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レビュー

概要

『脳には妙なクセがある』は、脳研究者の池谷裕二さんが、最新の脳科学や心理学の知見を日常の行動や感情に引き寄せて解説した本です。版元ドットコムの紹介では、「あまりにも人間的な脳の本性。最新の知見をたっぷり解説」とあり、目次にも「脳は妙にIQに左右される」「脳は妙に自分が好き」「脳は妙に運まかせ」といった印象的な見出しが並びます。専門書ではなく教養書ですが、単なる雑学集ではありません。

新潮社の文庫版ページに掲載された書評では、本書を「実社会や日常生活での具体例を様々な視点から紹介している脳の仕様書、解説書」と評しています。たしかにこの表現がよく合います。脳を神秘化するのでなく、偏りや思い込みや無意識の反応まで含めて、「こういう仕様だから人間はこう動くのか」と読ませる本です。

本の具体的な内容

本書の面白さは、脳の性質を抽象的な説明で終わらせず、ひとつひとつの「クセ」として切り出しているところにあります。版元ドットコムにある目次だけでも、「脳は妙に信用する」「脳は妙に知ったかぶる」「脳は妙にブランドにこだわる」「脳は妙に人目を気にする」など、人間の困った性質が次々に並びます。読み手はそれを他人事の知識としてでなく、「確かに自分にもある」と感じながら読めます。

たとえば前半では、信頼、運、後知恵バイアス、ブランド志向といったテーマが扱われます。信頼の判定を脳はどうやってしているのか。なぜ「今日はツイてる」と思い込めるのか。なぜ結果を知ったあとだと「最初から分かっていた」と感じてしまうのか。なぜオーラやカリスマのような曖昧なものに影響されるのか。こうしたテーマは、行動経済学や社会心理学にもつながる話ですが、本書では脳のレベルから一度組み直されます。

中盤に入ると、本書の話題はさらに広がります。新潮社の文庫ページにある目次では、「脳は妙にゲームにはまる」「脳は妙に笑顔を作る」「脳は妙に勉強法にこだわる」「脳は妙に赤色に魅了される」といった章が並びます。ここで良いのは、脳科学の話がそのままプレゼン、勉強法、色彩、対人印象の話へつながることです。たとえば、映像的な説明に人が弱いこと、笑顔や姿勢が感情へ逆に働きかけること、「入力」より「出力」が重要になることなど、読んだその日から自分の行動を見直せる論点が多いです。

さらに後半では、幸福感、嗜好、食、議論、会話、直感、自由意志、睡眠、オカルト、瞑想、身体性といった大きなテーマまで射程に入ります。とくに目を引くのは、「脳は妙に不自由が心地よい」という章題です。新潮社の目次では、この章に「80%以上はおきまりの習慣に従っている」「自由意志は脳から生まれない」「意識に現れる『自由な心』はよくできた幻覚」といった小見出しが並んでいます。ここまで来ると、本書は単なる脳の豆知識の本ではなく、「自分で決めているつもりの自分」を問い直す本になっています。

睡眠や瞑想の章も、流行ワードをなぞるだけではありません。新潮社ページでは、「睡眠の成績も肝心!」「就寝前は記憶のゴールデンアワー」「20分の瞑想を5日間でどう変化するか」といった項目が確認できます。つまり本書は、脳の研究をそのまま生活改善へつなげるのではなく、どのような現象が報告されているのかをエピソードとして見せます。ここが読みやすさにつながっています。

また、章立てが短い単位で連続するため、読者は気になるテーマから入れます。ブランドやゲームのような身近な話から読み始めてもいいし、睡眠や勉強法の章だけ拾ってもよい。にもかかわらず、全体を通すと「ヒトの心は思っている以上に身体や環境に左右される」という一本の見方が残ります。新潮社の書評文にあった「脳の仕様書」という表現は、その意味でも的確です。

本書が優れているのは、脳科学を人間理解の万能鍵として振り回さないことです。脳の話を使って人間を単純化するのでなく、むしろ人間がどれほど無意識や身体性や環境に支配されているかを丁寧に見せる。だから読後には、「脳ってすごい」で終わるより、「自分の判断は思ったよりあやしい」という感覚が残ります。それがこの本の教育的な強さです。

類書との比較

脳科学の一般書には、記憶だけ、睡眠だけ、集中力だけに絞った本も多いですが、本書はそのどれにも限定されません。判断バイアス、信頼、愛情、学習、睡眠、自由意志までを横断しながら、すべてを「脳のクセ」という共通言語でつないでいます。テーマの広さに対して散漫になりにくいのは、章題の立て方がうまいからだと思います。

こんな人におすすめ

  • 脳科学を雑学としてでなく、自分の判断や習慣の理解に使いたい人
  • 認知バイアスや無意識の影響を、具体例つきで学びたい人
  • 池谷裕二さんの本を初めて読む人

感想

この本の良さは、脳科学を権威づけの道具にしないことです。脳画像や専門用語で「だから正しい」と押し切るのでなく、日常の行動や感覚へ戻して説明します。そのため、読者は知識をありがたがるより先に、自分の生活のなかで確かめたくなります。

読みながら何度も感じるのは、人間は思っている以上に「合理的な自分」を保てていないということです。運やブランドに引きずられ、思い込みで後知恵を作り、自由に決めているつもりで習慣に従っている。本書はその事実を少し痛い形で見せてきますが、同時にそれを面白く読ませます。教養書としても、自己観察のきっかけとしても強い一冊だと感じました。

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

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