レビュー
概要
『ポ-ズが描ければ 動きも描ける たてなか流クイックスケッチ』は、人物を描くときに一番つまずきやすい「全身のバランス」と「動きの勢い」を、短時間のスケッチで掴むための本です。内容説明では「はじめて人物を描く方のために」と明言されていて、静止した人物から始め、最終的に動きのあるスケッチを目指す構成になっています。
人物画の教材は、人体構造を細かく説明するものも多い一方で、本書は逆方向です。まずは“描いて形にする”体験を優先し、そこから必要なコツを足していく。上手い人がやっている「省略」と「強調」を、初心者でも真似できる順番で並べてくれます。
章立てと内容(具体)
第1章:シンプルにはじめましょう!
最初の章では、クイックスケッチとは何か、全身をカンタンに描く練習、印象をとらえる、という流れで基礎を作ります。ここで大事なのは、最初から正確さを狙わないことです。全身を一度に描けないと、細部に逃げてしまい、結果として“動き”が消える。本書はその癖を止めてくれます。
第2章:ティップス
第2章は、基本、部位と衣服、一歩先へ、というまとまりです。人物スケッチは、骨格だけでなく服のシワや厚みがあることで立体感が出ます。でも初心者は、服の情報量に飲まれて線が迷子になりがちです。本書は、部位ごとの押さえどころと、衣服を描くときの注意点を分けて扱うので、どこで迷っているのかが見えやすくなります。
第3章:スケッチ集(動きの宝庫)
第3章のスケッチ集が、本書の一番おいしいところです。題材として、バレエ、野球、ラグビー、ダンス、古武術(天心流兵法)、フィギュアスケート、タップダンス、キックボクシング、パルクールが並びます。動きの種類が違うので、同じ人物でも、重心の置き方、手足の伸び、ひねり、スピード感が変わる。その違いを“見て真似できる”形で収録しています。
スポーツやダンスの動きは、関節の可動域や重心移動がはっきり出るので、スケッチ練習の題材として強いです。静止画のポーズ集だと、どうしても固くなりがちですが、本書は最初から「動く体」を前提にしている。人物を描く練習が、自然と躍動感の練習になります。
著者について(具体)
著者紹介では、立中順平さんがディズニーアニメーションジャパンでアニメーターとして仕事を始めたこと、現在はフリーでアクション作画監督としてスポーツ作品などの動きの表現を担っていることが触れられています。動きを仕事として描いてきた人が、練習の順番を作っている。そこに説得力があります。
読後の練習(クイックスケッチを習慣にする)
本書は、読んだ瞬間に絵が上手くなるというより、練習の迷いが減る本です。特に第1章と第3章を行き来しながら描くと効果が出やすいと感じました。
- 1日目:第1章の「全身をカンタンに描く練習」を、3分×5体で回す
- 2日目:第2章のティップスを読み、部位をひとつだけ意識して描く(腕、脚など)
- 3日目:第3章のスケッチ集から、動きが激しい題材(キックボクシング、パルクールなど)を選んで描く
- 4日目:バレエやフィギュアスケートのように、軸がきれいな題材を選び、重心の印象だけを掴む
こうして題材を変えると、同じ人物でも“勢いの出し方”の違いが見えてきます。動きが描けないときは、線が足りないのではなく、全身の印象が取れていないことが多い。本書はその感覚を戻してくれます。
注意点
人体の解剖学を深く学ぶ本ではないので、骨格や筋肉を細かく理解したい人は別の教材が必要になるかもしれません。ただ、人物を描く練習で一番挫折しやすいのは「難しくて描けない」より、「何を描けば上達するか分からない」ことです。本書は、その迷子状態を抜けるための良い入口になります。
感想
この本を読んで一番良いと感じたのは、ポーズと動きを「才能」ではなく「練習の順番」の問題にしてくれるところです。静止した人物から始めて、ティップスで迷いどころを潰し、最後にスポーツやダンスのスケッチ集で“動く体”に慣れていく。道筋が見えるだけで、描くことのハードルが下がります。
人物が描けないときは、細部が難しいのではなく、全身の印象が取れていないことが多いです。本書は第1章の段階でそこに戻してくれるので、描けば描くほど形が崩れていくタイプの人にも合うと思います。短時間で回せる練習が中心なので、忙しい日でも続けやすいのも魅力です。
スケッチ集の題材が幅広いので、「自分が好きな動き」から入れるのも続くコツになります。まずは1ジャンルを真似して、慣れたら別のジャンルへ広げていく。そうすると、同じ人物でも動きの表現が増えていきます。
こんな人におすすめ
- 人物の全身が描けず、顔や服の模様に逃げてしまう人
- ポーズは描けても、動きや勢いが出ない人
- スケッチを習慣にしたいけど、何を描けばいいか分からない人