レビュー

概要

記憶トレーニングをゼロから始め、1年で全米記憶力選手権の王者になるまでのプロセスを綴るノンフィクション。日常的に使う記憶の法則(場所法、ストーリーメモリー、連想記憶)に加え、科学的に裏付けられた集中力と睡眠の管理方法も紹介。著者ジョシュア・フォアは記憶術のメソッドを探求する途中で、記憶の科学、潜在能力、そして再現性の高い練習スケジュールを発見し、そのすべてを1冊にまとめている。

読みどころ

・前半では、場所法を自分の家や町にあてはめる方法を丁寧に描写し、各地点に「感情のキー」を設定することで情報のラベル化を行う。このラベルはたとえ忘れかけても、その場所に戻ることで一瞬にして記憶を呼び戻せるよう工夫されている。 ・中盤では、競技記憶に必要な「言葉の連鎖」をストーリー化し、無関係な数字を強烈なビジュアルに変換するトレーニングを紹介。また、競技会のプレッシャー項目として、記憶の前に必ず短い瞑想を挟んで感情を整えるルーチンがあり、焦りを抑えるための呼吸法と心理的フレームがセットになっている。 ・終盤は、記憶力と社会的機能の密接な関係に触れ、確固たる記憶力が自己肯定感を高め、学習や人間関係の質をどう高めるかを描く。フォア自身が記憶力トレーナーになる過程も紹介されており、読者が再現できる練習会のフォーマットとワークショップの構成が掲載されている。

類書との比較

『ムダな努力をやめる記憶術』(アサンプション出版)は短期記憶について語るが、本書は長期記憶を味方につけるためのストーリーテリングに重心を置く。『記憶力を強くする』(技術評論社)はテクニックの列挙が中心だが、本書は手順だけでなく心理的な準備とトレーニングの精神性まで描き、競技会へ挑むというストーリーが読者のモチベーションに作用する。『記憶の教科書』(教育出版)よりも実体験が豊富で、練習者自身の感情と結果を追体験できる点が魅力。

こんな人におすすめ

記憶力に自信がない人、受験やプレゼン、日常タスクに記憶力が必要な人、他人と記憶力で差を出したい人。単なる数字の記憶ではなくストーリーを構成する習慣を持ちたいクリエイターにも向く。逆に記憶力向上に興味のない人や単純な暗記を求める人には物足りないかもしれないが、「記憶」と「物語の統合」に惹かれる人には響く。

感想

自分の場を使って記憶を立ち上げると、忘れることへの不安が減り、記憶すること自体が創造的な遊びになる。フォアの競技会での緊張と集中が丹念に描かれた章では、自分でも似たような集中をつくる練習を始めたくなる。忘れてしまった音や映像がぱっと戻る体験を得るためにこの本を繰り返し読み、記憶訓練のモードを保ちたいと思った。

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