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レビュー

概要

『ゲームデザインバイブル 第2版』は、ゲームを「ルールの集合」ではなく「体験の設計」として捉え直す大型の実践書です。タイトルにある113の「レンズ」は、開発中のゲームを別の角度から見直すための問いです。面白さが足りないと感じたときに、感覚で修正するのではなく、どこを観察し、何を疑い、どう改善するかを考えるための道具として機能します。

著者のジェシー・シェルは、ディズニーVRスタジオの元クリエイティブディレクターです。公式紹介でも、テーマパーク用アトラクション、MMORPG、VR、シリアスゲームまで幅広い開発経験が強調されています。その経歴どおり、本書はインディーゲームの小規模開発だけに閉じません。ゲームの核となる発想、チーム運営、プレイテスト、クライアントへの提案まで、1つの作品を世に出す流れ全体を射程に入れています。

本の具体的な内容

本書の前半でまず印象的なのは、ゲームデザイナーの仕事をかなり広く定義している点です。第1章では「ゲームデザイナーに求められるスキルとは?」から始まり、第2章ではゲームそのものより先に「体験」を考える姿勢を置きます。ここで心理学、人類学、デザインといった視点が並ぶので、本書が単なる企画術ではないことが早い段階で分かります。プレイヤーが何を感じ、何を覚え、どこで離脱するのかを観察しなければ、面白さは説明できないという立場です。

第5章と第6章では、ゲームを構成する要素とテーマの結びつきが整理されます。公式目次にある「4つの基本要素」や「統一テーマ」という項目は、本書の背骨です。メカニクスだけを磨いても、世界観だけを濃くしても、作品としての一貫性がなければ弱い。だから本書は、アート、ストーリー、システム、プレイヤー体験を切り離して扱いません。ゲームの面白さを総合設計として見る発想が、この段階ではっきり示されます。

第7章と第8章は、実務で特に役に立つ部分です。第7章には「ブレインストーミングに関する重要な16のヒント」があり、視点を変える、仮定を壊す、壁に書き留める、パートナーを見つける、といった発想法がかなり具体的に並びます。第8章では、そのアイデアをイテレーションで磨く流れが続きます。リスク評価、プロトタイピング、優先順位づけ、愛着を持ちすぎないことまで書かれていて、企画を思いつく瞬間より、育てる過程のほうが重要だと分かります。

さらに後半へ進むと、本書の守備範囲は想像以上に広いです。プレイテストの章では、「なぜ」「誰を」「どこで」「何を」「どのように」という問いでテスト設計を分解します。ここは単に感想を集める段階ではなく、観察設計そのものを扱う章です。テストプレイ中に何を見るべきか、あとでどんなデータを集めるべきかまで掘り下げるので、遊んでもらって終わりになりがちな検証を引き締めてくれます。

そして面白いのは、終盤でチーム、ドキュメント、技術、クライアント、プレゼンテーションまできちんと入っていることです。ゲームデザインの本でありながら、プレゼンのヒントやクライアント対応まで含みます。一見すると脱線めいています。ですが実際には、良いゲームが良い会議や良い共有がなければ形にならないことを示しています。ゲームを「ひらめきの芸術」に閉じ込めず、組織的な制作物として扱っている点が本書の強さです。

113のレンズ自体も、単なる名言集ではありません。後半の目次だけ見ても、「感情曲線のレンズ」「ストーリーのレンズ」「自由のレンズ」「プレイテストのレンズ」「利益のレンズ」など、見るべき対象がかなり違います。つまり本書は、どんなゲームにも万能な答えを与えるのでなく、問いの切り替え方を訓練する本です。行き詰まったときに「もっと派手にする」ではなく、「いま不足しているのは自由か、共感か、観察か」と考えられるようになります。

類書との比較

個別のジャンル論やレベルデザイン本は、特定の工程に強い代わり、視野が狭くなりがちです。本書はそれらよりはるかに射程が広い一方で、抽象論だけで終わりません。理論と現場の距離が近いので、企画初期、プレイテスト直前、チームの見直しといった場面で使えます。ゲーム開発の一部分を学ぶ本ではなく、全体像を持ちながら各工程へ戻ってこられる本です。

こんな人におすすめ

  • ゲームプランナーやディレクターとして、企画の詰め方を体系化したい人
  • インディー開発で、アイデアからテストまでを一人または少人数で回している人
  • ゲーム体験の設計を、UXやサービス設計にも応用したい人

感想

この本の価値は、113個の答えがあることではなく、113通りの見直し方があることを教えてくれる点にあります。ゲーム開発では、面白くない理由が1つに見えても、実際には別の階層へ原因が潜んでいることがよくあります。難易度の問題だと思ったら、実は動機づけの問題だった。ストーリー不足だと思ったら、体験の核が曖昧だった。そういうすれ違いを減らす道具として、本書はとても強いです。

分量はかなり多いですが、通読して終わる本ではありません。企画会議で詰まったとき、テストプレイ後に違和感が残ったとき、クライアントへ企画を通したいときに引き直す本です。ゲームを「作りながら考える」人ほど恩恵が大きいはずです。タイトルどおり、長く手元に置く価値があるバイブルだと感じました。

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    佐々木 健太

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