書き方』:物語の神経科学

リサ・クロンは、UCB卒業後にワーナー・ブラザーズのストーリー・コンサルタントを務めた経歴を持つ著者です。本書は「書き手」向けの本ですが、神経科学を応用した物語論として、読者にとっても非常に参考になります。

なぜある物語は心に響き、別の物語は響かないのか。脳科学的な観点からその違いを理解することで、心理学漫画の「読み方」も深まります。

脳が読みたくなるストーリーの書き方

神経科学を応用した物語論。ストーリー・コンサルタントによる実践的な一冊

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今日から実践できる「効果的な心理学漫画の読み方」

最後に、認知科学の知見を踏まえた、効果的な心理学漫画の読み方を3つ紹介します。

1. 「注意深い読書」を意識する

先述の通り、フィクションの学習効果は「注意深く読む」ことが前提です。スマートフォンの通知をオフにし、静かな環境で読むことをおすすめします。「流し読み」ではなく、登場人物の心理状態を想像しながら読みましょう。

2. 読後に「言語化」する

エピソード記憶を意味記憶に変換するためには、読後の言語化が効果的です。たとえば「今日読んだリエゾンの話では、愛着障害の子どもが〇〇という行動をとっていた。これは△△という心理メカニズムが背景にあるのではないか」といった形で、自分の言葉でまとめてみてください。

3. 学術的知識と照合する

漫画で得た知識を、教科書や論文の記述と照合することで、理解がより深まります。自己肯定感の脳科学の記事で紹介したような神経科学の基礎知識があると、漫画の描写をより深く理解できるようになります。

まとめ:漫画で心理学を学ぶ科学的意義

本記事では、フィクションが脳に与える学習効果について、最新の認知科学研究を紹介しながら、おすすめの心理学漫画を紹介してきました。

重要なポイントをまとめます。

  • フィクション体験は「擬似的な実体験」として脳に記録される
  • 物語形式はエピソード記憶として処理され、長期的に保持されやすい
  • 漫画の「ビジュアル言語」は、言語と視覚の二重エンコーディングを可能にする
  • ただし「注意深い読書」が効果の前提である

心理学を学びたいが専門書は敷居が高いと感じている方、臨床現場のイメージを持ちたい心理学専攻の学生、そしてフィクションの学習効果に科学的な関心を持つ方——それぞれの目的に応じて、本記事で紹介した漫画や学術書を手に取っていただければ幸いです。

最後に、マンガと脳の関係を科学的に理解したい方には、ニール・コーンの『マンガの認知科学』を強くおすすめします。漫画を読むという日常的な行為が、いかに高度な認知プロセスであるかを知る喜びがあります。

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西村 陸

京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。

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    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

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