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レビュー

概要

『起業のファイナンス増補改訂版』は、スタートアップやベンチャーを立ち上げる人が避けて通れない「お金の設計」を、起業家の立場から体系的に学べる本です。資金調達の方法を羅列するのではなく、自己資金、融資、エクイティ、株主構成、企業価値、ストックオプション、出口戦略までを一連の流れとして理解できるのが特徴です。起業本の中でも、お金の部分だけをここまで骨太に扱う本はそう多くありません。

本書の重要な視点は、「調達できればよい」ではなく、「どんな条件で、誰から、いつ資金を入れるかが経営の自由度を決める」ということです。起業初期はプロダクトや営業に意識が向きがちですが、資本政策を間違えると、事業が伸びても創業者の裁量が削られます。本書はその現実をかなり率直に書いていて、起業家が後回しにしがちな論点を早い段階で真正面から考えさせてくれます。

読みどころ

読みどころは、難しいファイナンス用語を現場の意思決定に結びつけているところです。企業価値評価や希薄化の話も、数式だけで終わらず、「この条件で第三者割当増資を受けたら持分はどう変わるのか」「次のラウンドで苦しくならないか」といった創業者目線の問いに戻して説明されます。数字が得意でなくても、何を見ないと危ないのかがわかる構成です。

資本政策表、ストックオプション、優先株、投資契約といった論点も、あとから「もっと早く知っておけばよかった」となりがちな部分ですが、本書はそこを丁寧に押さえています。調達の華やかな面だけでなく、条件の重さ、将来の制約、交渉で譲ってはいけない線まで意識させるので、創業者の防御力がかなり上がります。

事業計画やキャッシュフローの見方も実務的です。売上の夢を語るより先に、いつ資金が尽きるのか、どの数字を毎月追うのか、苦しくなったときに何を優先して守るのかという視点が強いので、起業直後の現実に近いです。理想論ではなく、会社を生かし続けるための数字の本として読めます。

類書との比較

リーンスタートアップや起業体験記のような本は、仮説検証やプロダクトづくりには強い一方で、お金が入った瞬間に何が起きるかまでは深く扱わないことが多いです。本書はその空白を埋めてくれます。起業準備の本を何冊か読んだあとに本書へ進むと、事業の見え方が一気に現実的になるはずです。

また、海外のファイナンス本だと概念は学べても、日本の起業家が実際に直面する制度や交渉感覚に落としにくいことがあります。本書はその点、日本のスタートアップ文脈で読めるのが大きいです。起業家本人だけでなく、CFO候補、事業会社の新規事業担当、起業支援に関わる人にも役立つ実務書だと思います。

こんな人におすすめ

  • 自らファイナンス面を統括するスタートアップ創業者やファウンダー
  • 部門横断で資金調達を支える大企業の新規事業チームリーダー
  • 資金計画や株主構成を整理したいビジネススクール生や起業支援者

感想

この本を読むと、起業に必要なのは熱意や行動力だけではなく、条件を読み解く力だと痛感します。資金調達を前向きなイベントとしてだけ見るのではなく、その裏側にある支配権、責任、将来の制約まで考えるようになるので、起業の見え方がかなり変わります。数字に強くない人ほど、先送りせず早めに読む価値があります。

これから会社を作る人はもちろん、すでに事業を始めていて「調達はまだ先」と思っている人にもおすすめです。実際には、調達のかなり前から考えておくべきことが多く、本書はその準備をかなり具体的に助けてくれます。再読価値が高く、手元に置いて何度も確認したくなる起業本でした。

起業本を何冊か読んで気分は上がったのに、数字の話になると急に足が止まる人には、この本が良いブレーキになります。厳しい内容もありますが、怖がらせるためではなく、後で取り返しがつかない失敗を防ぐための厳しさです。事業計画書を書き始める前後、あるいは投資家と初めて会う前に読んでおくと、見える景色がかなり変わるはずです。

起業の夢を現実に変える段階で、避けて通れない数字の責任をきちんと引き受けさせてくれる本でした。

売上の伸ばし方を学ぶ本とセットで読むと、事業の攻めと守りが初めて同じ視界に入ってきます。

起業家の判断ミスがどこで致命傷になるかを、早い段階で教えてくれる点でも貴重です。

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    佐々木 健太

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