レビュー
概要
『血の轍』第1巻は、常軌を逸した母と、彼女に支配される娘の関係を主人公に据えたサイコ・サスペンス。父親を殺した犯人を突き止めたいという青春期の娘の思いと、その内心を覗き込むような母の不可解な言動が、淡々と裏切りの空気を醸しながら進む。日常を彩る風景は、モノクロに陰影と余白を残した画面で描かれ、家の中や学校でのやり取りが常に緊張に包まれている。
読みどころ
1) 監視と罠がまじる家族
母・斎藤りえが娘を異様に溺愛し、他者を排除していく様子が、まさに「愛が暴走」した形で描かれる。娘の視点にフォーカスしたコマでは、ページの余白に母の視線が四方八方に伸びるような構図を取り、常に「見られている」圧力が伝わる。学校の友人たちとの会話も母の介入で崩れていき、少女は自分が風船のようにゆっくり膨らんだあと弾けそうな気配を感じる。
2) 推理と心の歪み
主人公が父の死について調べる過程で、母にとっての「正義」が何なのかを探る。彼女の目に映るのは「血の轍=家系の傷」であり、事件は単なる犯罪ではなく「血」の循環そのもの。読者もじっくりと母の台詞を追いながら、歪んだ愛情と依存の構造に気づく。
3) モノクロの筆致と湿度
線の強弱で汗や湿気、夏の熱を描き出し、読者もその空気を吸い込むように読み進める。やたらと長いカットが続き、間が体温を表現する。ページの隅に落ちる黒い影が、彼女の心の闇を物理的に伝える。
類書との比較
押見修造の前作『惡の華』に通じる学生の狂気を描きつつ、こちらは「母と娘」の血の絡みが主軸。『君は放課後インソムニア』のような日常+異常のバランスにも似ているが、家族の血脈を背景にした心理描写はより生々しい。心理サスペンスとしては『監獄学園』より陰の濃さ、対比する立場ではある。
こんな人におすすめ
- 家族にまつわる秘密、特に母の振る舞いが怖い人
- モノクロの筆致で心理を描くサスペンスが好きな人
- 少女漫画に潜む暴力性に興味がある読者
- 短いページで濃厚な緊張感を味わいたい人
感想
読み終えると、母の「血」を巡る言葉がずっと頭に残り、なんとも言えない重さが体を包む。親との距離を測るときに、愛が拷問に変わる瞬間があることを描く、本当に稀有な一冊。続きを読みたくなる同時に、どんどん深淵に沈んでいく恐怖も感じた。