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レビュー

概要

『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』は、防災を「一気に完璧にやるもの」から、「生活の中で少しずつ積み上げるもの」へ変えてくれる本です。著者は宮城で東日本大震災を被災した経験を持つイラストレーターで、震災時にあってよかった物や、その後続けていることをSNSで発信して大きな反響を得た人。体験者の言葉で語られるため、防災が“知識”から“生活の現実”へ降りてきます。

本書の中心にあるのは「1日1防災」という考え方です。非常用セットを買って安心して終わり、ではなく、家にあるものを1日ひとつ見直し、必要なものを少しずつ増やしていく。完璧を目指すと続かない、という人間の性質を前提にして、続く形に落とし込みます。

さらに面白いのは、「防災のためにインテリアがダサくなるのは嫌」「備蓄はしても続かない」「何から手をつければいいか分からない」といった、気まずくて言いにくい本音を、出版社コメントとしてはっきり拾っているところです。防災の最大の敵は、危機感の不足ではなく、日常への不適合なのだと気づかされます。

出版は2017年、144ページ。子育てや仕事で忙しい家庭にとって、防災は「優先度は高いのに、緊急度が低い」典型です。本書は、そのねじれを“暮らしに溶けるサイズ”まで落とし、コミックとイラストで進められる形にしています。読む側の心理に合わせた編集だと思いました。

SNSでの投稿が36,000リツイートされ話題になった、という背景も含めて、本書は「行動につながる防災」を意識している印象です。情報の正しさだけでなく、「人がやりたくなる形」に整えている。防災の普及という観点でも、読みやすさが武器になっています。

読みどころ

1) 冒頭のコミックエッセイが、被災後の生活を具体化する

本書はコミックを交えて説明されます。災害時に何が起きるかはニュースで知っていても、「その後の生活がどう続くか」は想像しにくい。冒頭のエッセイは、被災と避難生活の“時間の長さ”を感じさせ、だからこそ備えが必要だと腑に落ちます。

2) 「ミニマルな暮らし」と防災を接続している

防災は物が増えがちで、だから続きません。本書は、インテリアを損なわず、センスのある備えを目指し、暮らしの中に自然に置ける形を探ります。ここは、単なるアイディア集ではなく、行動変容の設計として効いています。

3) 後半の取材が「家庭の備え」を社会のレイヤーへ広げる

本書の後半では、地震対策を考えたミニマリスト、都心でママ防災に取り組むNPO法人ママプラグ、熊本地震の震源地に近い空港保育園の対応、日本防災士会などに取材した内容がまとめられています。家庭内の備えだけでなく、地域・施設・専門家の知見が入ることで、「家だけで完結させない防災」へ視野が広がります。

4) 「その日」に備える視点が、避難生活まで届いている

非常食や水の備蓄は語られやすいですが、被災後の生活は「数日で終わる」とは限りません。本書は避難生活の心得集としても読める構成で、震災時に東北で何が起きていたか、という話を含めてまとめています。防災を“買い物”で終わらせず、生活の継続として捉え直せるのが強みです。

類書との比較

防災本は、必要物資のリストやハザードマップの読み方など、情報の整理に寄るものが多いです。それは大切ですが、情報を知っても行動が続かないのが現実です。本書は、被災経験と生活者の視点から、「続く仕組み」を前面に出します。防災初心者に向けているのは情報量の少なさではなく、心理的負担の少なさです。

こんな人におすすめ

  • 防災が必要だと分かっているのに、何年も先送りしている人
  • 非常用セットを買ったものの、更新や見直しが続かない人
  • インテリアや生活動線を崩さずに備えたい人
  • 子どもがいて、避難生活の現実を具体的に知っておきたい人

感想

この本を読んで一番刺さったのは、防災を「やらなきゃ」から「できる形で続ける」へ変えている点でした。危機感は、時間が経つと薄れます。だからこそ、危機感に頼らない仕組みが必要になる。本書の1日1防災は、その仕組みとしてかなり強いと思います。

防災は、結局は生活のデザインです。備えが“特別なイベント”のままだと、日常に負けます。この本は、日常に勝てるサイズまで防災を小さくし、しかも被災後の現実で裏打ちしている。読み終えたあと、いきなり大量に買い足すより、まずは「家の中で一番危ない場所」と「一番足りない物」を1つだけ見直したくなる。そう思わせる本でした。

個人的には、「防災のためにダサくなるのは嫌」という本音を肯定してくれたのが良かったです。備えは正しいのに続かないのは、道徳心が足りないからではなく、生活に合っていないから。見た目や動線を理由に備えが途切れるなら、見た目や動線を味方にすればいい。本書はその発想転換を、イラストと取材で支えてくれます。

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    佐々木 健太

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