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レビュー

概要

『作りたい女と食べたい女 1』は、料理をたくさん作りたい女性と、それを気持ちよく食べる女性の出会いから始まる漫画です。設定だけ聞くと、ほのぼのした料理漫画に見えるかもしれません。もちろん食事シーンの楽しさは大きな魅力ですが、本作が強いのは、それだけでは終わらないことです。ひとり暮らしの食卓の寂しさ、家事や食事にまつわる性別役割の息苦しさ、誰かに食べてもらうことで初めて満たされる感情まで、日常の中の小さな違和感を丁寧に拾っています。

主人公の野本さんは料理が好きなのに、一人では食べ切れない。対する春日さんは食べることが好きで、遠慮なくおいしそうに食べる。その組み合わせが、単なる相性の良さ以上の意味を持って見えてきます。食べること、作ること、誰かと一緒にいることが、こんなにも救いになるのだと自然に伝わる一巻でした。

読みどころ

読みどころは、料理が単なる趣味ではなく、感情の出口として描かれているところです。野本さんは作るのが好きなのに、一人分に抑えるのが苦手です。その“作りたいのに消費できない”もどかしさが、春日さんと出会うことで気持ちよく流れ始める。この変化がとても良いです。料理漫画として見ると、食べる場面の幸福感がしっかりありますが、それ以上に「誰かに食べてもらうことがこんなにうれしい」という感情の描写が効いています。

また、本作は会話の距離感が絶妙です。野本さんも春日さんも、最初から饒舌に自分の気持ちを語るタイプではありません。少しずつ打ち解け、相手の反応に安心しながら関係が進んでいく。そのため、ときめきだけでなく、他人といる時の緊張のほどけ方まで伝わってきます。大げさな事件は起きないのに、読んでいる側の気持ちがしっかり動くのはこの丁寧さのおかげです。

さらに、ジェンダーにまつわる違和感を無理なく織り込んでいるのも大きな魅力です。料理が好きなこと、食べる量が多いこと、家の中での振る舞いなど、日常の中で押しつけられがちな役割がさりげなく描かれます。そこを説教くさくせず、二人の関係の中でほぐしていくので、読みやすいのに後からじわっと効いてきます。

類書との比較

食を扱う漫画は多いですが、本作はレシピや料理対決の面白さより、「食べる相手がいること」の意味に重心があります。グルメ漫画のように知識で引っ張るタイプではなく、食卓が人間関係をどう変えるかを描く作品です。そのため、料理好きだけでなく、ひとり暮らしの寂しさや、生活の中の孤独に覚えのある人ほど刺さりやすいと思います。

また、恋愛漫画として見ても独特です。関係が急展開していくのではなく、安心できる食事の時間を重ねることで距離が縮まっていく。そこが本作の優しさでもあり、現代的なリアリティでもあります。

こんな人におすすめ

  • 料理漫画が好きだが、レシピ以上に人間関係も味わいたい人
  • ひとり暮らしの食事に少し寂しさを感じている人
  • やさしいGL作品を読みたい人
  • 日常の中の違和感を静かにすくい上げる漫画が好きな人

感想

読んでいて何度も良いなと思ったのは、「作る」と「食べる」が上下関係になっていないところでした。作る側が尽くす人、食べる側が受け取る人、という図式ではなく、相手が気持ちよく食べてくれることで作る側も満たされる。食卓の往復がちゃんと双方向なのです。この感覚があるから、二人の関係がとても健やかに見えます。

一巻の段階では、まだ大きなドラマがあるわけではありません。それでも読み終えると、野本さんと春日さんがまた一緒に食卓を囲んでほしいと自然に思えます。料理漫画、日常漫画、関係性の漫画、そのどれとして読んでも満足度が高い始まり方でした。

食べ物の描き方がうまいのも、もちろん大きな魅力です。ただおいしそうなだけではなく、量をたくさん作る楽しさ、温かい料理を相手と分ける安心感、残さず食べてもらえた時の救われる気持ちまで伝わってきます。料理の上手さを競うのではなく、誰かと食卓を囲むことで生活の輪郭が少し整う感覚を前面に出しているので、読むと自分の毎日の食事も少し大事にしたくなります。

また、本作は二人の関係を急いで定義しないところも良かったです。簡単に名前をつけきれない距離の中で、安心できる相手がいること自体の尊さを描いている。そのゆっくりした歩み方があるからこそ、読み手も二人の変化を丁寧に見守れます。派手な展開がなくても、次の巻を読みたくなる力がしっかりある一冊でした。

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    佐々木 健太

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