2025年ベストセラー本おすすめ10選!年間200冊読む編集長が選ぶ今年の必読書
「今年、どんな本が売れたんだろう」
年末が近づくと、私のもとにもこの質問が多く寄せられる。書店の年間ランキングを眺めながら、その年の日本人が何に興味を持ち、何を求めていたのかを考えるのは、編集者としての私の楽しみの一つだ。
2025年の出版業界は、いくつかの明確なトレンドを見せた。本屋大賞の影響力がさらに増し、SNS発のクリエイターが出版界でも存在感を示し、そして何より「親子で楽しめる本」への需要が顕著だった。年間200冊以上を読む私が、トーハン年間ベストセラーランキングから厳選した10冊を、その背景とともに紹介したい。
2025年ベストセラー本の全体像
今年のベストセラーランキングを俯瞰すると、興味深い傾向が見えてくる。
絵本・児童書の躍進
総合ランキングのトップに『大ピンチずかん』シリーズが君臨したことは、2025年の出版界を象徴する出来事だった。子供向けの本が総合で1位を獲得することは珍しく、コロナ禍以降の「家庭での読書時間の増加」が定着していることを示している。
SNS発クリエイターの台頭
YouTubeで絶大な人気を誇る雨穴の『変な地図』、ネット発のホラー作家・背筋の『近畿地方のある場所について』など、従来の出版ルートではないところからヒット作が生まれている。これは読者が「面白いコンテンツ」を発見する経路が多様化していることの表れだ。
ロングセラーの底力
発売から数年経っても売れ続ける『お金の大学』や『金のフレーズ』の存在も見逃せない。情報の質と実用性が高い本は、SNSでの口コミを通じて長く売れ続ける。これは出版社にとっても、著者にとっても希望のある話だ。
ジャンル別2025年ベストセラー本おすすめ
文学・小説部門
カフネ(阿部暁子)
2025年本屋大賞を受賞した本作は、沖縄を舞台にした群像劇だ。「カフネ」とはポルトガル語で「愛する人の髪を撫でる」という意味を持つ。
主人公の凪沙は、東京での生活に疲れ果て、沖縄の小さな町に移り住む。そこで出会う人々もまた、それぞれの傷を抱えている。決して劇的なドラマが起こるわけではない。ただ、日常の中で少しずつ人と人がつながり、癒されていく過程が丁寧に描かれる。
本屋大賞は「書店員が売りたい本」を選ぶ賞だが、今年この作品が選ばれた理由は明確だ。コロナ禍を経て、人々は派手な展開よりも「静かに寄り添ってくれる物語」を求めているのではないか。
近畿地方のある場所について(背筋)
ネット上で話題を呼んだモキュメンタリーホラーが書籍化され、大ヒットした。「モキュメンタリー」とは、フィクションをドキュメンタリー形式で描く手法のことだ。
本書は、ある雑誌のライターが「近畿地方のある場所」にまつわる怪異を調査するという体裁を取る。実在しそうで実在しない地名、妙にリアルな証言の数々。読み進めるうちに、現実とフィクションの境界が曖昧になっていく感覚がある。
ホラーというジャンルは、時代の不安を映す鏡だと私は考えている。この作品が多くの読者に支持された背景には、「何が本当で何が嘘かわからない」という現代社会への漠然とした不安があるのかもしれない。
謎の香りはパン屋から(土屋うさぎ)
第23回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。パン屋を舞台にした日常ミステリーという、ありそうでなかった設定が新鮮だ。
主人公はパン屋でアルバイトをする大学生。店で起こる小さな謎を解き明かしていくうちに、より大きな事件の真相に迫っていく。パンの香りが漂ってきそうな温かみのある描写と、緻密に組み立てられたミステリー要素のバランスが絶妙だ。
このミス大賞は新人作家の登竜門として知られるが、今年の受賞作は「読みやすさ」と「本格的な謎解き」を両立させた点が評価されたようだ。ミステリー初心者にもおすすめできる一冊だ。
ビジネス・実用書部門
改訂版 お金の大学(両@リベ大学長)
2020年の発売以来、累計200万部を突破したお金の入門書の改訂版。YouTubeチャンネル「両学長 リベラルアーツ大学」の登録者数は200万人を超え、その信頼性の高さが本書の売上にも直結している。
改訂版では、新NISAや最新の節税テクニックなど、2024年以降の制度変更に対応した内容にアップデートされている。「貯める・稼ぐ・増やす・守る・使う」という5つの力をバランスよく身につけることの重要性は、初版から変わらないメッセージだ。
私がこの本を評価する理由は、「お金の知識がない人を馬鹿にしない姿勢」にある。金融リテラシーの低さを責めるのではなく、「知らなかっただけ、これから学べばいい」というスタンスが、多くの読者の心をつかんでいる。
TOEIC L&R TEST 出る単特急 金のフレーズ(TEX加藤)
TOEIC対策本の定番中の定番。著者のTEX加藤氏は、TOEIC公開テストを120回以上受験し、990点を110回以上取得しているという驚異的な記録の持ち主だ。
本書が長年売れ続ける理由は単純で、「本当に出る単語だけを収録している」からだ。3年かけて吟味されたという1000語は、効率よくスコアアップを目指す受験者にとって、これ以上ない教材となっている。
資格試験の対策本は、信頼性がすべてだ。この本の場合、著者の実績がそのまま信頼の証になっている。
絵本・児童書部門
大ピンチずかん(鈴木のりたけ)
2025年、総合ランキング1位に輝いたのは、なんと絵本だった。子供が日常で遭遇する「大ピンチ」な状況を、ユーモアたっぷりに図鑑形式で紹介する本書は、発売以来シリーズ累計200万部を超える大ヒットとなった。
「牛乳をこぼした」「宿題を忘れた」「お母さんに怒られた」など、子供にとっては深刻な「大ピンチ」が、独特のイラストと解説で紹介される。面白いのは、それぞれのピンチに「大ピンチレベル」が設定されていることだ。
子供はもちろん、大人が読んでも思わず笑ってしまう。そして、「自分も子供の頃、こういうことで真剣に悩んでいたな」と懐かしくなる。親子で読める本の理想形だと私は思う。
パンどろぼう(柴田ケイコ)
パンに夢中な「パンどろぼう」が主人公の絵本シリーズ。可愛らしい見た目とは裏腹に、パンを盗むという設定がシュールで、子供だけでなく大人のファンも多い。
シリーズ累計500万部を突破し、グッズ展開も盛ん。絵本の枠を超えた「IPビジネス」として成功している好例だ。
私の息子(5歳)もこのシリーズの大ファンで、「パンどろぼうごっこ」と称して食パンを持って走り回ることがある。親としては複雑な気持ちだが、本を通じて想像力を膨らませる姿は微笑ましい。
ポケモン生態図鑑(株式会社ポケモン)
2025年6月発売と同時に大きな話題を呼んだ一冊。発売当日、Amazonではわずか53分で完売したという。
本書は、ポケモンを「生物学的」な視点から解説するという、ありそうでなかった企画だ。監修は東京大学の農学博士で、実際の生物学の知見をベースにポケモンの生態を考察している。
「ポケモンは架空の生き物なのに、なぜ生態を考える必要があるのか」という疑問を持つ人もいるだろう。しかし、フィクションを通じて科学的思考に触れる機会を作ることには大きな価値がある。子供の好奇心を学びにつなげる、素晴らしい試みだと思う。
エンタメ・その他部門
変な地図(雨穴)
YouTubeで人気のクリエイター・雨穴の書籍。彼の動画は「不動産ミステリー」と呼ばれるジャンルを確立し、独特の世界観で多くのファンを獲得している。
本書は、様々な「変な地図」を通じて、その土地にまつわる謎を解き明かしていく構成。雨穴の持ち味である「日常の中の違和感」を追求するスタイルが、紙の本でも存分に発揮されている。
YouTuberが出す本は玉石混交だが、雨穴の場合は「本でしかできない表現」を追求している点で、単なるファンアイテムではない価値がある。
怪獣8号(松本直也)
2024年にアニメ化され、2025年も引き続き売上を伸ばしたジャンプ作品。32歳の主人公・日比野カフカが、怪獣の力を手に入れながらも怪獣討伐を目指すという、少年漫画としては異色の設定だ。
「おじさん主人公」のヒット作が増えているのは、読者の年齢層が上がっていることの反映だろう。若い読者だけでなく、30代、40代の読者にも刺さる作品が求められている。
2025年の出版トレンドから見えること
今年のベストセラーを振り返ると、いくつかの重要な示唆が見えてくる。
「発見」のルートが多様化している
従来、本との出会いは書店か新聞・雑誌の書評が主流だった。しかし今年のランキングを見ると、YouTube、SNS、ネット小説など、様々なルートから本がヒットしている。これは出版社にとっては挑戦であり、同時にチャンスでもある。
「実用性」と「物語」の二極化
売れている本は、はっきりと二極化している。『お金の大学』のような「すぐに役立つ実用書」と、『カフネ』のような「心に寄り添う物語」。中途半端な本は、ますます売れにくくなっている。
親子で楽しむ読書の定着
絵本が総合ランキング1位を獲得したことは、象徴的だ。コロナ禍で増えた親子での読書時間は、一過性のブームではなく、新しい習慣として定着しつつある。
おわりに:本との出会い方
2025年も残りわずかとなった。今年、あなたはどんな本と出会っただろうか。
私は編集者として、また一読者として、毎年数え切れないほどの本と出会う。その中から「これは」と思える一冊に出会えた時の喜びは、何物にも代えがたい。
今回紹介した10冊は、いずれも2025年を代表する本だ。しかし、ベストセラーだから読むべきというわけではない。大切なのは、自分にとっての「カフネ」になる本を見つけることだ。
年末年始、少し時間ができたら、ぜひ本屋に足を運んでみてほしい。きっと、あなたを待っている一冊がある。









