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レビュー

概要

『アシガール』1巻は、足だけはやたら速い女子高生・速川唯が、弟の発明したタイムマシンで戦国時代へ飛ばされ、若君・羽木九八郎忠清に一目惚れしてしまう物語です。設定だけ見るとかなり突飛ですが、実際に読むとコメディ、恋愛、戦国サバイバルがきれいに噛み合っていて、とても入りやすい1巻になっています。

現代の女子高生が戦国時代へ行く話というと、知識無双か歴史改変ものを想像しがちです。けれど本作の唯は、頭脳派ではなく、まず走る。考える前に体が動く。その単純さがむしろ武器になり、戦国の厳しい世界へ妙な生命力を持ち込みます。恋に一直線な少女漫画としても読めますが、「生き延びる力」と「好きな人を追いかける勢い」が直結しているところがこの作品の面白さです。

読みどころ

最大の読みどころは、唯のキャラクターです。彼女は器用でもなく、歴史の知識で戦国武将を出し抜くようなタイプでもありません。それでも、怖がりながら前へ出ます。失敗してもへこたれません。このしぶとさがひたすら気持ちよく、少女漫画のヒロインとしてかなり珍しい魅力になっています。可憐さより運動神経と根性で読ませる主人公なので、その勢いがあるから恋もギャグも生きます。

若君の描かれ方も1巻から強いです。美しくて凛々しいだけではなく、戦国の跡継ぎとして命を狙われる現実を背負っているので、憧れの対象でありながら危うさもあります。唯の側から見ると「守りたいくらい好きな人」ですが、実際には守られているのは唯のほうでもある。この非対称さが、単なる胸キュンでは終わらない緊張感を作っています。

また、本作は戦国時代の描き方が想像以上にシビアです。食べ物、衣服、身分差、戦の恐ろしさがちゃんとあり、現代の価値観のままでは生きられません。だからこそ、唯の明るさや身体能力が単なる漫画的な都合ではなく、「この時代で生き残るための資質」として見えてきます。軽いコメディに見えて、背景の厳しさがあるぶん物語の足元はしっかりしています。

ギャグのテンポも大きな魅力です。唯の勘違い、勢い、恋心の暴走が笑いを生みますが、からかいだけで終わらず、ちゃんと人物の好感度へつながっています。森本梢子作品らしい会話の間のうまさがあり、戦国ものに苦手意識がある人でもかなり読みやすいです。1巻の時点で「この先ずっとこの2人を見ていたい」と思わせる力があります。

類書との比較

タイムスリップ少女漫画には、現代人が過去の文化に驚きながら恋や運命へ巻き込まれていく作品がありますが、『アシガール』はとにかく運動量が多いです。ヒロインが守られてばかりではなく、自分の足で走り、隠れ、追いかけ、食らいつく。そのため、恋愛漫画でありながらアクションの爽快感がかなり強いです。

また、戦国ものとして見ても、重厚な歴史ドラマへ寄りすぎません。政治や合戦の要素はあるものの、中心にあるのは唯の体感です。難しい知識より「この時代は危ない」「この人が好き」という感覚で読めるので、歴史漫画をあまり読まない人にも入りやすい。戦国を舞台にした少女漫画の中でも、かなり独自の軽やかさがある作品だと思います。

こんな人におすすめ

  • 勢いのあるヒロインが動き回る少女漫画を読みたい人
  • 歴史ものでも重すぎず、テンポよく読める作品を探している人
  • 片思いのまっすぐさとコメディの両方を楽しみたい人
  • 少女漫画でも「かわいい」だけではない強い主人公が好きな人

感想

この1巻の良さは、唯の恋が最初から理屈抜きなところです。若君がかっこいいから好き、危ないから助けたい、会いたいから走る。その単純さが気持ちよく、読者も深く構えずに感情移入できます。しかも、ただの軽い一目惚れで終わらず、戦国の現実の中でその気持ちが試されていくので、恋の熱量にちゃんと重みが出ます。

読後に残るのは、胸キュン以上に「唯はまた絶対走るな」という確信です。彼女が立ち止まらないことこそ、物語の一番大きな推進力になっている。だから次巻以降も、恋の続きだけでなく、この子がどこまで戦国で通用するのかを見たくなります。

少女漫画の入口としても勧めやすいですし、普段恋愛ものをあまり読まない人にもかなり向いています。テンポ、笑い、恋、サバイバルが1巻からしっかり立ち上がっていて、導入として非常に強い一冊です。

恋をすると人はこんなにも走れるのか、という単純で強い推進力を、ここまで前向きに見せてくれる漫画はそう多くありません。

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    佐々木 健太

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