2025年の認知科学本おすすめ!今年最も重要だった5つの研究成果

2025年の認知科学本おすすめ!今年最も重要だった5つの研究成果

2025年も残りわずかとなりました。認知科学を専門に研究している私にとって、今年は「統合」の年でした。

意識研究、記憶研究、AI研究——これまで別々に発展してきた分野が、「自由エネルギー原理」や「予測符号化」といった統一的フレームワークのもとで結びつき始めたのです。

本記事では、2025年に発表された認知科学の重要な研究成果を5つの分野から振り返り、それぞれの分野を深く学ぶためのおすすめ書籍を紹介します。年末年始の読書の参考にしていただければ幸いです。

脳の本質 いかにしてヒトは知性を獲得するか

2024年11月発売の最新刊。知覚から意識まで、脳の発達原理を「予測と予測誤差」の観点から統一的に解説

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1. 意識研究の進展——統合情報理論の実験的検証

「意識とは何か」という問いは、哲学の時代から人類を悩ませてきました。2025年は、この根源的な問いに対して実験的アプローチが大きく前進した年でした。

統合情報理論(IIT)とは

ジュリオ・トノーニが提唱した統合情報理論(Integrated Information Theory)は、意識を「情報の統合度」で定量化しようとする野心的な理論です。

興味深いことに、この理論は意識を持つかどうかを数学的に計算可能にすることを目指しています。意識の度合いを表す「φ(ファイ)」という指標が提案されており、φが高いほど意識の程度が高いとされます。

2025年の進展:脳オルガノイドでの検証

2025年、複数の研究チームが脳オルガノイド(ヒトの幹細胞から作られた「ミニ脳」)を用いて、統合情報理論の予測を検証する実験を報告しました。

オルガノイド内で情報が統合される過程の一部を可視化し、理論の予測と高い相関があることが示されたのです。もちろん、これで「意識の謎が解けた」わけではありませんが、意識の生物学的基盤を実験的に探る道が開かれつつあります。

仮説ですが、10年後には「意識のレベル」を客観的に測定できるようになるかもしれません。

2. 記憶のメカニズム——時間をエンコードする神経細胞

「いつ、何が起こったか」——私たちは出来事を時間軸に沿って記憶しています。この時間的記憶が脳内でどのように符号化されているのか、2025年に重要な発見がありました。

Temporal Ensemble Neuronsの発見

データによると、海馬のCA1領域に「Temporal Ensemble Neurons」と呼ばれる特殊な神経細胞群が存在することが明らかになりました。これらの細胞は、時間の経過とともに活動パターンを周期的に変化させます。

この周期的な変化が、記憶に「いつ」という時間情報を付与していると考えられています。以前の記事「習慣形成の認知メカニズム!脳科学が明かす行動の自動化プロセス」でも触れましたが、記憶と習慣は密接に関連しており、この発見は両分野に示唆を与えています。

睡眠中の記憶固定化

睡眠中、特にレム睡眠中に記憶が「再活性化」されて固定化されるメカニズムも、より詳細に解明されました。これは、学習効率を高めるための実践的な示唆も含んでいます。

要するに、「覚えたら寝る」という古くからの知恵は、科学的にも正しいのです。

3. AIと認知科学の交差点——LLMは「世界モデル」を持つのか

2025年、認知科学者にとって最も刺激的だったのは、**大規模言語モデル(LLM)**の研究かもしれません。

世界モデルの萌芽

ChatGPTに代表されるLLMは、大量のテキストから言語パターンを学習します。しかし2025年の研究では、LLMが単なるパターン学習を超えて、**暗黙的な「世界モデル」**を獲得している可能性が示されました。

例えば、物理的な相互作用を記述したテキストで訓練されたLLMが、明示的に教えられていない物理法則(重力の影響など)を推論できることが発見されました。

人間の認知との比較

興味深いことに、この発見は人間の認知と比較する新たな視点を提供しています。

人間も言語を通じて世界を理解している面があります。LLMの「理解」と人間の理解は、どこが同じでどこが違うのか——この問いは、2026年以降も認知科学の重要なテーマとなるでしょう。

以前「『ファスト&スロー』から読み解く人間の思考システム」で解説したSystem 1(直感的思考)とSystem 2(論理的思考)の区分も、AIの振る舞いを理解する上で参考になります。

4. 感情と意思決定——不安の神経回路を特定

なぜ不安を感じると、リスクを避けようとするのか——この直感的には「当たり前」のことも、神経回路レベルでは謎でした。2025年、その詳細が解明されました。

扁桃体から前頭前皮質への回路

研究チームは、扁桃体中心核から前頭前皮質内側部へ投射する神経回路が、不安によるリスク回避行動に重要であることを特定しました。

オプトジェネティクス(光遺伝学)を用いてこの回路の活動を抑制すると、実験動物は不安状況下でも高リスク・高リターンの選択肢を選ぶようになったのです。

臨床への応用可能性

この発見は、不安障害の治療における新たな標的となり得ます。過度な不安によって日常生活に支障をきたしている人々にとって、希望の光となるかもしれません。

以前「貯蓄の心理学本おすすめ!現在バイアスを克服する5つの認知戦略」で解説した損失回避バイアスも、この神経回路と関連している可能性があります。

5. 予測符号化と自由エネルギー原理——脳の「大統一理論」

2025年、最も学術的に重要だったのは、自由エネルギー原理の発展かもしれません。

予測する脳

私たちの脳は常に「予測」を生成し、「予測誤差」を最小化しようとしている——これが予測符号化の基本的な考え方です。

例えば、暗い部屋から明るい部屋に出たとき、最初はまぶしく感じますが、すぐに慣れます。これは脳が「明るさ」を予測し、その予測と実際の入力のズレ(予測誤差)を調整しているからです。

能動的推論(Active Inference)

2025年は、この枠組みが行動にも拡張される「能動的推論」の研究が進みました。

行動も予測誤差を最小化するための手段と捉えられます。例えば、「お腹が空いた」という予測誤差を、「食べる」という行動で解消する——というわけです。

この枠組みは、知覚、行動、学習、感情、さらには社会的認知まで、脳の多様な機能を統一的に説明しようとしています。まさに「脳の大統一理論」への道が開かれつつあります。

おすすめ書籍——2025年の認知科学を深く学ぶ

ここからは、これらの研究分野を深く学ぶための書籍を紹介します。

1. 脳の本質(乾敏郎・門脇加江子)

2024年11月発売の最新刊です。知覚、感情、運動から言語、記憶、意思決定まで、脳が発達する原理を「予測と予測誤差の修正」という統一的視点から解説しています。

予測符号化や自由エネルギー原理を学ぶ上で、最も入りやすい一冊です。

2. 意識はいつ生まれるのか(トノーニ・マッスィミーニ)

意識研究の最前線を知るなら、この本が最適です。統合情報理論を提唱したトノーニ自身による解説で、意識の謎に科学的に迫ります。

クリストフ・コッホが「意識に関して唯一、真に有望な基礎理論」と評した理論を、一般読者向けにわかりやすく紹介しています。

3. 脳の意識 機械の意識(渡辺正峰)

「機械に意識を移植できるか」という大胆な問いに挑む一冊です。AI時代の意識研究を考える上で、刺激的な視点を提供してくれます。

著者の「脳半球と機械半球を繋ぐ」という構想は、SFのようでありながら、真剣な科学的検討に基づいています。

脳の意識 機械の意識 脳神経科学の挑戦

中公新書。機械に意識を移植できるかという問いに挑む

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4. 教養としての認知科学(鈴木宏昭)

認知科学の全体像を把握するなら、この入門書がおすすめです。人間の知性の「意外な脆さ」と、環境との相互作用でそれを補う仕組みを解説しています。

東京大学出版会から出ている学術的にも信頼できる一冊です。

教養としての認知科学

東京大学出版会。認知科学の全体像を把握できる入門書

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5. 脳の大統一理論(乾敏郎・阪口豊)

自由エネルギー原理を学ぶなら、この本が日本語で読める最良の入門書です。数式を噛み砕いてエッセンスを紹介しており、専門家でなくても理解できます。

フリストンの難解な理論を、日本語で解説した貴重な一冊です。

脳の大統一理論 自由エネルギー原理とはなにか

岩波科学ライブラリー。自由エネルギー原理の日本語入門書

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まとめ——2026年への展望

2025年の認知科学を振り返ると、「統合」というキーワードが浮かび上がります。

  • 意識研究と実験科学の統合
  • 記憶研究と時間認知の統合
  • AIと認知科学の統合
  • 感情研究と意思決定研究の統合
  • 予測符号化による脳機能の統合

2026年は、これらの統合がさらに進み、「心とは何か」「自己とは何か」という根源的な問いに、より深い答えが得られる年になることを期待しています。

私自身、京都大学大学院で認知科学を研究する立場として、来年も最前線の研究動向を追い続け、このサイトでみなさんと共有していきたいと思います。

年末年始の読書リストに、ぜひ今回紹介した本を加えてみてください。

脳の本質 いかにしてヒトは知性を獲得するか

2024年発売の最新刊。脳の発達原理を統一的視点から解説した、年末年始に読みたい一冊

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西村 陸

京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。

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    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

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