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『大事な存在の死にどう向き合うか、砂漠で毎日考えている』レビュー

『大事な存在の死にどう向き合うか、砂漠で毎日考えている』レビュー

「ちゃんと看取れなかったかもしれない」

大切な存在を失ったあと、この思いから離れられないことがあります。

『大事な存在の死にどう向き合うか、砂漠で毎日考えている』は、その苦しさに正面から言葉を置いてくれる本でした。きれいな励ましで気持ちを上書きする本ではなく、答えの出ない問いを抱えたまま生きるための本。ここが、すごく誠実なんですよね。

著者の美奈子アルケトビさんは、UAEの砂漠で約200匹の動物たちと暮らし、22年にわたって多くの別れを経験してきました。本書はその体験を、写真と文章で綴ったフォトエッセイです。

喪失の本というと重く感じるかもしれませんが、読後には不思議と「いま目の前にいる存在をもう少し丁寧に見よう」と思える。そんな静かな力を持つ一冊でした。

この本の基本情報

本書が扱うのは、死の一般論ではありません。

  • 治療の選択は正しかったのか
  • 最期にそばにいられなかった後悔をどう扱うか
  • 新しい出会いで悲しみを上書きしていいのか

こうした、喪失を経験した人が実際にぶつかる問いを、抽象化しすぎずに書いています。だから読む側も「わかる」で終わらず、自分の記憶に接続しやすいです。

要約(ネタバレ控えめ)

1. 砂漠での暮らしが映す「命の近さ」

本書の舞台は、都市生活の文脈とは少し違う、UAEの砂漠です。うさぎ、鳩、犬、猫、ガゼル、ラクダ、ヤギ、鶏、牛など、多様な動物たちと生活を共にする中で、著者は命の誕生と終わりに何度も立ち会います。

ここで描かれるのは「特別な奇跡」ではなく、日々の世話、判断、迷いの積み重ねです。命を守る責任の重さと、どうしても避けられない別れ。その両方を引き受けながら進む毎日が記録されています。

2. 喪失に伴う罪悪感を隠さない

この本の中心にあるのは、罪悪感の扱いです。

「あのとき別の選択をしていたら」「もっと早く気づけたかもしれない」「最期の瞬間に一緒にいたかった」。こうした思考は、喪失体験の後に多くの人が抱えます。

本書は、その感情を“未熟だから出るもの”として切り捨てません。むしろ、責任を持って向き合ってきたからこそ生まれる感情として描きます。ここが読者の自己否定を少し和らげてくれるんですよね。

3. 別れと新しい出会いの両立を考える

喪失のあと、新しい存在と出会っていいのか。

この問いに正解はありません。本書も「こうすべき」と断定しません。ただ、悲しみを抱えながら新しい関係を結ぶことは、裏切りではなく、生の継続だと感じられる視点を示してくれます。

悲しみを忘れることと、悲しみがあるまま生きることは違う。この違いが、読み進めるほど腑に落ちます。

読みどころ

1. 写真と言葉の距離感が絶妙

フォトエッセイは、ときに写真が強すぎて言葉が説明的になることがあります。でも本書は、写真と言葉が互いを補い合います。写真が感情を押しつけず、言葉が感傷に逃げない。

この距離感のおかげで、読者は自分の記憶を重ねながら読めます。

2. 正しさではなく「揺れ」を描いている

「こうすれば後悔しない」という処方箋型の本ではありません。むしろ、迷い、揺れ、後悔がある前提で話が進みます。

喪失に関する本でこれをやるのは、実はかなり勇気が必要です。だからこそ、経験者ほど信用できる内容になっていると感じました。

3. 悲しみを“終わらせる”のではなく“持ち運ぶ”視点

本書は、悲しみを短期間で克服する方向へ読者を急かしません。

悲しみを手放せない自分はダメ、という二次的な苦しみを減らしながら、日常へ戻る。これを「持ち運ぶ」という感覚で示してくれるのが印象的です。

2026年にこの本が必要な理由(分析パート)

1. 喪失の話をしづらい空気が強まっている

SNSでは、前向きな言葉や成果報告が目立ちます。もちろんそれは悪いことではないですが、喪失や後悔の話はどうしても可視化されにくい。

結果として、悲しみを抱える人ほど「自分だけ止まっている」と感じやすくなります。本書の価値は、止まってしまう時間を“異常”ではなく“自然な反応”として扱ってくれる点にあります。

2. ペットロスだけでなく、広い喪失体験に接続できる

本書の中心は動物との別れですが、読者側では家族、友人、仕事、関係性の終わりなど、さまざまな喪失へ置き換えて読めます。

「大事な存在を失ったあとの心の動き」という構造が共通しているからです。だからジャンルを超えて読まれる本になっています。

3. ケアする側の孤独を可視化している

看病や世話を担う側は、周囲から「よく頑張ったね」と言われても、内側では後悔が消えないことがあります。むしろ責任感が強い人ほど、自己批判が長引きやすい。

本書は、このケアする側の孤独を丁寧に扱います。誰かを守ろうとした人の痛みを、軽く扱わない。この姿勢が、2026年の読者にとって大きな救いになります。

読後にできる実践(実践パート)

ここからは、読後に現実で試せるアクションです。どれも負担が小さい形にしています。

1. 「後悔メモ」を責め言葉で書かない

後悔が浮かぶとき、頭の中では「私が悪かった」が無限ループしがちです。そこで、次の3行テンプレを使います。

  • 事実: 何が起きたか
  • 感情: 何を感じているか
  • ケア: いま自分にできる小さな行動

評価語を減らし、事実と言葉を分けるだけで、感情の渦に飲まれにくくなります。

2. 10分の「追悼ルーティン」を作る

喪失は、忘れるか抱え続けるかの二択ではありません。短いルーティンを作ると、悲しみを安全に扱いやすくなります。

  • 写真を見る
  • 一言メモを書く
  • 深呼吸を3回する

これを10分だけ。時間を区切ることで、日常への復帰もしやすくなります。

3. 信頼できる人に「結論なし」で話す

喪失の話は、結論を求める会話だと苦しくなります。だから「今日は結論を出したいわけじゃなく、話を聞いてほしい」と先に共有するのがおすすめです。

会話のゴールを“解決”から“共有”へ変えるだけで、かなり話しやすくなります。

4. 新しい出会いを罪悪感で止めない

新しい命や新しい関係に進むとき、「前の存在を忘れることになるのでは」と不安になることがあります。

本書の視点を借りるなら、忘却ではなく継承です。大事だった記憶を抱えたまま、次の関係を大切にする。そう考えると、前進へのハードルが少し下がります。

読後に自分へ返したい3つの質問

1. 私はいま、何を一番悔やんでいるか

具体化するだけで、漠然とした罪悪感が少し整理されます。

2. その後悔を抱える自分に、どんな言葉をかけるか

自分への言葉が厳しすぎると、回復が遅れます。友人にかける言葉を、そのまま自分にも使ってみるのが有効です。

3. 明日できる最小のケアは何か

大きな変化はいりません。水を飲む、5分歩く、写真を1枚見る。小さな行動が、心の回復力を支えます。

この本が示す「喪失との向き合い方」の構造

読後に印象が残るのは、感情の強さだけではありません。実は、喪失を扱うための思考の順番がとても整理されています。ここを押さえると、読み終えたあとに実践しやすくなります。

構造1: まず事実を見る

喪失後は感情が先に立ち、事実の記憶が歪みやすくなります。本書では、出来事を具体的に辿る姿勢が繰り返されます。

「いつ、何が起きたか」「どんな選択肢があったか」「その時点で何を優先したか」を丁寧に確認する。これにより、無限の自己責任ループから少し距離が取れます。

構造2: 次に感情を否定せず置く

悲しみ、怒り、悔しさ、空虚さは、どれか一つにまとまりません。本書はこの混線した感情を、そのまま置くことを許可してくれます。

「悲しいのに、ほっとしてしまう」「会いたいのに、思い出すのが怖い」など、矛盾する感情は珍しくありません。この矛盾を異常としないことが、回復の起点になります。

構造3: 最後に日常へ戻る小さな行動を決める

喪失は、理解より先に生活を止めます。だから本書は、壮大な目標ではなく小さな行動へ戻す視点を持っています。水を替える、写真を拭く、短い言葉を残す。そうした行為が、心を現実へつなぎ直します。

よくある誤解と、この本のスタンス

誤解1: 時間が経てば自然に癒える

時間は重要ですが、放置だけで整理されるとは限りません。本書が示すのは、時間に加えて「向き合い方」が必要だということです。思い出す時間、休む時間、話す時間を意識して作ることで、悲しみの質は少しずつ変わります。

誤解2: 後悔があるのは、愛情が足りなかったから

後悔は、愛情不足の証拠ではなく、関係が大切だった証拠でもあります。本書を読むと、後悔の存在そのものを責める必要はないと感じられます。大切なのは、後悔を自分攻撃の材料にし続けないことです。

誤解3: 立ち直るには、忘れるしかない

忘れることだけが回復ではありません。忘れずに、思い出し方を変える回復もあります。本書は、痛みをゼロにするより、痛みを抱えたまま生活を再構築する道を示します。

1週間のセルフケア実践プラン

読み終えたあとに取り組みやすいよう、1週間で回せる形に落とします。無理に全部やらず、1つでも十分です。

Day1: 「いま辛い瞬間」を3つ書く

夜にしんどくなる、写真を見ると涙が出る、周囲の何気ない言葉で傷つく。具体化するだけで、対処可能な課題へ変わります。

Day2: 安全な思い出し時間を作る

10分だけ、思い出の写真やメモに触れる時間を作ります。時間を区切ることで、感情の波に飲まれにくくなります。

Day3: 体のケアを1つ選ぶ

睡眠、食事、散歩、入浴。喪失ケアは心だけの問題ではありません。体調の土台があるほど、感情の揺れを受け止めやすくなります。

Day4: 「言えなかった言葉」を書く

相手に伝えたかった言葉を、手紙形式で短く書きます。送る必要はありません。言葉にすることで、頭の中の反芻が少し静かになります。

Day5: 信頼できる人と10分話す

長時間でなくて大丈夫です。「ただ聞いてほしい」と先に伝え、短い共有をします。話すだけで、孤立感が軽くなることがあります。

Day6: 新しい小さな習慣を1つ入れる

花を飾る、朝に窓を開ける、日記を1行書く。喪失の後は生活のリズムが崩れやすいので、簡単な習慣が支えになります。

Day7: 自分の変化を確認する

「まだつらい」だけでなく、「何が少し楽になったか」も書きます。変化は小さくていい。回復は一直線ではなく、波を描きながら進むものです。

読書会・対話で使える問い

感想共有の場で使える問いを置いておきます。喪失の話題は繊細なので、断定を避けた問いが向いています。

1. この本のどの言葉が、いまの自分に必要だったか

2. 「後悔」と「責任」の境界をどう考えたか

3. 思い出を守ることと、前へ進むことは両立できると思うか

問いの目的は正解を出すことではなく、気持ちを丁寧に扱うことです。本書はそのための共通言語として機能します。

遺された側が自分を守るために

喪失のあと、遺された側は「ちゃんとしていなければ」と思いがちです。周囲に心配をかけたくない、早く日常へ戻らないといけない、というプレッシャーが強くなることもあります。

でも本書が繰り返し示しているのは、悲しみの速度は人それぞれだという事実です。早く回復する人が正しくて、時間がかかる人が間違いということはありません。

むしろ大切なのは、自分の限界を見極めることです。眠れていない、食べられない、仕事や学業に明確な支障が続く場合は、一人で抱え込まず、家族や専門家へ相談する判断も必要です。これは弱さではなく、命を守るための実務です。

本書は「耐える美学」を推奨しません。悲しみを抱えた自分が、これからも生きていくために何が必要かを静かに問い続けます。だからこそ、読後に残るのは感傷ではなく、生活を立て直すための現実的な視点です。

それでも前を向くための読書として

この本は、前向きになるためのテンションを無理に上げる本ではありません。むしろ、落ち込んだままでも、疲れたままでも、いまの自分ができる範囲で明日へつながる行動を見つける本です。

喪失を経験したあとに必要なのは、強さの演出ではなく、脆さを扱う技術なのかもしれません。本書はその技術を、著者自身の具体的な経験を通して手渡してくれます。

こんな人におすすめ

  • 大切な存在との別れを経験した人
  • 後悔と罪悪感がなかなか薄れない人
  • ペットロスについて、感情に寄り添う本を探している人
  • 喪失に関する本を家族や友人と共有したい人
  • 写真と言葉で静かに癒される読書をしたい人

まとめ

『大事な存在の死にどう向き合うか、砂漠で毎日考えている』は、喪失を「乗り越えるべき課題」として急がせない本です。

悲しみや後悔は、消えないままでもいい。 それでも、今日を生きる手触りは取り戻せる。

このメッセージを、砂漠の暮らしと動物たちの写真、そして正直な言葉で届けてくれるからこそ、多くの読者に届いているのだと思います。

もし今、喪失の痛みを抱えたまま立ち止まっているなら、この本はきっと「急がなくていい」という許可をくれるはずです。 悲しみを抱えた自分を責めるのではなく、悲しみを抱えた自分を守る。その視点を手元に置けるだけでも、この本を読む価値は十分あると感じました。 ページ数は多くなくても、心に残る問いは長く続きます。静かな夜に少しずつ読み返すほど、支えになる一冊です。

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この記事のライター

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森田 美優

出版社勤務を経てフリーライターに。小説からビジネス書、漫画まで幅広く読む雑食系読書家。Z世代の視点から現代的な読書の楽しみ方を発信。

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