『脳を最適化すれば能力は2倍になる 仕事の精度と速度を脳科学的にあげる方法』レビュー
著者: 樺沢紫苑
出版社: 文響社
¥1,374 Kindle価格
著者: 樺沢紫苑
出版社: 文響社
¥1,374 Kindle価格
『脳を最適化すれば能力は2倍になる』は、努力や気合いよりも先に「脳がちゃんと働く状態を作ること」が大事だと説く一冊です。著者の樺沢紫苑は精神科医で、メンタルヘルスや脳の働きをビジネスパーソン向けに噛み砕いて伝えるのがうまい人ですが、本書でも難しい神経科学の本にはせず、日常で実践できる習慣へ落とし込んでいます。
主張はかなり明快です。集中力不足ややる気の低下を、性格や根性の問題として片づけるのではなく、睡眠、運動、朝の光、食事、休息、人とのつながりといった要素から見直す。つまり「脳の状態管理」を先にやれば、仕事の精度も速度も上がる、という考え方です。生産性本でありながら、実際は健康習慣の本として読むと腹落ちしやすいタイプです。
本書の軸になっているのは、脳内物質の働きを理解して行動を変えるという発想です。ドーパミンはやる気や達成感、セロトニンは安定や覚醒、オキシトシンは安心感やつながり、といった具合に、脳のコンディションをいくつかの視点に分けて説明していきます。細かい神経科学の議論に深入りしすぎず、「それで日常をどう変えるのか」に話を戻してくれるので読みやすいです。
実用面で特に強いのは、朝の使い方です。起床後に日光を浴びる、軽く体を動かす、午前中に重要な仕事を寄せる、といった基本が繰り返し出てきます。派手な裏技ではありませんが、脳のピークに合わせて仕事を配置するという考え方は再現しやすいです。夜に根性で頑張るのではなく、脳が最も働きやすい時間帯を使う。この当たり前を徹底するだけで、集中力の使い方はかなり変わります。
また、本書は「入力過多」を警戒している点もいいです。情報を大量に集めただけでは整理が進まず、適度なアウトプットや休息が必要だと説明します。読んだことを書き出す、人に話す、タスクを小さく区切って達成感を作る、といった助言は地味ですが効果的です。脳科学の本というより、脳の性質に逆らわない仕事の進め方として読むと納得しやすいです。
さらに、人間関係や感情面を切り離していないのも特徴です。睡眠や運動だけでなく、感謝、共感、信頼関係といった要素がパフォーマンスに影響するという説明が入り、「仕事ができる状態」は個人の根性だけで作られないことがわかります。ここが単なる時間術本と違うところです。
樺沢紫苑の本では『神・時間術』や『アウトプット大全』のほうが有名ですが、本書はそれらの土台にある「脳の状態」を扱う本です。時間術や学習術のノウハウを知っていても、睡眠不足やストレス過多で脳が鈍っていれば成果は出にくい。その前提を丁寧に説明してくれるので、他の仕事術本と組み合わせやすいです。
また、『脳を鍛えるには運動しかない!』のように運動一本で押す本と比べると、本書はより総合的です。運動の重要性を認めつつ、それだけでは足りないとして、睡眠、朝の習慣、食事、感情の安定、人とのつながりまで含めて整えます。派手さはありませんが、仕事や家庭で長く回しやすいのはこちらです。
寝ても疲れが取れず、集中力が続かない人に向いています。特に、仕事術をいろいろ試しても続かなかった人ほど、この本の順番は役立ちます。先にタスク管理術を増やすのではなく、脳が働く状態を作る。ここに納得できる人なら実践しやすいです。
一方で、学術的に厳密な神経科学を学びたい人には少し物足りないかもしれません。本書は研究の細部を掘る本ではなく、知見を日常習慣へ変換する本です。だからこそ、仕事と生活の立て直しに向いています。
この本を読んで良かったのは、「最近パフォーマンスが落ちている」の原因を、意志の弱さではなくコンディションの問題として見直せることでした。仕事が遅い、やる気が出ない、イライラしやすい、といった状態は、気合いで押し切るより、まず脳が疲れていないかを疑ったほうが早い。そう考えられるだけで、改善の方向がかなり現実的になります。
本書に書かれている内容に奇抜さはありません。朝散歩、睡眠、運動、適切な休憩、軽いアウトプット。どれも一見するとよくある話です。ただ、その「よくある話」を脳の働きと結びつけて何度も納得させてくれるので、実践の優先順位が上がります。知っているのにやっていないことへ、取り組む理由が明確になる感覚です。
脳科学をうたう本の中には、専門用語ばかりで結局何をすればいいかわからないものもありますが、本書はその逆です。難しく語りすぎず、生活改善へ落ちてくる。今の働き方を少し整えたい人には、派手な成功法則よりも、こういう本のほうが長く効くと思います。