レビュー

概要

『イラスト版子どもの発達サポートヨガ』は、子どもの「気持ちが落ち着かない」「集中が続かない」といった困りごとに対して、呼吸とポーズを“発達支援の道具”として使うための本だ。授業の導入、アイスブレイク、からだづくりに取り入れやすい形で、子ども向けにアレンジした呼吸法・ポーズが紹介されている。

本書が目指すゴールは2つある。1つ目は、自分の心と体の状態を知り、コントロールする力を育むこと。2つ目は、相手の心と体を思いやり、協同する力を育むことだ。つまり、「落ち着くための個人技」で終わらず、集団の中での関わり方にまで視野を広げている。

著者はスクールカウンセラーとして学校現場に関わり、知的障害・発達障害の就学進学相談などを経験する中で、「体の発達に合わせた支援」の重要性を実感したという。ヨガを療育やソーシャルスキルトレーニングの文脈で活用し、学校の授業(体育・総合・道徳)でも実践している——この背景が、本の手触りを“現場仕様”にしている。

読みどころ

1) 「注意しなさい」の代わりに、呼吸と姿勢で整える

子どもに集中してほしいとき、大人がやりがちなのは声かけの強化だ。ただ、声かけで一時的に止まっても、身体の興奮が高いままだとすぐ戻ってしまう。ヨガの良さは、気持ちを“説得”するのではなく、呼吸と姿勢から状態を変えられる点にある。本書は、子どもが自分の状態を知り、整える練習として提示しているのが良い。

本書は「授業の導入・アイスブレイク・からだづくりに最適」と明言している。つまり、問題が起きてから鎮める用途だけではない。最初から“整った状態で始める”ための導入として使える。これは現場では大きい。注意や叱責は、その場を止める力はあっても、学びのモードを作るのは苦手だからだ。

2) イラストが「どこに意識を向けるか」を補助してくれる

ヨガの難しさは、同じポーズでも“どこを伸ばすのか”“どこを安定させるのか”が分からないと、形だけ真似して終わることだ。本書はイラスト版で、ポーズを視覚的に理解しやすい。学校や家庭で短時間に回すときほど、「言葉の説明を省ける」ことが継続の鍵になるので、形式自体が実用的だと感じる。

3) 集団で使える(アイスブレイク/協同)に寄せている

発達支援系の本は、個別対応の工夫に寄りやすい。だが本書は、授業の導入やアイスブレイクのように、最初から集団で使う想定がある。自分の心身を整えるだけでなく、相手を思いやって協同する力を育む、という説明は、学校現場のニーズと合っている。

4) 「子どもが主役」の導線がある

この手の取り組みは、大人が管理するほど続かない。子どもが「今、自分は落ち着いてる?」「呼吸が浅い?」「体が固い?」と自己観察できるようになると、声かけの回数が減り、集団の摩擦も減りやすい。本書は、呼吸とポーズを“自分でコントロールする”方向に置いているのが良い。

本書の著者紹介を見ると、就学進学相談や特別支援教育アドバイザー等を経て、研修も多数行っているとある。単にポーズを並べた本ではなく、「子どもにどう渡すか」「先生や保護者はどう使うか」という文脈が最初から入っている。短い本(120ページ)だからこそ、現場で使う側が迷わないように作られている。その点でも読みやすい。

類書との比較

キッズヨガ本は、ポーズ集として楽しく作られたものが多い。一方で本書は、発達支援の文脈で「気持ちを整える」「集中力を高める」を前面に出している。遊びとしてのヨガではなく、学校・家庭での“状態調整”の技法として位置づけている点が差別化ポイントだ。

また、子どものマインドフルネス系の本と比べると、言葉の内省より先に身体から入る。言語化が難しい年齢や特性の子でも取り組みやすいのは、呼吸・姿勢・動きの強みだと思う。逆に、ヨガの運動要素が合わない子や、静かに座る方が落ち着く子もいるので、万能の手段としてではなく、選択肢の1つとして持っておくのが良い。

類書が「親子で楽しむ」「ポーズを覚える」をゴールに置くのに対して、本書は“整える”に軸足がある。だから、ポーズの完成度より、呼吸や姿勢を通して子どもが自分の変化に気づけるか、を重視したい人に向く。子どもの状態は日によって揺れる。揺れる前提で、毎回ゼロから説明しなくて済む道具として、こういう本は価値がある。

こんな人におすすめ

  • 学級運営・授業の導入で、子どもの状態を整える手立てが欲しい先生
  • 家庭で、ゲームや動画の切り替えをスムーズにしたい保護者
  • 発達支援の現場で、SSTや身体アプローチの引き出しを増やしたい人
  • 「注意」より先に、呼吸と体から落ち着かせたい場面が多い人

感想

子どもの集中や落ち着きは、やる気や根性の問題にされがちだが、実際には状態の問題でもある。本書はそこを、呼吸とポーズで扱える形にしてくれる。特に、授業の導入やアイスブレイクに寄せた説明があることで、「特別な支援」ではなく「日常の中の工夫」になっているのが良い。

発達支援は、正しい声かけより先に、摩擦を減らす環境と仕組みが効く場合もある。呼吸と姿勢は、その仕組みを作るための分かりやすい入口だと感じた。イラストで回せる短いメニューがあるだけで、現場の空気が変わる場面は多い。そういう“即戦力”としておすすめできる。

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    佐々木 健太

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