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レビュー

概要

現代日本で本を愛しすぎた女子大生・マインが、本もまともな産業もない異世界に転生。「本そのものが貴族の専売品」という構造を打破し、自ら紙や活字を作り、奴隷身分でありながら「本を読める社会」をつくり上げようとする。彩色された世界観には、工房の磁器の光沢や活版印刷に使う鉛板まで細かく描写されており、書物と文化の生産プロセスを愛でることが主題だ。

読みどころ

第一部Iでは紙をすり、インクを調合し、文字の間隔を計測するところまで描かれ、マインの思考は常に「次に読む人」の顔を思い浮かべている。彼女が本を読まなくなった理由に、封建制の官僚と情報統制が絡み、そこから「寄贈制度」を用いて公的な図書室を作ってしまおうという野望へと話が進む。読み進めるにつれて、登場人物がそれぞれどう本を通じて「自分の居場所」を再確認するかが描かれるが、これはKidd & Castanoが2013年のScienceで示したように文学的読書が他者の心情理解(Theory of Mind)を高めるプロセスと響き合う(doi:10.1126/science.1239918)。マインが表現する「読書によって誰かの立場に立つ」という姿勢は、ファンタジー内においても現実世界のリテラシーの重要性を伝えている。

類書との比較

書物と権力の関係を扱う点では『図書館戦争』(有川浩)も近いが、香月美夜の作品は「書物そのものの物理的生産」に焦点を当てる。そのため、たとえば『図書館戦争』が情報の正義を守る戦いであるのに対して、本作は情報を生産する資本をつくる「ものづくり戦略」だ。もう1つの比較先は欧米の「Library Wars」的な世界観ではなく、エコロジカルな「元素還元」を通じて知の経済を再構築する点で『マリア様がみてる』よりも経済合理性を前提にしている。結果として、読者は単なる「知の祝祭」ではなく、輸送・製本・印刷という実務的業務を身体で追うことになる。

こんな人におすすめ

  • 書物を物理的に産む工程を知りたい読者
  • 封建的な身分制度のなかで技術と知性で立ち上がる主人公が好きな人
  • 手触りのあるモノづくりと構築的な教育理論が交差する話を求める人
  • 読書による他者理解を自分の仕事や学びに応用したい人

感想

第一部Iを読み終えた時点で、マインが繰り出す膨大なメモと回転版の描写に圧倒されるが、それ以上に、彼女の「読者になる、想像する、そして届ける」という三段論法に鼓舞された。小さな工房で紙をすきながら「次に誰が読むんだろう」と問い続ける姿には、長年Smartphoneで読み飛ばしてきた自分の時間を取り戻すような光が差した。次巻では文字をもっと量産する工夫や社会制度を交渉する場が増えるはずで、紙の匂いが思い出せるうちに再度ページを開きたくなる。

本の虫達

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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