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レビュー

概要

『僕だけがいない街』1巻は、売れない漫画家・藤沼悟が、自分の意思とは無関係に「悪い出来事が起こる直前」へ巻き戻される能力を持ち、その力に振り回されながらも他人を救おうとするサスペンスです。設定だけを見るとタイムリープものですが、読み味はもっと切実で、中心にあるのは「やり直したい過去」と「見て見ぬふりをしてきた後悔」です。

この1巻が強いのは、能力の説明を派手な理屈で押し切らず、悟のしんどさから始めるところです。子どものころに感じた違和感、大人になってからの停滞感、母との距離感、仕事がうまくいかない焦り。そうした地続きの不全感があるから、過去へ戻る展開が単なるギミックではなく、「今の自分を形づくった出来事に触り直す話」として効いてきます。

読みどころ

最大の読みどころは、現在の事件と小学生時代の連続誘拐事件が、少しずつ一本の線としてつながっていく構成です。読者は悟と一緒に過去の記憶を拾い直しながら、当時は意味がわからなかった違和感を検証していきます。犯人当ての面白さもありますが、それ以上に「なぜ自分はあのとき気づけなかったのか」という悔しさが物語を前に押し出します。

もうひとついいのは、小学生パートの空気です。雪の街、教室の温度、家庭ごとの事情、子ども同士の力関係がかなり具体的で、懐かしさと不穏さが同時にあります。大人の視点を持った悟が子どもたちの世界へ戻ることで、当時は言語化できなかった危うさがくっきり見えてくる。この二重の視点が本作のサスペンスを独特のものにしています。

雛月加代の存在も1巻の時点で非常に大きいです。彼女が背負っている孤立や家庭の異常さは、直接説明しすぎないからこそ痛い。悟が「助けなければならない対象」として見るだけでなく、自分の過去の後悔と重ねていくことで、物語に単なる正義感以上の熱が生まれます。ここが、本作が感動作としても語られる理由です。

また、母親の描き方も印象的です。悟の母は有能で勘が鋭く、ただ優しいだけの存在ではありません。大人として現実を見ている人がそばにいることで、子どものころの事件に別の輪郭が生まれます。親子ものとしてもかなりいい導入で、母の存在があるからこそ悟の未熟さや優しさも際立ちます。

類書との比較

タイムリープものには、未来を変える快感やロジックの美しさを前面に出す作品も多いですが、『僕だけがいない街』はもっと感情に寄っています。世界を救うのではなく、取り返しのつかない個人的な後悔に向き合う話なので、規模は小さくても痛みはかなり大きいです。そのぶん、サスペンスでありながら読後に残るのはトリックより人間関係です。

また、ミステリー漫画として見ても、事件の異様さだけで引っ張るタイプではありません。学校、家庭、地域社会のなかにある見えにくい暴力を、子どもの日常に溶かし込んで描くので、派手ではないのにずっと怖い。再読すると、何気ない会話や視線の置き方に伏線がかなり埋まっているのもよくわかります。

こんな人におすすめ

  • タイムリープものでも、感情の重さがある作品を読みたい人
  • 犯人探しだけでなく、過去との向き合い方まで描くサスペンスが好きな人
  • 子どもの世界の残酷さと、大人の後悔が交差する物語に惹かれる人
  • 短めの巻数で密度の高い完結作を探している人

感想

この1巻を読むと、悟が過去へ戻る意味は「事件を解くこと」だけではないとすぐわかります。見逃したものを見直すこと、助けられなかった相手に今度こそ手を伸ばすこと、自分がずっと抱えてきた鈍い罪悪感に名前をつけること。その全部が重なっているから、話が進むたびに緊張感だけでなく感情の重みも増していきます。

サスペンスとしての引きはもちろん強いです。けれど、本当に印象に残るのは、悟が子どもたち一人ひとりを見る目の変化かもしれません。大人になってから戻ることで、無邪気に見えた世界の危うさがわかるし、逆に子ども時代の小さな優しさの価値も見えてくる。その視点の変化が、この作品を単なる「面白い謎解き」で終わらせません。

1巻の時点でかなり完成度が高く、ここからどこへ向かうのかが自然に気になります。伏線回収の快感を求める人にも向いていますが、それ以上に「過去は変えられない」と思っていた人ほど刺さる作品です。やり直しそのものより、やり直したいと思うほどの痛みをどう扱うかを描いた1巻として、とても強い導入だと思います。

短巻数でまとまる作品なので、導入で心をつかまれた人は最後まで一気に追いやすいシリーズでもあります。

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    佐々木 健太

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