レビュー
「天才ピアニストもの」の期待を、良い意味で裏切る
『神童 1』は、天才的な小学生ピアニストを主人公に据えた作品です。ただ、単純なサクセスストーリーではない、と語られています。軽やかでコミカルな展開が、後半で一気にドラマ性を帯びる。そうした振れ幅が魅力として挙げられています。
主人公の名前は「うた」。この名前の時点で、作品の空気が少し分かります。華やかさより、生活の匂いがする。天才が天才のまま勝つ話ではなく、才能があるからこそ背負うものがある。そういう方向へ進む物語だと受け取りました。
クセがあるからこそ、記憶に残る
本作は、絵と話にクセがある、と評されています。さらさらと楽しんで読みたい人には別作品がある。静かにピアノの美しさへ浸りたい人にも別作品がある。その上で「一味違ったピアノの漫画」を読みたいなら『神童』だ、と勧められています。
この言い方は正直です。万人向けの安心設計ではありません。だからこそ、刺さる人には深く刺さります。物語がときおり道を外れる、という表現も印象的です。王道のレールに乗り切らない。そこに独特の余韻が生まれます。
比較の基準がはっきりしている
音楽漫画の読み味は、作品ごとに違います。その違いが言葉にならないと、好みの説明が難しくなります。本作は「一味違う」と評される一方で、比較の基準も提示されています。
- さらさらと楽しんで読みたいなら別作品
- 静かにピアノの美しさへ浸りたいなら別作品
- ひとクセあるピアノ漫画を読みたいなら『神童』
この整理があると、自分の気分に合うかどうかを判断しやすいです。読む前の期待調整ができます。
たとえば「笑える音楽漫画が読みたい」と思っている日には、別の作品へ行く方が満足しやすいです。逆に「音楽の美しさへ浸りたい」と思っている日も同じです。そうではなく、少し癖のある読後感を求める日がある。そういう時に本作が合います。
コメディからドラマへ切り替わるテンポ
語られている感想の中で、特に印象に残るのがテンポの良さです。軽やかでコミカルな展開が続いた後、後半でドラマ性が増していく。そこで一気に読ませる。そうした構造が示されています。
天才ものは、上達の快感で引っ張る作品が多いです。本作はそこに寄り切りません。テンポで読ませつつ、才能がある人の揺れや試練へ踏み込む。だから、読み終えた後に残る感触が少し苦いです。その苦さが、音楽漫画としての厚みになります。
中心にあるのは、音楽への畏敬
作品の中心は音楽だ、と語られています。音楽家と音楽を畏敬していることが伝わる。音楽が本当に素晴らしいものだと感じる。そうした感想が出るのは、描写が表面的でないからだと思います。
漫画で音は鳴りません。それでも、主人公うたが弾く「素晴らしい音」がどんなものか、聴いてみたいと思わせる。そうした読後感が示されています。音の不在を、想像で埋めさせる強さがある作品だと感じました。
類書比較:安心して笑える作品や、静謐な作品との違い
音楽漫画の類書には、軽やかに笑えて読み進めやすい作品があります。反対に、静かに音楽の美しさへ浸れる作品もあります。そうした類書と比べると、『神童』は「一味違う」と言われます。
違いは、クセの濃さとテンポです。コミカルさがあるのに、後半でドラマ性が増す。道を外れるように見えて、音楽への敬意が芯として残る。このバランスが独特です。気持ちよく消費するより、引っかかりを持ち帰るタイプの作品だと思います。
音楽漫画をいろいろ読んできた人ほど、本作の立ち位置が面白く感じられるはずです。王道から少しずらした場所で、音楽と才能の物語を読みたい人に向きます。
また、双葉社コミック文庫の名作シリーズとして出ている点もありがたいです。まとまった形で読めます。音楽漫画を「名作枠」として押さえたい人にも合います。
類書との違い(補足):読み終えてから考えが残る
読みやすい音楽漫画は、気持ちよく読み終わります。本作は少し違います。クセがある分だけ引っかかりが残ります。その引っかかりが、音楽や才能について考えるきっかけになります。だから、読み終えた後に会話が始まりやすい作品だと感じました。
「スモーク味」の正体は、寄り道の豊かさ
本作は、味に例えるならスモーク味だ、といった表現も見かけます。真っ直ぐで分かりやすい甘さではありません。少し癖があります。物語がクネクネする、と評されるのも同じ文脈です。
この癖は欠点にもなります。テンポよく王道を走りたい人には合いません。ただ、寄り道があるからこそ、人物の輪郭が残ります。音楽の世界へ踏み込む時の怖さも残ります。読み終わり方が、すっきりではなく「しみる」に寄る。そこが本作の魅力だと感じました。
音楽漫画の棚で「次は何を読もう」と迷った時、こういう癖の強さはむしろ助けになります。読み味がはっきり違うからです。だから、類書を一通り読んだ後の1冊としても価値があります。