『あなたのことが だいすき』紹介【育児の自己嫌悪をやわらげる親子絵本】
はじめに
子どもを寝かしつけたあと、急に自己嫌悪が来る日があります。
- さっきの言い方は強すぎた
- もう少し待ってあげればよかった
- 笑顔でいたいのに、余裕がなくてきつくなった
育児書を読むと、対応の正解はたくさん見つかります。
ただ、本当にしんどい日に必要なのは もっと上手にやる方法 ではなく、それでもわが子を大事に思っている気持ちを思い出させてくれる言葉 だったりします。
『あなたのことが だいすき』は、まさにその役割を果たす絵本です。KADOKAWAの公式紹介でも、いつも笑顔でいたいのに思うようにいかない毎日 を抱える母親の心に寄り添う一冊として案内されています。
この本は、子どもに何かを教え込む絵本ではありません。
むしろ、子どもを愛しているのに毎日うまくいかない親の側を、そっと立て直す絵本です。
『あなたのことが だいすき』はどんな絵本か
まず、基本情報を整理します。
- 書名: あなたのことが だいすき
- 文・絵: えがしら みちこ
- 原案: 西原 理恵子
- 出版社: KADOKAWA
- 発売日: 2018年5月23日
- 判型: 四六変形判
- ページ数: 32ページ
- ASIN: 4041069637
本書の成り立ちも興味深いです。カドブンの刊行記念インタビューによると、この企画は、えがしらみちこさんが西原理恵子さんのベストセラー『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』に強く動かされ、いまのこの気持ちを忘れないようにしたい と考えたところから始まったと紹介されています。
つまりこの本は、単に 親子の愛は尊い とまとめるための絵本ではありません。
育児の最中にこぼれ落ちやすい感情を、後からきれいに整えるのではなく、その渦中で言葉にした本です。ここが強いです。
ページ数は32ページと短く、読み聞かせなら数分で終わります。
けれど、内容の重さはページ数に反してかなり残ります。言葉数が少ないぶん、親の側が自分の経験を自然に重ねやすいからです。
この絵本が親に刺さる3つの理由
1. 完璧な親を前提にしていない
子育て系の本で疲れるのは、正しい接し方が書かれていても、読む側に できていない自分 を突きつけてくるときです。
その点、この絵本は出発点が違います。
公式紹介文でも、育児は楽しいことばかりではなく、余裕がなくて子どもにきつく当たってしまい、寝顔を見ながら一人で自己嫌悪することがあると正面から言っています。
これはかなり重要です。
なぜなら、親が救われるのは 正しくできたとき ではなく、正しくできなかった日でも愛情は消えていない と確認できたときだからです。
『あなたのことが だいすき』は、理想の親像を押しつけるのではなく、うまくできない日の親に居場所を作ります。
子どもに優しくなろうとする前に、まず親の自己否定を少しゆるめる。効果で考えると、この順番はかなり理にかなっています。
2. 抱きしめられる時間の短さを思い出させる
この本が多くの親に読まれるのは、単に泣けるからではありません。
子どもと密着できる時間には限りがあることを、静かに思い出させるからです。
赤ちゃんの時期は大変です。幼児期も別の意味で大変です。
毎日を回すだけで精一杯だと、今この瞬間がいつまで続くのかを考える余裕はなくなります。
でも、子どもは確実に大きくなります。
- 抱っこを嫌がる日が来る
- 寝かしつけが不要になる
- 先に手をつながなくなる
- 親より友だちを優先する時間が増える
その変化は健全ですが、渦中では見えにくいです。
この絵本は、大変だから早く終わってほしい と感じてしまう日常の中に、実はかなり短い時間を生きている という視点を差し込みます。
読み終えたあとに子どもを抱きしめたくなる、という感想が多いのも自然です。
感動の押し売りというより、時間感覚を少しだけ引き戻されるからです。
3. 親向けのメッセージ絵本として完成度が高い
子ども向け絵本の中には、実質的には親向けメッセージ本になっているものがあります。
その場合、説教くさくなると読みづらいのですが、本書はそのバランスがうまいです。
理由は2つあります。
1つは、えがしらみちこさんのやわらかい水彩タッチです。
内容は親の罪悪感や疲れに触れているのに、絵がやさしいので重くなりすぎません。
もう1つは、メッセージが 親はこうあるべき ではなく、それでも子どもがだいすきだ という一点に絞られていることです。
主張を増やしすぎないから、読んだ側が自分の文脈で受け止めやすい。絵本としてかなり強い設計です。
読み聞かせより「親が先に読む」価値が大きい
この本は親子絵本として紹介されることが多いですが、実際には まず親が一人で読む 価値がかなり大きいです。
子どもに読むときは、子どもが内容を完全に理解する必要はありません。
大切なのは、読んでいる親の表情や声のトーンが少し変わることです。
とくに向いているのは、次のようなタイミングです。
- 叱ったあとに気持ちを引きずっている夜
- 保育園や幼稚園の送り迎えで余裕を失っている時期
- イヤイヤ期や反抗の強さに疲れている時
- 出産祝いではなく、育児が始まって数カ月たった頃の贈り物
育児本は 始める前 に贈られがちですが、この本は 始まってから効く タイプです。
理想より現実に寄り添うからです。
こんな人に特におすすめ
幼児期の子育てで、愛情と苛立ちが同時にある人
いちばん刺さるのはここだと思います。
子どもはかわいい。
でも、かわいいだけでは回らない。
好きなのに怒ってしまう。
怒ったあとに落ち込む。
この往復をしている人ほど、本書の短い言葉に救われやすいです。
パートナーに気の利いた絵本を贈りたい人
花やお菓子もいいですが、育児で疲れている相手に何を渡すかは意外と難しいです。
本書は、子どもを主役にしながら、実際には親の心をねぎらう構造になっています。
押しつけがましい育児アドバイス本ではないので、プレゼントにも向いています。
父親や祖父母など、母親の外側から支えたい人
公式コピーは ママの心に寄り添う 方向で作られていますが、読む価値があるのは母親だけではありません。
むしろ父親や祖父母が読むと、
- いま何がしんどいのか
- どんな言葉が余計な圧になるのか
- どんな支え方なら助けになるのか
を想像しやすくなります。
育児の負担を数字で分けるのも大事ですが、感情の負担を想像できるかどうかも同じくらい重要です。その入口としても、この絵本は使えます。
逆に、こういう期待とは少し違う
一方で、この本に しつけの具体策 や 読み物としての大きな物語展開 を求めると、少し違うと感じるかもしれません。
この本の価値は、ノウハウではなく再確認にあります。
- 私は子どもをちゃんと愛している
- 毎日余裕がなくても、その気持ちは消えていない
- 今の時間はずっと続くわけではない
この3つを短時間で思い出させてくれる。
そこに特化した絵本だと考えると、役割がはっきり見えます。
まとめ
『あなたのことが だいすき』は、子どものための絵本であると同時に、親のための絵本です。
えがしらみちこさんのやわらかな絵と、西原理恵子さんの系譜につながる率直なまなざしが合わさることで、育児のきれいごとではない現実に届く一冊になっています。
この本が優れているのは、親を責めないことです。
うまくできない日がある前提で、それでも子どもを愛している気持ちを肯定してくれる。だから、読み終えたあとに 明日から完璧にやろう ではなく、今日はもう一回抱きしめて寝よう という気持ちになれます。
子育てで少し心がすり減っている人ほど、派手な方法論より先に、こういう本が必要なことがあります。
忙しい日にこそ、短くて、でも長く残る絵本です。
