『まんがで身につく アドラ- 明日を変える心理学 (Business Comic Series)』レビュー
著者: 鈴木 義也
出版社: あさ出版
著者: 鈴木 義也
出版社: あさ出版
『まんがで身につく アドラー 明日を変える心理学』は、アドラー心理学を理論書ではなく物語として入門できる一冊です。課題の分離、勇気づけ、共同体感覚、劣等感といった概念を、悩みを抱えた登場人物たちのエピソードに落とし込んで説明します。難しい用語を先に覚えるのではなく、「こういう場面でどう考えると楽になるか」を漫画でつかめるのが特徴です。
アドラー心理学の本は、文章だけだと一気に抽象度が上がりやすいです。その点、本書は仕事、人間関係、夫婦関係、老後不安など、かなり日常的な悩みを使って進むので入りやすいです。人間関係に疲れているときほど、漫画形式のありがたさが分かります。
読みどころは、「課題の分離」が具体的に見えることです。アドラー心理学で最も有名な考え方の1つですが、文章だけだと分かったつもりになりやすいです。本書では、相手の期待を背負いすぎて苦しくなる場面や、人の評価に振り回される場面が描かれるので、「これは相手の課題で、これは自分の課題だ」という線引きがイメージしやすくなります。
また、共同体感覚や勇気づけも、抽象論で終わっていません。人と比べて苦しくなる、頼まれると断れない、職場の先輩とうまくいかないといった場面で、どう見方を変えると少し楽になるかが物語の中で見えます。アドラー心理学は冷たく見えることもありますが、本書は「人と距離を取る」だけではなく、「つながり方を変える」方向で読ませてくれるのが良いです。
さらに、アドラーの概念を一気に詰め込みすぎない点も助かります。劣等感、ライフタスク、家族会議、共同体感覚といった論点が章ごとに分かれているので、読み手は自分に響くテーマから入りやすいです。哲学書に向かう前の橋渡しとしてかなり優秀です。
特に漫画との相性がいいのは、アドラー心理学が「相手の言葉をどう受け取るか」を扱う学問だからです。同じ出来事でも、承認されなかったと感じるのか、自分の課題に戻れるのかで苦しさは変わります。本書はそのズレを場面で見せるので、理屈より先に「たしかにこういう受け取り方をしてしまう」と気づきやすいです。
『嫌われる勇気』が対話形式で理論を深く掘る本だとすると、本書はもっと生活に近い入門書です。議論の厳密さより、「この場面ならどう考え直せばいいか」が分かりやすい。そのため、アドラー心理学に初めて触れる人は、こちらから入ったほうがとっつきやすいと思います。
漫画で学ぶ心理学本は多いですが、本書は単なる要約漫画ではありません。悩みの状況をちゃんと描くので、「理論を読んだ」より「こういう時に使えるのか」が残ります。考え方を行動へ落としたい人向けです。アドラー心理学を厳密に学ぶなら別の本も必要ですが、日常でまず試してみる入口としてはかなり優秀です。
人間関係のストレスを減らしたい人、自分の考え方の癖を少し変えたい人、アドラー心理学に興味はあるが難しい本から入るのはしんどい人におすすめです。特に、相手の評価が気になりすぎる人や、つい相手の課題まで抱え込んでしまう人にはかなり入りやすい本です。
家族や職場での会話を見直したい人にも向いています。漫画で場面が見えるぶん、自分の実生活へ移しやすいからです。理論の厳密さより、まず生活に効く入口がほしい人向けです。心理学の本に苦手意識がある人でも入りやすい構成です。
子育てや部下指導の場面で、つい相手をコントロールしようとしてしまう人にも合います。家族会議や勇気づけの考え方は、親子関係やチームづくりにそのまま応用しやすいからです。
この本を読むと、アドラー心理学は「強くなれ」という話ではなく、「見方を変えると少し楽になる」という実践知なのだと分かります。相手を変えることはできない、自分の課題に戻る、貢献感を持つ、といった考え方は、知っているだけでは効きませんが、場面とセットで見るとかなり腑に落ちます。
漫画だから軽いというより、漫画だからこそ痛いところが見える本です。自分がどこで人の評価に引っ張られているか、どこで抱え込みすぎているかが見えやすい。難しい理論を理解する前に、まず日常の悩みが少し整理される感覚を持てるのが大きいです。アドラー心理学の最初の一冊としてかなり入りやすく、その後に原典や『嫌われる勇気』へ進む土台にもなる一冊でした。