レビュー
概要
『発達障害の子どもを伸ばす 脳番地トレーニング』は、発達の凸凹がある子どもの脳を「脳番地」という区分で捉え、未発達な部分を刺激して伸ばすためのトレーニングを紹介する本です。内容説明では、得意と苦手の落差が大きいのは成長状態がデコボコしているからで、脳は刺激すればするほど成長する、と語られます。
本書では33のトレーニングを通して、まだ眠っている脳番地を刺激することを提案し、さらに脳が育ちやすい環境、生活習慣、接し方まで解説する構成です。目次も、脳の発達のしくみ→脳画像から見た「真実」→脳番地と発達障害→伸ばし方→環境作り→トレーニング、と基礎から実践へ段階的に進みます。
読みどころ
1) まず「脳の発達のしくみ」を押さえて、焦りを減らす
発達の悩みは、目の前の困りごとが強いほど、親も支援者も焦ってしまいます。本書は第1章で脳の発達のしくみを扱い、いきなり「これをやればOK」ではなく、前提を整えるところから始まります。
前提が整うと、困りごとを「性格」や「やる気不足」で片付けずに済む。原因探しで自責や責めに向かうのではなく、伸びしろの見立てに切り替えられる。そこが大きいと感じました。
2) 第2章の「脳画像からわかった真実」で、見立ての軸ができる
第2章は、脳画像から分かる発達が遅い子どもの脳の話。ここで重要なのは、根拠のない断定ではなく、見立ての軸を持つことだと思います。なぜ記憶・学習のつまずきが起きるのか、なぜ感情や社会性の面で困りやすいのか、という問いに対して、「脳のどの領域が関わりやすいか」をイメージできるようになります。
3) 「脳番地」という整理が、トレーニングを選びやすくする
第3章で脳番地と発達障害がつながり、第6章で脳番地トレーニングへ入ります。ここが本書の核心で、トレーニングを“闇雲”に増やすのではなく、弱い部分に合わせて刺激を選ぶ発想が出てきます。
「得意を伸ばすと苦手も伸びる」という内容説明の言葉も象徴的で、苦手だけを矯正するのではなく、強みを足場にして全体を底上げする考え方が見えます。
本書では33のトレーニングが紹介されるので、読む側は「何をすればいいか」が見えやすい反面、全部やろうとすると疲れます。脳番地という整理を使って、いま刺激したい領域を絞り、生活の中で続く形に落とす。この“絞り方”まで含めて読むと、実践の負担が減ると思います。
4) 環境作りと接し方が、トレーニングとセットになっている
第5章の環境作りが入っているのが、実務的だと思いました。トレーニングだけを頑張っても、生活環境や接し方が噛み合わないと、子どもは疲れてしまう。本書は、生活習慣や関わり方の話も含めて、「伸びやすい状態」を作る方向へ読者を導きます。
環境作りという言葉は広いですが、実際は「どこでつまずきやすいか」を観察し、刺激を足し、負担を減らすことの組み合わせです。たとえば、集中しやすい時間帯にトレーニングを入れる、成功体験が残る形で終える、生活リズムを整える。そうした“小さな設計”を積み上げる発想が、本書のトーンから伝わってきます。
類書との比較
発達支援の本は、診断や制度の解説に寄るもの、療育メニュー集に寄るものなどさまざまです。本書は、脳の発達の前提→脳画像→脳番地→トレーニング→環境作り、という順で組み立て、理解と実践をつなげようとします。
また、33のトレーニングが提示されることで、「何をすればいいか分からない」という状態から抜けやすい。一方で、子どもの状態は個人差が大きいので、専門家の支援と併用しながら、家庭でできることを増やしたい人に向くと感じます。
こんな人におすすめ
- 子どもの得意・苦手の凸凹に、どう向き合えばいいか悩んでいる人
- 「診断を待つだけ」ではなく、日常でできる工夫を知りたい人
- トレーニングを、脳の発達の理解とセットで整理したい人
- 環境作りや接し方も含めて、家庭での支援を組み立てたい人
感想
発達の話は、どうしても「早く何とかしなきゃ」という不安が先に立ちます。本書は、その不安に対して、脳の発達という枠組みで見立てを作り、具体的なトレーニングへ橋をかけてくれる一冊だと感じました。
もちろん、困りごとが強い場合は医療や支援機関の力が必要です。その前提のうえで、家庭での関わり方や環境の整え方、日々の小さな刺激の積み重ねを“できる形”で提示してくれるのが、本書の価値だと思います。焦りを行動に変えるための、現実的なヒントが多い本でした。
「診断がつくのを待っているだけではもったいない」という言い方は、受け止め方が難しい部分でもあります。ただ、待つしかない時間にできる工夫を増やす、という意味で読むと、親の無力感を減らしてくれます。得意を足場にしながら、環境と習慣を整え、少しずつ刺激を積む。そういう長期戦の視点を持ちたい人に向く本だと感じました。