『【オ-ルカラ-/日本数学会出版賞 受賞】普及版 数の悪魔-算数·数学が楽しくなる12夜. / 算数なんて怖くない』レビュー
著者: ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー(著) 、ロートラウト・ズザンネ・ベルナー(画) 、丘沢 静也
出版社: 晶文社
著者: ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー(著) 、ロートラウト・ズザンネ・ベルナー(画) 、丘沢 静也
出版社: 晶文社
『数の悪魔―算数・数学が楽しくなる12夜(普及版)』は、算数や数学が苦手な少年ロバートの夢の中に、夜な夜な「数の悪魔」が現れ、真夜中のレッスンが始まる物語です。物語の形を借りて、1や0の不思議、素数、パスカルの三角形、数え上げ(いったい何通りあるの?)などのテーマを、図と会話でほどいていきます。
出版社内容情報にもある通り、オールカラーの入門書で、数学の“怖さ”をほどくことが目的。公式を暗記させるというより、「数って変だし面白い」を体験させる設計になっています。数学が得意な人にとっても、定番の概念を別の角度から眺め直せる一冊です。
目次には「1の不思議」「0はえらい」「素数の秘密」といった短いタイトルが並び、夜ごとにテーマが変わります。1冊を通読すると、少しずつ“数の世界のクセ”が見えてくる。短編を積み重ねるような構造なので、読書に慣れていない子でも入りやすいと思います。
6夜の「にぎやかなウサギ時計」は、ウサギのつがいの話を入口に、数の増え方の不思議を体感させます。自然界のパターンと数列のつながりを感じられるので、数学は“紙の上のルール”から、“世界の見方”へ近づきます。
7夜の「パスカルの三角形」は、規則の美しさが見える章です。さらに「雪片のマジック」では、図形の話に入っていきます。ここで、「数は計算だけじゃない」「形にも潜んでいる」と気づけるのが良い。理屈の説明を詰め込みすぎず、驚きの感覚を残してくれます。
内容説明には「旅するセールスマンの問題」も登場します。学校の算数から一気に飛ぶ感じがしますが、難問の厳密な解法を教えるのではなく、「こんな問いがあるんだ」という見晴らしを渡してくれる立ち位置です。数学の入口として、とても健全だと思います。
4夜の「わけのわからない数と大根」や、5夜の「ヤシの実で三角形をつくる」は、計算ドリルからは出会えない種類の面白さがあります。整数の世界の外側に、説明しづらい数がいること。図形の世界に入ると、数の規則が別の顔を見せること。ここで、数学が“点数のための道具”ではなく、“世界の変なところを観察する方法”になっていきます。
8夜の「いったい何通りあるの?」は、数え上げの感覚を育ててくれる章です。正しい式を暗記する前に、「条件が増えると組み合わせが爆発的に増える」という驚きが先に来る。この順番が大事だと思います。
9夜の「はてしない物語」も、数学が終わりのない探検みたいに感じられる章です。答えを当てる遊びではなく、「不思議を追いかける遊び」としての数学が見えてきます。
こういう章が挟まることで、計算が苦手でも置いていかれにくい。読み手の呼吸を整えてくれます。
算数の本は、問題集か、受験向けの解法テクニックに寄りがちです。本書はその逆で、正解を出すスピードより、数の不思議さに驚く力を育てます。だから、テストの点をすぐ上げたい人には遠回りに見えるかもしれません。
ただ、「嫌い」をほどくには、遠回りが近道になることもあります。公式が何のためにあるのかが分からないと、暗記は苦行になる。本書は、その苦行の前に「面白い」を作る本です。
この本を読んで感じたのは、数学が苦手な人ほど「何が分からないか」以前に、「近づきたくない」という気持ちで止まっている、ということでした。数の悪魔は、その心理の壁をうまく崩してきます。押しつけではなく、夢の中の会話で、少しずつ興味を引っ張っていくのが上手い。
普及版はオールカラーで、図や絵の力が大きいので、文章だけの数学本で挫折した人にも合います。12夜が終わる頃には、数学が“敵”から“変な友達”くらいに距離が縮まっている。そんな読後感が残る一冊でした。
もう1つ良かったのは、1夜あたりの“引っかけ方”が軽やかなことです。完璧に理解できなくても、気になって次の夜へ進める。読書として楽しいから、結果的に数学の概念に触れる回数が増える。苦手意識が強い人ほど、「努力して好きになる」ではなく、「好きだから続いてしまう」ルートが必要で、本書はそこを作ってくれると感じました。