批判的思考力の研究エビデンスで読む漫画おすすめ!論理力を鍛える5選

批判的思考力の研究エビデンスで読む漫画おすすめ!論理力を鍛える5選

「論理的に考える」とは具体的に何をすることか

博士課程で認知科学を研究している僕は、「論理的思考」という言葉の曖昧さにずっと違和感を抱いてきた。

「もっと論理的に考えろ」と言われても、具体的に何をすればいいのかわからない。そんな経験はないだろうか。

興味深いことに、2024年にFrontiers in Educationで発表された研究では、批判的思考力と学業成績には有意な相関があることが示された(DOI: 10.3389/feduc.2024.1423441)。

この研究では、批判的思考を「問題解決と意思決定に向けた思考アプローチ」と定義し、自己受容や環境への適応といった心理的幸福感と組み合わせることで学業成績が向上することを発見している。

今回は、認知科学のエビデンスに基づいて、批判的思考力を「体験的に鍛えられる」漫画5作品を選定した。

批判的思考力の認知科学的基盤

批判的思考とは何か

批判的思考(Critical Thinking)とは、「情報を客観的に分析し、論理的にデータや議論を評価し、慎重な分析を通じて創造的な解決策を開発する、合理的で反省的なスキル」と定義される。

具体的には以下の要素が含まれる:

  • 演繹的推論: 一般的な前提から特定の結論を導く(「すべてのAはBである。CはAである。したがってCはBである」)
  • 帰納的推論: 特定の観察から一般的な結論を導く(「これまで見た白鳥はすべて白い。したがって白鳥は白い」)
  • 仮説検証: 仮説を立て、証拠に基づいて検証する
  • メタ認知: 自分の思考プロセスを監視し、調整する

脳科学的知見

2025年にBrain誌で発表された研究では、右前頭葉のネットワークが論理的思考と問題解決に不可欠であることが247名の患者を対象とした病変欠損マッピング研究で実証された(DOI: 10.1093/brain/awaf062)。

特に、類推的推論(アナロジー)と演繹的推論の両方において、右前頭葉の損傷が顕著な影響を与えることが示されている。

メタ認知の重要性

研究によると、メタ認知(自分の思考を監視し調整する能力)が批判的思考の促進に不可欠であることが繰り返し確認されている。

継続的な自己評価や内省的な質問といったメタ認知的戦略を意識的に適用することで、大学生の認知プロセスの監視と調整が促進される。

批判的思考力を鍛える漫画5選

1. 『名探偵コナン』青山剛昌

名探偵コナン 1巻

著者: 青山剛昌

高校生探偵が小学生の姿で難事件を解決。演繹的推論と観察力の教科書として最適

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『名探偵コナン』は、高校生探偵・工藤新一が薬で小学生の姿になりながら難事件を解決していく物語だ。

批判的思考の観点から注目すべきは、この漫画が描く演繹的推論のプロセスだ。

コナンの推理は、常に「観察」→「仮説立案」→「検証」→「結論」という論理的なステップを踏む。現場の状況から複数の仮説を立て、証拠に基づいて絞り込んでいく。

特に優れているのは、コナンが**「消去法」**を多用する点だ。「この人物には動機がない」「このアリバイは成立する」と一つずつ可能性を消去し、最終的に犯人を特定する。これは論理学における「背理法」の実践例でもある。

学部時代、研究室の先輩から「仮説を立てるときはコナンを見習え」と言われたことがある。複数の仮説を同時に検討し、証拠に基づいて絞り込む姿勢は、研究にも通じる。

認知科学的ポイント: 演繹的推論と仮説検証のプロセスの可視化。

2. 『約束のネバーランド』白井カイウ・出水ぽすか

約束のネバーランド 1巻

孤児院の子どもたちが過酷な運命に立ち向かう。論理的計画と批判的分析の物語

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『約束のネバーランド』は、孤児院で育った子どもたちが衝撃の真実に気づき、脱出を計画する物語だ。

この漫画が優れているのは、主人公たちが**「批判的に情報を分析する」**プロセスを詳細に描いている点だ。

孤児院の「ママ」が本当に味方なのか、どこに監視の目があるのか、脱出ルートは何通り考えられるのか。子どもたちは常に「見えている情報」と「隠されている情報」を区別し、論理的に状況を分析する。

特に印象的なのは、前提を疑う姿勢だ。「ここは幸せな孤児院である」という前提を疑うことから物語は始まる。批判的思考の核心は、まさにこの「当たり前を疑う」ことにある。

認知科学的ポイント: 前提を疑う批判的分析と、限られた情報からの論理的推論。

3. 『MASTERキートン』浦沢直樹・勝鹿北星

MASTERキートン 完全版 1巻

考古学者にして元SAS隊員が世界各地で事件を解決。多角的視点と帰納的推論の名作

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『MASTERキートン』は、考古学者であり元イギリス特殊空挺部隊(SAS)隊員の平賀=キートン・太一が、世界各地で事件に遭遇し解決していく物語だ。

批判的思考の観点から注目すべきは、キートンの**「多角的視点」**だ。

キートンは考古学者としての知識、軍人としての経験、保険調査員としてのスキルを組み合わせて問題を解決する。一つの事象を複数の視点から分析することで、他の人には見えない真実を見抜く。

また、この漫画は帰納的推論の優れた教材でもある。断片的な証拠や過去の事例から、一般的な結論や法則を導き出すプロセスが丁寧に描かれている。

博士課程の研究でも、異分野の知識を組み合わせることで新しい発見が生まれることがある。キートンの多角的なアプローチは、学際的研究の姿勢そのものだ。

認知科学的ポイント: 多角的視点と帰納的推論、学際的知識の統合。

4. 『プラネテス』幸村誠

プラネテス 1巻

著者: 幸村誠

宇宙のゴミ回収業者たちの物語。科学的思考と倫理的判断の葛藤を描く傑作SF

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『プラネテス』は、近未来の宇宙で「デブリ(宇宙ゴミ)回収」を仕事とする人々の物語だ。

この漫画が批判的思考の教材として優れているのは、科学的思考と倫理的判断の両方を描いている点だ。

宇宙開発の現場では、物理法則に基づいた論理的な判断が求められる。軌道計算、燃料消費、時間制約。すべてが数値と論理で決まる世界だ。

しかし同時に、「宇宙開発は誰のためにあるのか」「先進国と途上国の格差をどう考えるか」といった倫理的な問いも投げかけられる。

批判的思考には、論理的な正しさだけでなく、価値判断を含めた総合的な思考が求められる。『プラネテス』は、この両面を深く考えさせてくれる。

認知科学的ポイント: 科学的思考と倫理的判断の統合、価値判断を含む批判的分析。

5. 『MONSTER』浦沢直樹

MONSTER 1巻

天才外科医が救った少年の正体を追う。心理的推論と動機分析のサスペンス巨編

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『MONSTER』は、天才外科医のテンマが、かつて命を救った少年の正体を追う物語だ。

批判的思考の観点から注目すべきは、この漫画が描く心理的推論だ。

テンマは「なぜこの人物はこのような行動を取るのか」という問いを常に抱えている。行動の背後にある動機、過去の経験、心理的メカニズム。人間の行動を論理的に分析しようとする姿勢が全編を通じて描かれる。

また、この漫画は**「善悪の二項対立を超えた思考」**を促す。単純に「良い人」「悪い人」と判断するのではなく、なぜそうなったのかを深く考えさせる。

批判的思考は、単に論理的であるだけでなく、複雑な現象を単純化せずに理解しようとする姿勢でもある。

認知科学的ポイント: 心理的推論と動機分析、二項対立を超えた複雑な思考。

批判的思考スキル別・漫画の読み方

スキル該当漫画学べるポイント
演繹的推論名探偵コナン一般原則から特定の結論を導く
帰納的推論MASTERキートン具体例から一般法則を導く
前提を疑う約束のネバーランド当たり前を批判的に分析する
多角的視点MASTERキートン、プラネテス複数の視点から分析する
倫理的判断プラネテス価値判断を含む思考
心理的推論MONSTER行動の動機を分析する

漫画で批判的思考力を鍛える3つの方法

1. 登場人物の推論を追跡する

読みながら「この人物はどのような情報から、どのような結論を導いているか」を意識的に追跡する。推論のステップを言語化することで、自分の思考力も向上する。

2. 自分なら別の結論を出すか考える

「自分がこの情報を持っていたら、同じ結論に至るか」を考える。別の結論があり得る場合、なぜその結論に至らなかったかを分析する。

3. 前提を意識的に疑う

物語の中で「当たり前」とされていることを洗い出し、「本当にそうか?」と問いかける。この習慣が、日常生活での批判的思考力につながる。

まとめ:批判的思考は「筋トレ」である

批判的思考力は、生まれつきの才能ではなく、トレーニングで向上する「認知的筋力」だ。

研究が示すように、メタ認知的な戦略を意識的に適用し、継続的に練習することで、批判的思考力は確実に向上する。

今回紹介した5作品は、それぞれ異なる批判的思考のスキルを深く描いている。論理的な推論力を高めたい人は『名探偵コナン』から、多角的な視点を身につけたい人は『MASTERキートン』から始めてみてほしい。

漫画の中で「なるほど、そういう推論か」と感心できるようになったとき、あなた自身の批判的思考力も確実に成長しているはずだ。

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西村 陸

京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。

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