レビュー
概要
『離婚してもいいですか?』は、外からは普通に見える家庭の内側で、離婚を考え続ける心の揺れを描いたコミックエッセイです。主人公は結婚9年目。子どもは2人。生活は回っています。破綻しているわけではありません。それでも「離婚」の文字が頭から離れません。
本作は、離婚推奨の本ではありません。我慢礼賛の本でもありません。核心は、曖昧な苦しさを言葉にする過程です。「何がつらいのか」を整理できないと、選択肢は見えません。作品はこの整理プロセスを丁寧に見せます。
読みどころ
- 事件の小ささがリアル 決定的な裏切りではなく、日々の違和感が積み重なります。この積み重ねの描写が現実的です。
- 感情の混線を隠さない 怒り、罪悪感、諦め、期待が同時に存在します。どれか1つに単純化しません。
- 子どもがいる家庭の制約が見える 個人感情だけで決められない事情が明確です。経済、生活、養育、周囲の目が同時に動きます。
- 結論を急がない構成 答えを押しつけないため、読者も自分の状況を落ち着いて照合できます。
類書との比較
夫婦問題を扱う作品には、強い加害者を置くものがあります。本作は違います。明確な悪役がいません。だから難しいです。難しいからこそ現実に近いです。
また、相談ハウツー本は手順を提示します。本作は手順より前の段階を扱います。まず心の状態を把握する。この順序が実務的です。焦って結論へ飛ばない点に価値があります。
こんな人におすすめ
- 夫婦関係の違和感を言語化できずにいる人
- 離婚か継続かの二択で思考停止している人
- 家庭問題を感情だけでなく構造で整理したい人
- 重いテーマを漫画で読みたい人
読後に試したいこと
- しんどさの論点を分ける 会話不足、負担偏り、価値観差、経済不安を分けて書くと状況整理が進みます。
- 短期と長期の目標を分ける 今月改善したいことと、1年単位で考えることを分離すると焦りが減ります。
- 第三者相談の条件を決める 一人で抱え込むと認知が偏ります。相談先と相談範囲を先に決めると動きやすいです。
感想
この1巻で強く感じるのは、離婚問題の本質が「正しさの勝負」ではないという点です。どちらが悪いかを決めるだけでは前進しません。何が限界で、何が修復可能かを見極める必要があります。本作はその見極めの難しさを誠実に描きます。
また、主人公の逡巡が非常にリアルです。決断できない自分を責める場面が何度もあります。ですが、その責めを作品は肯定しません。迷うのは当然だと示します。この姿勢が読み手を救います。
『離婚してもいいですか?』は、感情を煽る作品ではありません。むしろ感情を整える作品です。結論を急がず、論点を整理し、次の一歩を選ぶ。家庭の問題に向き合う人にとって、実務的な価値が高い1冊でした。
追加考察
本作を読むと、家庭のしんどさは「出来事」より「頻度」で決まるとわかります。小さな不満でも毎日続けば限界に近づきます。逆に小さな改善でも継続すれば空気は変わります。
さらに、離婚という言葉は終点ではなく指標だと理解できます。「現状が苦しい」という警報として機能します。この警報を無視せず、過剰反応もせず、情報として扱う姿勢が重要です。
重いテーマですが、漫画形式なので読み切りやすいです。視覚情報があるため感情整理もしやすい。初動として非常に有用な作品でした。
実践メモ
この作品を読んだ後、最初にやるべきことは結論決定ではありません。現状把握です。家庭内でつらい場面を「頻度」「強度」「回復時間」で記録すると、感覚論から抜けやすくなります。記録があると、相談時にも説明精度が上がります。
次に、改善可能な領域と不可逆な領域を分けます。会話習慣や分担調整は改善可能です。価値観の根本差や安全性の問題は、短期では改善しにくいケースもあります。ここを分けると、無駄な期待と過剰な絶望の両方を避けられます。
最後は、支援導線を先に準備することです。相談先、法的情報、生活費見通しを平時に整理しておくと、必要時の判断速度が上がります。本作は、感情整理と情報整理を同時に進める重要性を教えてくれます。
もう1つ重要なのは、子ども視点の整理です。夫婦間の課題と養育課題を混ぜると判断が曇ります。何を大人同士で解決し、何を子どもの安定へ優先するかを分ける必要があります。本作は、その分離ができない時に発生する消耗を具体的に示してくれます。