レビュー
概要
『今際の国のアリス (1)』は、現実の東京とそっくりなのに、人の気配が消えた世界で、「げぇむ」に勝たなければ生き残れないという理不尽に放り込まれるサバイバル・サスペンスです。主人公の有栖良平(アリス)は、親友の苅部(カルベ)と張太(チョータ)と一緒にいたはずが、巨大な花火の閃光を境に、世界が丸ごと変わってしまう。
第1巻の怖さは、怪物が出てきて襲われるタイプの恐怖ではありません。スマホにルールが届き、誰かが説明し、時間が迫る。そこで「選ぶ」ことだけが強制される。日常の常識が、そのまま命取りになる構造が、じわじわ効きます。
読みどころ
1) 最初の「げぇむ」が、運と論理の両方を要求する
第1巻で描かれる最初の「げぇむ」は、難易度♣3の「おみくじ」です。一見すると運試し。でも実態は、時間制限の中で数字を読み解き、誤差のリスクを最小化する“判断のゲーム”になります。運だけでも、頭だけでも足りないところが恐ろしいです。
2) 友情が「美談」で終わらない
アリス、カルベ、チョータの関係は、仲がいいだけではありません。逃げ腰のアリスを殴ってでも正気に戻すカルベの強さ、場を軽くしようとして裏目に出るチョータの弱さ。友情が、状況によって「武器」にも「足かせ」にもなるのがリアルです。
3) 「ゲーム」のルール説明が、残酷なほどシンプル
選ぶ、答える、間違えたら死ぬ。こう書くと単純なのに、実際は心が追いつかない。ルールの単純さが、かえって残酷さを増幅させます。
本の具体的な内容
物語は、アリスが将来に希望を持てず、どこか投げやりに日々を過ごしているところから始まります。彼にとって救いなのが、カルベとチョータという二人の親友です。三人で夜を明かし、駅のホームで巨大な花火を見る。その閃光のあと、目を覚ますと、街は荒れ、人が消えています。東京の形はあるのに、社会が抜け落ちている。
不気味な静けさの中で、彼らは神社へ向かい、スマホを通じて「げぇむ」への参加を強制されます。第1巻で印象的なのが、最初の「げぇむ」——難易度♣3「おみくじ」です。境内の提灯が少しずつ消えていき、全員が決められた回数のおみくじを引き終えなければゲームオーバーになる。急かされる時間が、まず怖い。
カルベが最初に引くのは「大吉」。続いてチョータが引く「小吉」には、数式のような問題が出てきます。チョータが適当に答えると、正解が表示され、「誤差の数だけ火矢が飛ぶ」というルールが明かされる。直後に本当に火矢が放たれ、命の危険が“現象”として確定する。この瞬間に、空気が一気に変わります。ゲームの世界に浮かれていたアリスの表情が、現実に引き戻されるのも強烈です。
ここからゲームは、運勢によって問題の難易度が変わったり、数字の誤差がそのまま致命傷になったりと、「運の悪さ」が物理的な死に直結していきます。それでも時間は待ってくれない。提灯が消えるまでに全員が引き切らないと終わる。つまり、考えるほど危険なのに、考えないと死ぬ。第1巻は、この矛盾した圧力を、読者の呼吸が浅くなるくらいのテンポで見せてきます。
この「おみくじ」のいやらしさは、プレイヤー同士の協力を促すようでいて、実際には疑心暗鬼を生みやすいところです。答えを合わせた方が安全に見える。でも、誰かがわざと違う答えを出したらどうなる? 自分だけが正解だと思っても、他人の誤差のせいで火矢が増えたら? こういう“人間の怖さ”が、ルールの中に埋め込まれています。だからこのゲームは、頭脳戦というより、極限状態での社会実験に近い感触があります。
そしてゲームを終えると、「勝ち抜いても安全にはならない」ことが分かってきます。生き残った者には「びざ(ビザ)」として、残り日数が与えられ、期限が切れると処刑される。つまり、勝っても“猶予が伸びるだけ”で、次のゲームから逃げられない。第1巻はこの絶望的な仕組みを提示し、サバイバルが1回きりのイベントではなく、生活そのものになることを突きつけます。
さらに、経験者らしき紫吹小織(シブキ)の存在が、物語をもう一段不穏にします。彼女は状況に慣れているように見え、行動が早い。味方なのか、敵なのか。生き残りのために人がどう変わるのか——第1巻はその問いを、序盤から突きつけてきます。
類書との比較
デスゲームものは、派手なギミックで驚かせる作品も多いですが、『今際の国のアリス』の第1巻は、ルール自体は意外と地味です。おみくじを引く、数字を答える。それだけなのに、誤差が“火矢”になるだけで、判断が一気に殺人行為へ変わる。日常のモチーフを、残酷な装置に変えるうまさが際立っていました。
こんな人におすすめ
- デスゲーム・サバイバル系の漫画が好きな人
- 「頭を使う怖さ」を味わいたい人
- 友情や人間性が、極限状態でどう変質するかに興味がある人
- 先の読めない緊張感のある導入を求めている人
感想
第1巻を読んでまず思ったのは、「ルールを理解した瞬間に怖くなる」タイプの作品だということでした。火矢という演出は派手なのに、怖さの本体はそこではなく、誤差がそのまま死になるという冷徹さにある。正解が分からないことより、正解を外したときの重さが異常に大きい。だから判断ができない。
この巻は、世界観の説明より先に、読者の体を緊張させてきます。三人の友情が、ここからどう削られていくのか。アリスが“眠っていた能力”をどう開いていくのか。続きを読まずにいられない、強い導入でした。