レビュー
概要
『よるくまクリスマスのまえのよる』は、酒井駒子の代表作『よるくま』の世界を引き継いだクリスマス絵本です。明日はクリスマス。でも「ぼく」は、サンタさんが本当に来てくれるのか少し不安です。そんな夜に、夜みたいに黒い小さなくま、よるくまがやってきて、一緒に静かな時間を過ごします。
話の大きさで言えば、とても小さな出来事しか起きません。けれど、子どもがクリスマスの前夜に感じる期待と不安、お母さんに甘えたい気持ち、ちゃんといい子でいられたか心配になる感じが、短い言葉と絵で驚くほど丁寧に描かれています。
読みどころ
いちばんの魅力は、クリスマス絵本なのにテンションを上げすぎないところです。きらびやかなイベント感より、眠る前の部屋の暗さ、ほんの少しの心細さ、そこで誰かがそばにいてくれる安心感に重心があります。だから、派手な物語ではないのに強く残ります。
また、よるくまが単なるマスコット的存在ではない点も大事です。よるくまは、「ぼく」がうまく言葉にできない寂しさや甘えたい気持ちを、代わりに受け止める存在として動いています。子どもは成長すると、うれしいだけでなく、不安や遠慮も抱えます。この絵本は、その複雑さをやさしくすくっています。
酒井駒子の絵もやはり圧倒的です。暗い背景の中にある光、眠る前の顔、ぬいぐるみの質感、毛布のやわらかさ。どれも音がしないはずなのに、静かな夜の気配がそのまま伝わってきます。読んでいる大人のほうが、先に気持ちを持っていかれるかもしれません。
類書との比較
クリスマス絵本には、プレゼントやサンタクロースのわくわくを前面に出す本がたくさんあります。その中でこの本は、イベントそのものより、子どもの心の揺れに寄り添う方向へ振れています。『100にんのサンタクロース』のようなにぎやかさとは別の良さがあり、寝る前の読み聞かせに向いています。
『よるくま』シリーズらしい夜のやさしさはそのままですが、クリスマス前夜という設定のおかげで、待つ気持ちと不安がよりはっきり見えます。季節絵本でありながら、「いい子でいなきゃ」「でも甘えたい」という幼い心の本音に触れている点で、かなり深い一冊です。
こんな人におすすめ
- 3歳前後からの読み聞かせで、寝る前に静かに読める絵本を探している人
- クリスマス絵本でも、にぎやかさより気持ちの機微を重視したい人
- 酒井駒子の絵が好きな人
- 子どもがサンタさんを少し不安そうに待っている時期の家庭
感想
この本を読むと、子どもにとってクリスマスは楽しいだけではないのだとわかります。楽しみだからこそ、来てくれなかったらどうしよう、自分はいい子だったかな、という不安も大きい。その気持ちを否定せず、そのまま抱きしめるような本です。
大人が読むと、「ぼく」がほんとうに求めているのはプレゼントだけではないことが見えてきます。安心して眠れること、お母さんを好きでいていいこと、明日を楽しみにしていいこと。その確認がこの一冊に入っています。クリスマスの読み聞かせ本として長く残る理由がよくわかる絵本です。
子どもの不安の描き方がうまい
子ども向けの本では、「大丈夫だよ」と早く安心させる方向へ進むことが多いです。でもこの本は、その前にちゃんと不安を置きます。サンタさんは来るのか、自分は待っていていいのか、お母さんに甘えたいけれどもう少しお兄ちゃんでいなければいけないのか。その揺れを短い場面の中で受け止めるので、読んでいる子どもが自分の気持ちを重ねやすいです。
よるくまの存在も象徴的です。現実の友だちというより、夜の不安に寄り添う相棒のように見えます。だから、よるくまとのやり取りは、ただかわいいだけで終わりません。子どもがひとりで抱えていた気持ちを、外へ出すきっかけになっています。
読み聞かせで効く一冊
読み聞かせでこの本が強いのは、読み手が感情を盛りすぎなくても届くところです。大きな声で盛り上げなくても、ページをめくる間や静かな場面の余白がそのまま効きます。寝る前に読むと、楽しいから眠れなくなる本ではなく、不安をほどいて眠りに入れる本として働きます。
クリスマス絵本を何冊も読む家庭なら、にぎやかな一冊と静かな一冊を分けて置くと、この本の良さがよくわかります。きらきらした高揚感だけでは拾えない気持ちを、この絵本は担当してくれます。毎年同じ時期に読み返しても古びないのは、その感情の芯が子どもの成長とずっとつながっているからだと思います。
読み聞かせ向きの一冊
文章量は多くないので、読み聞かせやすさも高いです。ただ、急いで読むともったいない本でもあります。ページをめくる間や暗い場面の静けさまで含めて読めると、この本の良さがいちばん出ます。にぎやかなクリスマス絵本とは別に一冊置いておきたい本です。
大人が読む価値
この絵本は子どものための本ですが、大人が読むと「安心させること」の難しさまで見えてきます。不安をすぐ打ち消すのではなく、まずその気持ちを認めること。そのうえで、そばにいて一緒に夜を越えること。親が子どもにしたいことが、そのまま物語の形になっています。小さい本ですが、毎年読み返したくなる理由はそこにあると思います。