レビュー
概要
専門学校の作曲カリキュラムを想定した教科書で、和声進行・旋法・対位法・音楽形式を1巻で体系的に整理する。著者は講師として「コードの選び方は配色」「モチーフの展開はプログラミングのループ」として説明し、学生に「曲を構造として見る眼」を提供する。各章には課題があり、ジャズ・ポピュラー・クラシックを横断するアナウンスメント、アナログ譜とDAWの波形を交互に示して“耳と目”で確認する形式をとる。
読みどころ
本書の核心は、“音の設計仕様書”という比喩。第3章で紹介される対位法では、2声体の主旋律を「主語-述語」構造で解釈し、交差する音程を「依存関係」とみなしてコードを生成する。第5章のモーダルハーモニー演習では、愛好者が近接音を選ぶ理由を心理学的に説明し、mode mixtureを“感情のスイッチ”として再構築する。実際の講義では、学生がノートに「F Lydianのフィルインを3秒ごとに小節の前に置く」よう指示され、低音の動きと高音のハーモニーのズレがなぜ心地よいかを “時間軸のdelta” に落とし込む。
類書との比較
作曲の理論書で『和声学』がクラシック音楽の伝統を追う一方、本書は専門学校的にリアルステージで使う「実践的コード理論」に重心を置く。『作曲が10倍速くなる本』が発想を重視して短期集中をすすめるのと違い、こちらは構造の再現性とチェックリストを大切にしている。『現代作曲入門』のような前衛的なアプローチではなく、むしろ『コンピュータミュージックの作り方』的な“DAWを使って数値化する”姿勢が強い。
こんな人におすすめ
- 作曲レベルで論理的構造の理解を深めたい音大志望者
- コードから音程の意味をシステム的に辿りたいゲーム音楽クリエイター
- 既存のバンド分析を数式に書き換えてみたい音楽理論好き
- 「音楽が科学だ」と信じて鍵盤の裏を読む工学系の人
感想
あらゆる章末に用意された“創作チェックリスト”が、まるで試験の回答用紙を埋めるみたいで、緊張感をもって読める。実際に課題の中で提示される「トライアドを3段階変調する」練習は、耳のフォーカスを変えるトレーニングになり、結果として“目的にもとづいた転調”が体験的に理解できた。専門学校の講師が「作曲は観察」と言い、学生の耳にバグを見つけさせる姿が響く。初心者向けの一冊でも、理論好きの研究者が使えるリファレンスになる深さだった。