レビュー
概要
私たちはマンガのストーリーを、どうやって理解しているのか。絵は言語として、どう働くのか。
本書は、マンガを形づくる「ビジュアル言語」の理論を、認知科学者でありコミック作家でもあるニール・コーンが提唱し、言語学・認知心理学・認知神経科学・比較文化学の観点から検証していく一冊です。マンガが好きな人ほど「なんとなく分かっている」ことを、構造として見えるようにしてくれます。
「マンガのコマ割りや構図がうまい」と言うとき、私たちは何を見て“うまい”と感じているのか。読むテンポが気持ちいい作品と、読みにくく感じる作品の差はどこにあるのか。そういう“感覚の理由”を、言葉にしていく本だと思いました。
読みどころ
- 「ビジュアル言語入門」から始まり、マンガ表現を“言語のように”捉えるための前提が揃うところ
- 第1部で「ビジュアル語彙」「ビジュアル言語文法」「コマの配置構造による視線誘導」「ビジュアル言語の認知」と、構造→読み→認知の順で段階的に理解できるところ
- 第2部で「アメリカ」「日本」「中央オーストラリア」のビジュアル言語を扱い、文化差を含めて“当たり前”が相対化されるところ
- マンガ研究の新領域として、夏目房之介さんのコメントが紹介されており(「力技に震撼する」趣旨)、学術と実作の距離が近いテーマだと伝わってくるところ
この本が扱う「問い」
紹介文にも、次のような問いが置かれています。
- 私たちはマンガのストーリーをどうやって理解しているのか?
- 絵は言語としてどのように働くのか?
- マンガ読解の仕組みのカギになる「ビジュアル言語」の構造とは何か?
マンガを“作品”として語るのではなく、“読みの仕組み”として語るので、普段は無意識にやっていることが、急にクリアになります。
本の具体的な内容(章立てで)
本書の構成は、次のように整理されています。
第1章 ビジュアル言語入門
まず「絵が言語としてどう働くのか」という入口をつくる章です。ここで“マンガを読む”という行為が、どんな要素の組み合わせで成立しているのかの視点が入ります。
第1部 ビジュアル言語の構造(第2章〜第6章)
第1部は、ビジュアル言語を構造として扱うパートです。
- 第2章:ビジュアル語彙(1)—ビジュアルな形態
- 第3章:ビジュアル語彙(2)—コマと構文
- 第4章:ビジュアル言語文法—物語構造
- 第5章:コマの配置構造による視線誘導
- 第6章:ビジュアル言語の認知
マンガの「コマ」「配置」「物語」を、読む側の理解プロセスと接続して見ていくので、作り手・読み手どちらにとっても発見が出やすいと思います。
第2部 世界のビジュアル言語(第7章〜第10章)
第2部は、ビジュアル言語を文化圏の違いとして扱うパートです。
- 第7章:アメリカのビジュアル言語
- 第8章:日本のビジュアル言語
- 第9章:中央オーストラリアのビジュアル言語
- 第10章:等価原理
「日本のマンガの読み方」が、世界の中の一つのスタイルだと見えてくると、普段の読書体験の“前提”がズレて面白いです。
こんな読み方が合う
この本は、最初から最後まで一直線に読むより、気になった章から入って、あとから全体に戻る読み方でも十分楽しめます。
- まずは第1章で「ビジュアル言語」という土台を入れる
- 次に第5章(視線誘導)や第4章(物語構造)など、直感的に面白そうなテーマに飛ぶ
- 最後に第2部で、アメリカ/日本/中央オーストラリアの比較を読む
こういう順番にすると、「自分の読みのクセ」や「日本のマンガの当たり前」が見えやすくなります。
こんな人におすすめ
- マンガを「表現の技術」として分析したい人(作り手・読み手どちらでも)
- 認知科学や言語学の切り口で、マンガ研究を学びたい学生・研究者
- 「視線誘導」や「物語理解」を、理論で捉え直してみたい人
感想
マンガ好きって、読み慣れているぶん「読めて当たり前」になりがちなんですよね。でも本書は、その“当たり前”の中にあるルールや構造を、言語のように捉え直すので、読み終わったあとにマンガの見え方が変わります。
特に「コマと構文」「物語構造」「視線誘導」といった章題を見ているだけでも、マンガを「絵+セリフ」の組み合わせではなく、もっと複雑な“理解のシステム”として扱っているのが伝わってきます。純粋にエンタメとして楽しみたい人には少し理論寄りに感じるかもしれませんが、マンガの面白さを“言葉にできる”ようになりたい人には、かなり刺激になる一冊だと思いました。
読み終わったあと、いつものマンガを開き直すと、「ここで視線を誘導しているのかも」「ここは“文法”としてはこういう役割なのかも」と、読みが二重になります。作品の楽しさを壊すというより、むしろ“楽しみ方が増える”方向。マンガの読書体験を、もう一段深くしたい人におすすめです。
マンガを「好き」で終わらせず、研究の入口までつなげたい人にも向いた本だと思いました。