レビュー

交渉が苦手な人へ向けた「やさしい」交渉術

『心理カウンセラー弁護士が教える 気弱さん・口下手さんの交渉術』は、交渉が怖い人へ向けて書かれた本です。交渉の本は多いです。実践的です。けれど高度です。細かいノウハウが多いです。交渉が得意な人の前提で進みます。本書はそこを外します。

出版社側の説明でも「ハーバード流…などとは違います」と明記されています。強い言葉で押し切るタイプではありません。気弱でも、口下手でも、引っ込み思案でも使える交渉術を狙います。

核は「聴く」交渉術にある

本書の中心は心理学をふまえた「聴く」スキルです。弁護士として交渉を続ける中で、心理学的なアプローチを使い、「聴く」スキルを磨くことでノウハウを身につけたと紹介されています。ここが特徴です。

交渉というと話術へ意識が向きます。反論の切り返しが重要だと思いがちです。本書は逆です。まず聴く。相手の前提を整理する。こちらの条件も整理する。そこから落とし所を作ります。話す前の設計が勝ち筋になります。

準備段階の「条件リストアップ」が効く

説明文では、準備段階の「条件リストアップ」を重要として挙げています。交渉が苦手な人は、その場で考えようとします。その場で考えると詰まります。詰まると譲り過ぎます。後で後悔します。だから準備が必要です。

条件は、金額だけではありません。期限、範囲、優先順位、代替案。こうした要素を先に棚卸しすると、交渉中に迷いが減ります。迷いが減ると、声のトーンが安定します。安定すると相手の反応も変わります。ここは交渉が苦手な人ほど効きます。

日常の交渉まで射程に入る

本書は、本格的な交渉だけではなく、よくある日常の交渉事まで使えるとされています。準備、聴き方、意見の伝え方、相手に花を持たせるおさめ方まで扱う流れです。仕事の値上げ交渉だけではありません。社内の調整も含みます。家庭内の相談も含みます。

交渉が苦手だと、「対立」に見える瞬間で固まりやすいです。本書は対立を避けるだけではありません。相手と自分の両方が納得できる形を目指すと説明されています。勝つより守る。守るために技術を使う。そういう方向性が合います。

類書比較:強者の交渉術より、再現性が高い

交渉の類書には、強い主張の通し方を教える本もあります。理屈は正しいです。ただ、気弱な人が同じ動きをすると不自然になります。不自然さは相手へ伝わります。結果として失敗します。

本書は、口下手だった著者自身の経験を踏まえるとされています。だから、派手な一撃より、準備と聴く力へ寄ります。ここに再現性があります。交渉を避けたい人が、避けずに済む状態へ近づける。そういう意味で実用性が高い1冊です。

「交渉にもいろいろある」を前提にできる

本書の説明文では、交渉にはいろいろあると述べた上で、基本的なノウハウを身につければ誰でも余裕をもってできるとしています。ここが効きます。交渉が苦手な人は、すべての交渉を同じ重さで感じがちです。重さが同じだと、全部が怖くなります。

交渉の重さを分けると、練習が可能になります。日常の小さな交渉から試す。慣れたら仕事の調整へ広げる。最後に大きな交渉へ向かう。そういう段階づけが現実的です。本書はその方向へ背中を押します。

「相手に花を持たせるおさめ方」が実務で効く

説明文は、おさめ方として「相手に花を持たせる」観点へ触れています。これは、勝ち負けを作らないための技術です。交渉が苦手な人は、対立を避けるために譲り過ぎます。譲り過ぎると不満が残ります。不満が残ると次の交渉が怖くなります。

相手の面子を守りつつ着地する発想があると、譲る以外の選択肢が増えます。増えると怖さが減ります。怖さが減ると準備ができます。この循環を作れる点が、本書の価値だと感じました。

類書との違い(補足):強い主張の前に、土台を作る

強い交渉術の本は、反論や切り返しを学ぶ場面で役に立ちます。ただ、その前に土台が要ります。条件の整理です。相手の関心の把握です。自分の優先順位の確認です。本書は、そこへ焦点を当てます。交渉が苦手な人にとっては、土台から整える方が早いです。

今日から使えるミニ手順

交渉を難しく感じる時は、手順が頭にない状態です。手順があると落ち着きます。本書の方向性に沿うなら、次の順で動くと始めやすいです。

  1. 条件を書き出す
  2. 優先順位を付ける
  3. 相手の事情を聴く
  4. 代替案を1つ用意する
  5. 着地は面子も意識する

この順番を知っているだけでも、交渉の怖さは下がります。

慣れてきたら、交渉の前後でメモを残すと学習が速くなります。準備で何を書いたか。相手が何を気にしていたか。次は何を改善するか。ここまで回せると、交渉が経験則ではなく技術になります。

交渉の目的は、相手を負かすことではありません。合意を作ることです。本書は、その合意づくりを「聴く」方向から支えます。強い言葉を使わずに前へ進みたい人に合います。

この本が登場する記事(1件)

本の虫達

要約・書評・レビューから学術的考察まで、今話題の本から知識を深めるための情報メディア

検索

ライター一覧

  • 高橋 啓介

    高橋 啓介

    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
  • 森田 美優

    森田 美優

    出版社勤務を経てフリーライターに。小説からビジネス書、漫画まで幅広く読む雑食系読書家。Z世代の視点から現代的な読書の楽しみ方を発信。
  • 西村 陸

    西村 陸

    京都大学大学院で認知科学を研究する博士課程学生。理系でありながら文学への造詣も深く、科学と文学の交差点で新たな知の可能性を探求。
  • 佐々木 健太

    佐々木 健太

    元外資系コンサルタントから転身したライター。経済学の知識を活かしながら、健康・お金・人間関係の最適化を追求。エビデンスベースの実践的な知識発信を心がける。

Social Links

このサイトについて

※ 当サイトはアフィリエイトプログラムに参加しています。