レビュー
概要
『おかあさんと子どものための防災&非常時ごはんブック』は、災害時の食事を「おいしく」「簡単に」「子どもも安心して食べられる」ように届けるレシピ集です。著者が母親として経験した避難生活を軸に、3日分の食材を冷蔵庫にためながら必要な栄養素をキープする具体的なワザを紹介。保存食というと味や食べやすさが二の次になりがちですが、この本は水分調整や味のバランスを工夫し、離乳食期の子どもから小学生まで食べられるメニューを段階的に並べています。パントリーのストック方法や非常袋に入れるときのラベルづけシートまで収録していて、いざという時に手が止まらないようにサポートしてくれます。
読みどころ
1) 子どもの味覚に寄り添う非常食の工夫
本書では「味が薄くなる」「水分が飛ぶ」ことを逆手に取って、鶏ガラと野菜のだしを使ったスープにとろみをつけたり、米の炊き方を少し硬めにして後から水で戻す節約ワザなどを紹介しています。たとえば、翌日まで延びるカレーは「野菜ペースト」と「香味油」を分けて持ち、食べる直前に混ぜ合わせる方式を紹介し、酸化のにおいを抑える工夫を具体的に記載。乾炒りした大豆と昆布の佃煮をトッピングすることで、たんぱく質とミネラルを補える点や、冷ましてから冷蔵庫の上段に置き、気温差で保存性を高める手順も教えてくれます。食べ盛りの男の子でも満足するのに、塩分量は低めに抑えてあるところが、栄養相談を受ける母親視点で丁寧に感じました。
2) 限られた道具で作るレシピの構造
災害時には電気やガスが使えないこともあるため、鍋1つ、メスティン、そして湯を沸かす程度の火力を想定したレシピを提示。ヘキサゴン型の保温調理器に材料を入れる「即席おでん」や、パスタを炊きながらレトルトを温めて香りを濃くする「香り出し」手法など、器具に頼らないバリエーションが並びます。牛乳パックを燃料にする段取りや、アルファ米を「ピンセット」でほぐす動線まで記載されており、一般家庭のキッチンにあるものだけで再現できる現実味がある。作業工程はすべて2ステップ以内に収められ、かなり簡略化されているにもかかわらず、ビタミンとたんぱく質を意識した構成になっているのが特徴です。
3) 日常から備蓄へつなぐ習慣づくり
1章では「10分で食材のラップを替える」「ソースの瓶に日付を書く」など、日常的な行動を災害準備につなげる習慣化のルールを紹介。普段食べている献立に少しだけ保存を意識した要素を加え、週末に「非常時献立」を1回作っておくことで、家族にとっての味や分量を確認できるようにしています。この習慣こそが、いざというときに焦らずにすむ感覚を支えており、「備える」ことにあまり抵抗がなかった自分でも心地よく取り入れられる本でした。さらに、備蓄リストを子どもと一緒に書き出すワークもあり、子ども自身が「これだけあればお腹いっぱい」という感覚を持つと、避難所の雰囲気でも安心感が違ってくると感じました。
類書との比較
他の防災レシピ本を見ると、塩分や水分の計算に特化した『防災食の教科書』や、長期保存の視点で「完全自家製保存食」を推す『備蓄レシピ』がありますが、本書は「母が冷蔵庫のものをどう活かすか」を最短ルートで示す点が違います。「完全な保存」でガチガチに固めるよりも、日常と非常時の境目を稀薄にし、「使いながら補充する」考え方に近く、時短要素を求める子育て家庭に合致しています。特に、離乳食期を想定したアレンジは、より食べやすさを追求する『赤ちゃんとママの非常食600』と並んで重宝するでしょう。
こんな人におすすめ
- 幼児と小学生を家庭に抱えながら災害を意識したい母親
- 防災食を作る時間が限られているワーキングマザー
- 我が家の味を非常時にも残したいと願う料理好き
- 食材のストックに使い勝手が乏しいと感じている家庭
感想
非常時ごはんというと「食べられればよい」という発想になりがちですが、この本は家族の心と体を守るために「安心して食べられる味」をきちんと取り上げています。調理で香りを後から出す手法や、水で戻す手順が丁寧な分量とともに記されているので、実際に保存食を作りながら作業しやすい。忙しい日は、掲載されている「10分ラップ交換」カードをキッチンに貼っておけば、災害準備が日常のルーチンに紐づきます。いざというときに慌てないための知恵が、子どもにも伝わるように構成されているのも頼もしく感じました。家族の「いつもの献立」に近づける工夫が多いからこそ、非常食という言葉に抵抗がある男性や祖父母も受け入れやすいのではないでしょうか。