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レビュー

概要

『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』は、紙の本とデジタル読書で「読み方」と「読みの質」がどう変わるのかを、認知神経科学の視点で整理しながら、これからの時代に必要な読みの力として「バイリテラシー脳(紙とデジタルの両方で深く読める脳)」を提案する一冊です。

特徴的なのは、全体が「第1の手紙」から始まる手紙形式で書かれていること。論文の要約のように冷たくならず、未来の読み手に語りかける調子で、危機感と希望の両方が伝わってきます。

読みどころ

1) 「デジタル・モード」が読む行為を“別物”にしてしまう感覚

第1の手紙(デジタル文化は「読む脳」をどう変える?)〜第3の手紙(「深い読み」は、絶滅寸前?)で繰り返し扱われるのが、デジタル環境が促す読みのモードです。検索・スクロール・通知・リンクの誘惑が常にあると、文章を「理解する」前に「見つける」「移動する」ほうが得意になっていく。

この本が面白いのは、デジタルを一方的に悪者にしないところなんですよね。速く読む、広く読む、必要な情報を拾う。そういう読みも確かに必要。ただ、その便利さが強すぎると、文章の行間をつなぐ推論や、別の体験と結びつける想像、登場人物への共感といった「深い読み」の筋肉が落ちやすい、という指摘が具体的です。

2) 「読む脳」は生まれつきではなく、つくられる

第2の手紙(文字を読む脳の驚くべき光景)では、読む行為が“遺伝で受け継がれた機能”ではなく、脳が既存の回路を転用して組み立てる「学習による構築物」であることが軸になります。だからこそ、環境(どの媒体で、どんな速度で、どんな姿勢で読むか)が、読みの回路に影響する。

ここを押さえると、「スマホで読むのに慣れたから、もう紙の本は無理」という諦めが少し薄まります。逆に言えば、紙だけ/デジタルだけに寄せすぎるのも、脳の使い方を偏らせる。両方のモードを意識して行き来することが、バイリテラシーの発想につながっていきます。

3) “深い読み”が起きるための条件を、生活レベルに落としてくれる

第6の手紙(紙とデジタルをどう両立させるか)〜第8の手紙(バイリテラシーの脳を育てる)は、実践パートとして読み応えがあります。紙の本を神格化するのではなく、「どんな場面で紙を選ぶと深い読みが起きやすいか」「どんな用途でデジタルを活かすとよいか」という設計図に近い。

たとえば、情報収集はデジタルで素早く、理解を深める読書は紙で腰を据えて、という使い分けはありがちに見えて、実は“読みの目的を分ける”という重要なスイッチになります。読みの目的を混ぜると、深く読む時間にまで検索癖が侵入してしまう。読書に「減速」の時間を取り戻す、という言い方がしっくりきました。

4) 子どもと教育の章が、きれいごとで終わらない

第5の手紙(デジタル時代の子育て)と第7の手紙(読み方を教える)は、親や教育に関わる人ほど刺さる内容です。デジタルを排除するのではなく、発達段階に応じて「読み書き力」と「デジタル力」をどう育てるかを考える。ここが、単なる懐古主義ではないところ。

「紙の本で育つ力」と「デジタルで身につく力」を別物として扱い、両方を“教える対象”にする。現代の学びを現実的に捉えているからこそ、提案が極端になりません。

章立て(手紙形式)が効いている

目次は第1〜第9の手紙で構成されています。序盤はデジタル文化が読む脳に与える影響、途中で深い読みの危機と読み手の未来、後半で子育て・教え方・両立・育て方へ。最後の第9の手紙(読み手よ、わが家に帰りましょう)は、「読書」を単なる趣味ではなく、思考と共感の居場所として回収する締め方になっていて、読後の余韻が強いです。

読み終えた後の使い方(紙とデジタルの“自分ルール”づくり)

この本は、読み終えた瞬間に「じゃあ今日から紙だけ!」と決断するタイプではありません。むしろ、紙とデジタルそれぞれの得意な読み方を一度切り分けて、自分の生活に合わせて“混ぜ方”を設計するための本です。

たとえば、調べ物やニュースはデジタルで広く拾い、長文で理解したいテーマは紙でじっくり、というように目的で分ける。あるいは、デジタルで読んだ内容を紙にメモして要点を再構成する。こういう「読み方の切り替え」ができるだけでも、深い読みを取り戻す感覚が出てきます。

こんな人におすすめ

  • つい“速読・拾い読み”ばかりになって、読書の手応えが薄くなっている人
  • 電子書籍も紙の本も使うけれど、使い分けが曖昧な人
  • 子どもの読書や学習環境を考えたい人(家庭・教育のどちらでも)
  • 「集中力が続かない」を根性論以外で説明してほしい人

感想

この本を読んでいちばん残ったのは、「便利さは、読みの筋肉を別の方向に鍛える」という感覚でした。デジタルは悪ではない。でも、デジタルが得意な読み方を“唯一の正解”にしてしまうと、深い読みが起きる条件(減速、沈黙、寄り道できる時間)が消えていく。

紙の本に戻ろう、という呼びかけは懐かしさではなく、思考の質の話として響きます。読書が「知識の摂取」で終わらず、記憶・分析・創造・共感の回路をまとめて動かす時間だと気づかせてくれる。だからこそ、紙とデジタルを対立させるのではなく、両方を“意識して選ぶ”ことが大事なんだと思いました。

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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