レビュー
概要
『モルフォ人体デッサン』は、人体を「見たまま写す」のではなく、形態の仕組みから理解して描くための本です。著者はミシェル・ローリセラ。デッサン資料集のように見えますが、実際には骨格、筋肉、面、立体、動きの流れをどう捉えるかを学ぶための本で、人体作画の基礎体力を上げるのに向いています。
この本が多くの描き手に支持される理由は、解剖学の知識をそのまま丸暗記させるのではなく、「絵に必要な理解」に変換してくれるからです。人体の各部位をたくさんの角度から描き、フォルムの変化や、面のつながり、筋肉の盛り上がり方がどう見えるかを視覚的に示します。写実にも、漫画やイラストにも返ってくる本です。
読みどころ
1) 骨格と筋肉を、絵を描くための情報として見せてくれる
人体解剖の本は専門的すぎて、描くことにどうつながるのか分からなくなることがあります。本書はそこが違います。骨や筋肉の名称を覚えさせることより、どこが支点になり、どこに厚みが出て、どう回転するかを捉えさせることに重点があります。
たとえば肩、胸郭、骨盤のような大きなパーツの関係が分かるだけでも、全身の安定感は大きく変わります。腕や脚を部分で描くのではなく、胴体とのつながりで見る目が育つので、ポーズの説得力が上がります。
2) 面と立体の捉え方がうまくなる
人体デッサンで難しいのは、線の綺麗さより、立体として破綻しないことです。本書はその点でとても強いです。筋肉や脂肪のふくらみを「面」の変化として見せてくれるので、光の当たり方や陰影のつき方まで理解しやすくなります。
これにより、平面的な絵から抜け出しやすくなります。特に、ただ輪郭をなぞる癖がある人には効果的です。体を箱や円筒の単純形に近い発想で整理しながら、その上に複雑な形態を乗せていく感覚がつかめるからです。
3) 動きのあるポーズに強くなる
本書の価値は静止した人体だけではありません。ひねる、伸ばす、しゃがむ、走るといった動きの中で、形がどう変わるかを意識できるようになります。人体は動くと、左右対称ではなくなり、均一な形も崩れます。構造が分かっていないと一気に不自然になります。
本書では、動きの中でもどこを基準に見ればよいかが分かるので、アクションや日常ポーズの作画にかなり役立ちます。漫画やアニメ、ゲームイラストのように、動きの説得力が求められる絵を描く人には特に相性が良いでしょう。
特に便利なのは、胴体と骨盤、肩と腕、脚の付け根と膝の流れを一連で捉えやすくなることです。部分ごとに描いていたときより、全身のつながりで見られるようになるので、ポーズ全体の安定感がかなり上がります。
4) 模写の質を上げる本でもある
人体の資料集は模写に使われることが多いですが、本書はただ写すための本ではありません。どう観察し、どこに注目し、何を理解しながら模写するかを変えてくれる本です。模写をしていても上達感が薄い人は、形を表面だけ追っていることがあります。本書はその視線を、構造のほうへ向け直してくれます。
その結果、模写した知識がオリジナルの作画にも戻ってきやすくなります。手や足先まで流れで見られるようになるので、細部だけ浮く失敗も減らしやすいです。短時間のクロッキー練習にも相性が良いです。資料依存から一歩抜けたい人にとって、有効な橋渡しになる本です。
こんな人におすすめ
- 人体の構造を根本から理解したい人
- ポーズをつけると体が不自然になりやすい人
- 立体感や面の変化をもっと描けるようになりたい人
- 漫画、イラスト、アニメ系の人体作画を強化したい人
- 模写をしてもオリジナルに活かせないと感じている人
感想
この本は、人体を「知識」として覚える本というより、「観察の仕方」を変える本でした。見た目の線を追うのではなく、内部の構造から形がどう現れているかを考えるようになるので、描き方そのものが少し変わります。最初は難しく感じても、何度か見返すと理解が深まるタイプの本です。
特に、ある程度描いているのに人体で伸び悩んでいる人には効くと思います。感覚だけで描いていた部分に、ちゃんとした支えが入るからです。資料集としても優秀ですが、それ以上に、人体作画の視点を底上げしてくれる一冊でした。