レビュー
概要
『ダンス・ダンス・ダンスール』1巻は、バレエに心を奪われた中学生の少年・村尾潤平が、自分の「好き」と周囲から期待される「男らしさ」のあいだで揺れる青春漫画です。幼い頃にバレエを見て強く惹かれながらも、父の死をきっかけにその気持ちを封じ込み、格闘技に向かっていた潤平が、再び踊りの世界へ引き戻されるまでがこの巻の軸になります。導入として非常にうまいのは、バレエへの憧れをただの夢で終わらせず、恥ずかしさや見栄と結びつけて描いていることです。
読みどころ
1巻でまず鮮やかなのは、潤平の身体感覚です。ジャンプや姿勢、視線の向け方だけで、この子は踊る側の人間だと伝わってきます。しかも本人はその資質をうまく受け止められていません。かっこいいと思うものと、周囲に笑われたくない気持ちが同時にある。だからこそ、同級生の五代都に見抜かれ、バレエ教室へ足を踏み入れる流れに強い切実さがあります。
バレエ漫画としても、最初から専門用語で押し切らないところがいいです。読者に見せたいのは技法の解説より、踊ることが人をどう変えるかです。鏡の前でのぎこちなさ、体の硬さ、ひとつ動きが決まったときの高揚感。そういう初期衝動が丁寧なので、バレエに詳しくなくても十分に引き込まれます。後半で見える、才能を持つ人間のまぶしさと残酷さも、続きへの大きなフックになっています。
類書との比較
スポーツや芸術の世界を描く漫画は多いですが、本作は努力と才能の話をかなり生々しく扱います。たとえば部活ものの王道처럼仲間と上達していく気持ちよさだけで押すのではなく、「やりたい」と言うこと自体が恥ずかしい場面から始まる。そのため、夢へ一直線の成長物語というより、自己認識が組み替わっていく話として読むほうが近いです。
また、芸術漫画にありがちな「理解者だけがわかればいい」という閉じ方もしていません。潤平の迷いはかなり普遍的で、バレエに限らず、好きなことへ踏み込む怖さを知っている人ならそのまま読めます。華やかな世界の物語というより、自分の本音を認めるまでの物語として強い作品です。
こんな人におすすめ
- 芸術ものでも、技術より先に感情の動きを読みたい人
- 才能と努力、憧れと恥ずかしさがぶつかる青春漫画を読みたい人
- バレエの知識はないが、身体表現を題材にした作品を読んでみたい人
- 「好きなものを好きだと言うまで」の物語に弱い人
感想
1巻を読むと、潤平の未熟さがまぶしく見えます。うまく言葉にできないまま、身体だけが先に反応してしまう。その感じが本当に中学生らしくて、応援したくなる半面、見ていて少し苦しい。その苦しさがあるから、踊りの場面にきちんと解放感が出ます。
個人的には、この作品の良さは「バレエってきれいだよね」で終わらないところだと思います。かっこ悪さ、嫉妬、見栄、家庭の事情まで全部抱えたうえで、それでも踊りたい気持ちが勝つ。その瞬間がちゃんと熱い。導入巻として必要な感情がきれいに揃っていて、続きで潤平がどこまで変わるのかを自然に追いたくなる1巻でした。
導入巻としての完成度
1巻の段階でここまで主人公の輪郭が立つのはかなり強いです。潤平は最初からバレエ一筋の少年ではありません。むしろ、自分の憧れをうまく扱えず、格好つけたい気持ちと本音のあいだでぶれている。だからこそ、いざ踊りに触れたときの変化が大きく見えます。何を好きなのかを認めるまでの時間まで描くので、読者も置いていかれません。
また、都の存在も単なる案内役で終わりません。潤平の資質を見つける人であると同時に、バレエの世界が楽しいだけではないことを運んでくる役でもあります。そこにさらに別の才能が絡んでくることで、「好きだからやればいい」では済まない世界が見えてきます。1巻のうちから、今後の競争や挫折まで予感させるのがうまいです。
作品全体の入口として
芸術を扱う漫画の1巻は、専門性の高さが入り口の狭さになりがちです。しかし本作は、バレエを知らなくても潤平の感情で読めます。跳びたい、見てほしい、認められたい。それでも恥ずかしい。その気持ちはかなり普遍的です。だからバレエ漫画である前に、自分の本音を引き受ける物語として強い。
読後には、バレエという題材の華やかさより、「この主人公はここから相当痛い目を見るだろうな」という予感が残ります。その予感がそのまま続きを読みたい気持ちになります。夢を見つける話ではなく、夢を見つけたあとに逃げられなくなる話の始まりとして、とても良い1巻です。芸術を志す話でありながら、思春期の自意識をここまで正面から扱っているのも、この作品の大きな魅力です。技術論より先に感情で引き込むので、バレエに詳しくない読者でも入りやすい作品です。青春ものとして読んでも、かなり熱量の高い導入巻です。ここから先の挫折や伸びしろまで想像させる終わり方も見事です。