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『イン・ザ・メガチャーチ』レビュー|推し活と孤独を描く朝井リョウ新刊

『イン・ザ・メガチャーチ』レビュー|推し活と孤独を描く朝井リョウ新刊

推し活って、外から見ると「好きなものを応援しているだけ」に見えるかもしれません。

でも実際には、そこに救いも、居場所も、自己肯定感も、競争も、お金も、孤独も入ってきます。楽しいから続けているはずなのに、いつの間にか自分の生活の中心がそこに吸い寄せられていく。私もK-POPのカムバック情報を追っていた時期、楽しいのに情報を見逃すのが怖くて、夜中までスマホを閉じられないことがありました。

朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』が今読まれている理由は、まさにその曖昧な熱を小説にしているからだと思います。

日経BP 日本経済新聞出版の公式特設ページでは、本書は作家生活15周年記念作品として紹介されています。テーマとして並ぶのは、事実と解釈、連帯と暴走、成長と信仰、幸福と中毒、人生と孤独。かなり強い言葉が並んでいますが、読んでみると大げさではありません。

この記事では、『イン・ザ・メガチャーチ』の読みどころを、ネタバレを避けながら整理します。推し活をしている人も、していない人も、「自分は何に動かされているのか」を考えたくなる一冊です。

イン・ザ・メガチャーチ

著者: 朝井リョウ

朝井リョウによる作家生活15周年記念長編。ファンダム経済、推し活、現代社会の信仰と孤独を描く話題作。

『イン・ザ・メガチャーチ』レビュー|まず何の話なのか

『イン・ザ・メガチャーチ』は、アイドルグループとファンダム経済をめぐる長編小説です。

Billboard JAPANの朝井リョウさんへのインタビューでは、本書はファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側という3つの視点から、人の心を動かす物語の功罪を描く作品として紹介されています。

この「3つの視点」がかなり重要です。

もしファンの視点だけなら、推しに救われる物語として読めます。運営側だけなら、マーケティングやビジネスの怖さが前に出ます。でも本書は、その両方を同じ小説の中に置く。だから読者は、誰か一人だけを責めて安全な場所に立つことができません。

登場人物の一人、久保田慶彦は47歳のレコード会社員です。公式特設ページでは、かつて洋楽を担当していた久保田が、デビュー間近のアイドルグループ運営への協力を打診される人物として紹介されています。もう一人の重要人物である武藤澄香は19歳の大学生。海外志向に自信を失いかけているとき、男性アイドルに出会い、その存在を考えている間だけ悩みやストレスが軽くなることに気づきます。

この設定だけで、かなり現代的です。

「好き」があることで救われる。でもその「好き」は、誰かに設計されているかもしれない。自分の感情は本物なのに、その本物さすらビジネスに組み込まれていくかもしれない。その怖さが、本書の中心にあります。

『イン・ザ・メガチャーチ』の見どころ1|推し活を肯定にも否定にも逃がさない

この本のいちばん刺さるところは、推し活を単純に肯定しないし、雑に否定もしないところです。

推しがいる生活は、本当に人を救うことがあります。しんどい仕事のあとに動画を見る。次のライブを目標に生きる。SNSで同じ熱量の人とつながる。自分の生活だけでは見つけられなかった喜びが、一気に増える。

でも同時に、その熱は簡単に消費へ接続されます。

新曲、グッズ、特典、抽選、投票、イベント、限定コンテンツ。楽しいはずのものが増えるほど、「追いつかなきゃ」という焦りも増える。推しを応援しているのか、応援している自分を維持するために走っているのか、わからなくなる瞬間があるんですよね。

『イン・ザ・メガチャーチ』は、その境目をかなり容赦なく見ています。推し活をしている人を見下すのではなく、むしろなぜ人がそこに吸い寄せられるのかを丁寧に描く。だからこそ怖いです。

外側から「依存じゃない?」と言うのは簡単です。でも本人にとっては、その時間が確かに支えになっている。本書はその事実を消さないまま、救いと中毒が近い場所にあることを見せてきます。

『イン・ザ・メガチャーチ』の見どころ2|孤独の描き方が今っぽい

澄香の設定がかなり効いています。

彼女は、父の影響で洋楽や洋画を好きになり、海外志向を持ってきた人物です。でも大学に入ってから、その志向が本当に自分のものなのか、自信を失っていく。ここがすごく20代的なんですよね。

自分が好きだと思っていたものが、誰かの影響だったかもしれない。自分の夢だと思っていたものが、周囲に説明しやすいラベルだったかもしれない。そう気づき始める時期って、かなり不安です。

そんなとき、推しの存在は視界を狭くしてくれます。

視界が狭くなることは、悪いことのように見えます。でも、広すぎる自由や選択肢に疲れているとき、人はむしろ狭い場所に救われます。何を見ればいいか、何にお金を使えばいいか、誰と盛り上がればいいかが決まっている世界は、すごく楽なんです。

本書がうまいのは、その「楽さ」をちゃんと魅力として描きながら、同時に危うさも見せるところです。孤独だから推しに依存する、という単純な話ではありません。自分の輪郭が揺らぐとき、人は自分を固定してくれる物語を求める。その構造が見えてきます。

『イン・ザ・メガチャーチ』の見どころ3|ファンダムを宗教っぽく描く意味

タイトルにある「メガチャーチ」は、巨大な教会を連想させる言葉です。

もちろん本書は、宗教そのものを扱うだけの小説ではありません。けれど、ファンダムの熱狂を信仰に近いものとして描くことで、現代社会のかなり深いところに触れています。

推しを信じる。運営の物語を信じる。界隈の空気を信じる。自分たちだけがわかっている解釈を信じる。そうやって同じ物語を共有する人たちが集まると、そこには共同体ができます。

共同体は人を救います。でも、共同体は時々、人の視野も狭めます。

この両面を一冊の小説で読ませるから、『イン・ザ・メガチャーチ』は感想が割れやすいのだと思います。note株式会社の「みんなが語った本ランキング2025」では、本書が新着作品ランキング1位になっています。これは単に売れているというより、読んだ人が語りたくなる本だという意味でも大きいです。

読後に「推し活は救いか搾取か」と二択で語りたくなる。でも実際には、その二択で割り切れない。だからこそ感想が増えるし、議論が続く。今のランキング上位入りも、その語りたさとかなり相性がいいはずです。

『イン・ザ・メガチャーチ』の見どころ4|朝井リョウ作品としての怖さ

朝井リョウさんの小説は、読者に「自分は関係ない」と言わせてくれないところがあります。

『何者』では、就活と自己演出の痛さが自分に返ってくる。『正欲』では、社会の標準からこぼれる感覚を簡単に善悪へ分けられない。『生殖記』では、人間中心の見方そのものが揺さぶられる。

『イン・ザ・メガチャーチ』も、その流れの中にあります。

推し活やアイドルに詳しくない人でも、この本は他人事では終わりません。なぜなら、誰もが何かしらの物語に動かされているからです。

仕事の肩書き、恋愛の理想、SNSの評価、政治的な立場、自己啓発の言葉、ブランド、コミュニティ。私たちは、何かを信じることで前に進んでいます。その信じる対象がたまたま推しではないだけで、構造としてはかなり近いものがある。

好書好日の鴻巣友季子さんの評でも、本書は推し活の裏側にある物語の力へ踏み込む作品として読まれています。ここが本書の強さです。アイドル小説ではなく、現代人が何を信じて動くのかを問う小説として読めます。

『イン・ザ・メガチャーチ』が向いている人

  • 推し活やファンダム文化に救いと怖さの両方を感じる人
  • 朝井リョウ作品の、読後に自分へ返ってくる感じが好きな人
  • SNSの界隈の熱量に飲まれそうになったことがある人
  • 読後に誰かと話したくなる小説を探している人

逆に、推し活を明るく肯定する小説だけを期待すると、かなり重く感じるかもしれません。楽しいだけの作品ではなく、熱狂の構造を見せる作品です。

『イン・ザ・メガチャーチ』を読む前に押さえたい3つのこと

1. 推し活の知識がなくても読める

アイドル用語やファンダム文化に詳しくないと置いていかれるのでは、と思う人もいるかもしれません。でも本書の中心は、専門知識ではなく「人はなぜ何かを信じたくなるのか」です。

もちろん、オーディション番組やアイドル運営の空気を知っている人ほど細部に反応できます。でも、推し活をしていない人でも、職場の空気、SNSの正義感、自己啓発の言葉、ブランドの物語など、自分が参加している別の共同体に置き換えて読めます。

2. ビジネス小説として読むと見え方が変わる

ファン側の感情だけで読むと、澄香の没入が前に出ます。一方で、運営側の視点に寄せると、人の熱をどう設計するかというビジネス小説にも見えてきます。

この二重性が本書の面白いところです。誰かの救いになっているものが、同時に誰かの収益構造でもある。しかも、そのこと自体を単純に悪と言い切れない。今のエンタメ産業やSNSマーケティングを考えるうえでも、かなり刺激の強い読み方ができます。

3. 読後に自分の「信じているもの」が気になる

読み終わったあとに残るのは、推し活への結論ではありません。

むしろ、自分は何を信じて毎日を動かしているのか、何に視野を狭めてもらっているのか、という問いです。仕事で成果を出すことかもしれないし、SNSで正しい側にいることかもしれないし、好きな人や作品を応援することかもしれない。

本書は、その支えをすぐ否定しません。ただ、それが支えであると同時に、自分をどこかへ連れていく力でもあると見せてきます。だから読み終わったあと、少し静かに自分の生活を見返したくなります。

『イン・ザ・メガチャーチ』はネタバレなしでも十分語れる

この本は、細かい展開を知らないまま読んだほうがいいです。

特に後半は、人物の配置や視点の重なり方が効いてくるタイプなので、結末や大きな転換点を先に知るより、久保田や澄香の感覚に少しずつ巻き込まれていくほうが読書体験として強いと思います。

ただ、ネタバレなしでも言えることがあります。

これは、推し活の話でありながら、推し活だけの話ではありません。自分がどんな物語に動かされ、どんな共同体に安心し、どんな視野の狭さを選んでいるのかを考える小説です。

だから、アイドルに詳しくない人にも読めます。むしろ、自分はファンダムの外側にいると思っている人ほど、途中で足元が揺れるかもしれません。

『イン・ザ・メガチャーチ』レビューまとめ

『イン・ザ・メガチャーチ』は、朝井リョウさんが今の社会の熱狂をかなり正面から描いた長編です。

推し活は救いです。でも、救いは時々、人をのみ込みます。共同体は人を支えます。でも、共同体は時々、人の視野を狭めます。本書はその両方を、わかりやすい説教ではなく、小説の形で読ませてくる。

Amazonランキング上位で今注目されているのも納得です。話題だから読む価値があるというより、今の話題の中心にある「推し」「界隈」「孤独」「信仰」を一冊で考えられるから、読む価値があります。

読後に軽くはなりません。でも、今の自分が何に動かされているのかを考えたい人には、かなり刺さる一冊です。

イン・ザ・メガチャーチ

著者: 朝井リョウ

推し活とファンダム経済を入口に、現代社会の信仰と孤独を描く朝井リョウの話題作。読後に誰かと語りたくなる長編です。

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森田 美優

出版社勤務を経てフリーライターに。小説からビジネス書、漫画まで幅広く読む雑食系読書家。Z世代の視点から現代的な読書の楽しみ方を発信。

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