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レビュー

概要

『家で死のう!』は、終末期を病院ではなく自宅で過ごすという選択肢を、きれいごとではなく具体的に考えるための本です。著者の萬田緑平さんは、外科医として病院医療を経験したのち、在宅緩和ケア医として2000人の看取りに関わってきた医師です。本書は、その経験を踏まえて「病院で治療を続けること」と「家で生き抜くこと」の違いをかなり率直に語ります。

この本の特徴は、「在宅看取りは温かい」という情緒的な話だけでは終わらないことです。著者は、病気を老化の延長として捉え直し、死の過程で身体に何が起こるのか、医療にできることとできないことは何か、在宅緩和ケアの現場では何を優先しているのかを、かなり具体的に書いています。読者は漠然とした理想論ではなく、死のプロセスに沿った現実的な見取り図を得られます。

本の具体的な内容

フォレスト出版の著者ページに掲載されている目次を見ると、本書は4章構成です。第1章では「病気は老化の段階に名前をつけただけ」という視点から始まります。心臓、血管、肺、内臓、関節、骨、目といった臓器ごとの老化を見ていき、がんや認知症さえも老化との連続で考え直す構えを取ります。ここはかなり挑発的ですが、著者が言いたいのは、病名より先に人が老いて死ぬ流れを自然な現象として捉え直そうということです。

第2章は、本書の中でもっとも実務的な章です。死の現場で何が起こるかを順にたどっていきます。ここでは、食べられなくなること、腸閉塞、腹水、寝たきり、痛み、熱、むくみ、排泄困難、呼吸の低下、黄疸、終末期せん妄といった変化が扱われます。こうした過程を正面から書く本は少なくありませんが、本書はそれを怖がらせるためには使いません。「穏やかな死」は何を伴うのかを家族が知るために書いています。ここを読んでおくと、終末期の変化をすべて異常事態として受け取らずにすみます。

第3章では、医療の限界がテーマになります。医者と患者で異なる「治る」の定義、医学は統計学であること、早期発見・早期治療の罠、標準治療・非標準治療・代替療法の見方、抗がん剤を何のために使うのか。病院医療に期待を持ちすぎると、かえって本人の時間や苦痛の感覚を見失うことがあるという指摘は重いです。もちろん、この章の主張はかなり強いので、すべてに賛成する人ばかりではないでしょう。ただ、医療を疑うためではなく、選択の意味を考えるための材料として読む価値があります。

第4章「在宅緩和ケアという選択」に入ると、本書はさらに具体的になります。心電図モニターの意味、在宅緩和ケア医の役割、本人の好きなように過ごす方針、食べたければ食べること、希望しない点滴はしないこと、腹水穿刺、検査をしない判断、医療用麻薬の使い方、体幹リハビリ、呼吸筋リハビリ、嚥下リハビリまで並んでいます。つまり、本書は「家で死ぬこと」を放任として描かず、医療とケアを組み替える実践として描いています。ここが非常に重要です。

また、各章に実際の患者さんのエピソードが入っている点も本書の特徴です。よく歩き、よく食べ、よく話した人、点滴や胃ろうをやめて人間らしく生きた人、医療用麻薬を使いながら亡くなる直前までゴルフをした人など、個々の事例を通して「最期まで精一杯生きる」とはどういうことかが見えてきます。抽象論だけで終わらないので、読者は在宅看取りを具体的な生活の場面として想像しやすくなります。

もちろん、本書は中立的な制度解説書ではありません。著者の立場は明確で、病院中心の延命医療にはかなり批判的です。その分、議論は鋭く、読む人によっては極端に感じる箇所もあるはずです。ただ、終末期医療をめぐる本当に難しい問題を、当たり障りなくぼかしていない点にこの本の価値があります。死を避けて語らないのではなく、身体の変化、医療の現実、家族の覚悟まで含めて正面から扱う一冊です。

加えて、本書は「死を受け入れるかどうか」という心理だけでなく、家族や医療者がどこで迷い、どこで判断し、どこで見守るのかという実務的な難しさにも触れています。そのため、読む側は自分の価値観を問われるだけでなく、実際の場面で何を話し合う必要があるのかまで想像しやすくなります。終末期を抽象的な人生論で終わらせないところが、この本の強さです。

こんな人におすすめ

  • 在宅緩和ケアや自宅看取りを現実的に考えたい人
  • 終末期に家族として何が起こるかを具体的に知っておきたい人
  • 延命医療と生活の質の関係を、きれいごと抜きで考えたい人

類書との比較

終末期医療の本には、制度や手続きに重心を置くもの、家族の体験記として感情を中心に語るものがあります。本書はその中間ではなく、かなり実践と思想の両方へ踏み込んだ本です。制度案内としての網羅性より、死の過程と医療選択の意味を腹落ちさせる力が強い。やさしい慰めの本ではありませんが、在宅で看取るとはどういうことかを具体的に理解するには非常に密度があります。

感想

この本の読後感は、励まされたというより、現実を直視させられたに近いです。けれど、必要以上に暗い本ではありません。むしろ、死を病院へ預けきらず、本人の望みや生活の延長で考え直すための本として読めました。死を避けて話さないことが、かえって本人や家族にとって不利益になるという著者の感覚には説得力があります。

特に印象に残ったのは、「家で死ぬ」ことを単に自然で美しいものとして描かず、そのために必要な医療、ケア、判断を具体的に書いている点でした。賛否が分かれる主張もありますが、終末期医療を考えるうえで一度は読んでおきたい本です。穏やかな最期とは何かを、感傷ではなく実務の言葉で考えさせてくれます。

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