レビュー
概要
『新装版 2001夜物語』1巻は、星野之宣が描くSF連作短編の入口です。タイトルは『千一夜物語』と『2001年宇宙の旅』の響きを重ねたもの。内容も、宇宙へ進出した人類が、時間と距離と倫理に試されながら歩いていく“宇宙叙事詩”として読めます。
この作品が面白いのは、宇宙が「夢の舞台」だけで終わらないところです。有人宇宙飛行、宇宙ステーション、月資源の発見。そこから自給自足の宇宙開発が可能になり、人類は太陽系へ広がっていく。
進歩の眩しさと同時に、計画の冷たさや、取り返しのつかなさも見えてきます。
読みどころ
1) 連作短編なのに、歴史を“積み上げて”見せる
1話完結に近い手触りがありつつ、全体では人類史の流れになっています。
そのため、読んでいると「次に何が起こるのか」だけでなく、「この選択が未来に何を残すのか」まで気になってきます。宇宙を舞台にしながら、時間の重みが濃いSFです。
2) 宇宙開発が、ロマンと同じくらい“事業”として描かれる
宇宙に出るのはロマンですが、現場には計画が必要です。資源が見つかれば採掘するし、採掘できればさらに遠くへ行く。
この因果が丁寧なので、未来がファンタジーに見えにくい。人類が広がっていく理由が、感情ではなく構造として見えてきます。
3) 科学が進むほど、倫理の問いが増える
この作品では、凍結した精子と卵子を積み、適した惑星で受精・育成する「人類播種計画」のような発想も出てきます。
技術的な面白さだけでなく、「それを誰が決めるのか」「生まれる側は何を背負うのか」といった問いが残る。1巻の時点でも、すでに“試されるSF”になっています。
1巻の魅力(宇宙を描きながら、人間の小ささを描く)
星野之宣の描く宇宙は広いです。でも、読後に残るのは「人間の小ささ」でもあります。
宇宙へ出るほど、想定外が増える。計画は立てられても、偶然は消せない。発見は栄光でもあり、負担でもある。そういう両面が、淡々と積み上がっていくのが怖いし、気持ちいい。
古典SFのタイトルが各話につけられていることもあり、SF好きほどニヤっとできる仕掛けもあります。
でも、知識がなくても大丈夫です。必要なのは専門用語より、「未知に踏み込むとき、人はどう振る舞うか」を眺める視点です。1巻は、その視点を作ってくれます。
読み方のコツ(連作短編を「人類の癖」として読む)
この作品は、人物に感情移入して泣くというより、「人類がこういうとき、こういう選択をしがち」を観察する面白さがあります。
資源が見つかったら広げる。技術が進んだら次へ行く。次へ行けるなら、行ってしまう。そういう癖が、宇宙という舞台で拡大されていく。
その結果、未来は明るいだけになりません。
たとえば誰かが遠くへ行く計画は、別の誰かの人生を丸ごと使う計画とも言えます。世代をまたぐプロジェクトは、成功・失敗に関係なく、責任が分散しやすい。
1巻の時点でも、そういう“薄い怖さ”がにじみます。
連作短編なので、読書の体力がない日でも読みやすいです。でも、軽い気持ちで読んだ回が意外と刺さって、しばらく頭から離れないこともある。
その刺さり方が、短編SFの気持ちよさだと思います。
こんな人におすすめ
- 宇宙SFが好きで、派手さより“人類史”のスケールを味わいたい人
- 連作短編で、余韻のある話を読みたい人
- 技術の進歩と倫理の問いがセットで入っているSFが好きな人
感想
この1巻は、宇宙に出ることを肯定もしなければ、否定もしません。ロマンはある。でも代償もある。
そのバランスが、すごく大人のSFだと思います。読んでいると、未来の話なのに「今の社会」と地続きに見えてくる。事業としての宇宙開発、世代をまたぐ計画、成果のための犠牲。全部が、現代にも似ています。
宇宙を描いた漫画を読みたい人はもちろん、「人類が未来へ進むこと」を物語として味わいたい人に刺さる導入巻です。1巻を読み終えたあと、次の夜に何が起きるのかを確かめたくなります。
SFの大きい景色と、個々の人生の小ささ。その両方が同じページに並ぶ感覚が、この作品のいちばんの魅力だと思います。
宇宙に出ることは、人類にとっての勝利でもあります。でも同時に、地上の常識が通じない場所へ、自分たちの脆さも持ち込むことになる。
その矛盾を、派手な盛り上げより、静かな積み重ねで読ませてくれる。だから読み終えたあとに、妙な現実感が残ります。