レビュー
概要
『離職防止の教科書』は、部下の離職が怖いと感じたことがある上司へ向けた本です。 採用を強化しても、業務を効率化しても、辞める人が増えると現場は持ちません。 本書は、まず「人材の流出を止める」ことを正面から扱います。
特徴は、離職の原因を気分や相性で片づけず、構造として整理する点です。 紹介文では、離職の心理を4種類に体系化し、部下のタイプも9種類へ分けて対策を示すとされています。 さらに、1200社の職場改善をしてきた著者による実例が多いことも売りです。
読みどころ
1) 離職を決意する4つの心理的要因で、原因を取り違えない
離職は、だいたい複合要因です。 1つの施策で止まるとは限りません。 その前提を置いた上で、本書は4つの心理的要因を扱います。
目次にあるのは、次の4つです。
- 生存欲求
- 関係欲求
- 成長欲求
- 公欲
この整理があると、会話の焦点がズレにくいです。 給与だけの問題に見える。 ただ、実は関係欲求が壊れている。 こういうケースは珍しくありません。 原因の取り違えが減るだけで、離職防止は前に進みます。
2) 生存欲求は「労働環境」を整える話として扱う
本書の第2章は、生存欲求の章です。 労働環境を整え、離職を防ぐとされています。
ここが刺さるのは、上司が努力しても、環境が悪いと全部が空回りするからです。 残業です。 業務量です。 属人化です。 休めない空気です。 離職の芽は、まずここで育ちます。 環境から手をつける視点があると、対策が現実になります。
3) 関係欲求は「人間関係の摩耗」を放置しない
第3章は関係欲求です。 人間関係による離職を防ぐ章として置かれています。
退職理由は、建前が出ます。 ただ、関係の摩耗は、最後の引き金になりやすいです。 小さな不信です。 相談しづらさです。 評価への納得感のなさです。 こういう温度感を見逃さないために、タイプ別の対話が必要になります。
4) 成長欲求と公欲で「辞めたくなる理由」を分ける
意欲が高い人ほど、成長欲求で離れます。 やりがいが見えないと、公欲で離れます。
第4章は成長欲求です。 第5章は公欲です。 この並びがあると、引き止め方が変わります。 成長が欲しい人に、仲良くしようは効きません。 公欲が折れている人に、研修を増やすだけも効きません。 欲求の種類が違うからです。
5) 年代別、意欲・能力別の章で「9タイプ」を実務へ落とす
本書の第6章は、年代別、意欲・能力別の要因と対応です。 ここが、9タイプの使いどころだと思います。
同じ言葉でも刺さり方が違います。 同じ制度でも効き方が違います。 だから、部下をタイプで見て、行動を変える必要があります。 類型化は乱暴にも見えます。 ただ、現場で迷って動けなくなるより、まず型を持つほうが強いです。
6) 会社に求められる対応と「自分と向き合う」章が用意されている
離職防止は、上司だけの責任ではありません。 第7章では会社に求められる対応が扱われます。その現実を踏まえているからだと思います。
さらに第8章で、部下と向き合う前に自分と向き合うとされています。 ここがあると、ノウハウ本で終わりません。 自分の関わり方も含めて改善できます。
4つの欲求を「チェック項目」として使う
本書の4つの欲求は、そのままチェック項目になります。 見落としやすい順番で点検できるからです。
生存欲求は、環境です。 仕事量です。 休みやすさです。 不公平感です。
関係欲求は、関係です。 相談のしやすさです。 衝突の放置です。 孤立です。
成長欲求は、成長です。 任せ方です。 フィードバックです。 伸びる道筋です。
公欲は、やりがいです。 仕事の意味づけです。 貢献の実感です。 組織の目的への接続です。
章タイトルが示す通り、ここを整えるほど離職の芽は小さくなります。 一方で、1つだけ整えても止まらないことがあります。 その点を、複合要因として扱っているのが本書の強みです。
9タイプの狙いは「言い方を変える」ことだと思う
第6章が年代別、意欲・能力別になっているのは、現場のリアルに合っています。 同じ制度でも受け取り方が違います。 同じ注意でも刺さり方が違います。
9タイプは、相手をラベリングするためではないはずです。 言い方を変えるための補助線です。 任せ方を変えるための補助線です。 距離感を変えるための補助線です。
上司が「良かれと思って」やったことが逆効果になる場面は多いです。 タイプ別の前提があると、その事故が減ります。
読み方のコツ
いきなり施策を当てはめるより、まず部下を1人選んで整理します。 次に、4つの要因のどこが強いかを仮置きします。 その上で、章を対応させる読み方が合います。
生存欲求なら環境です。 関係欲求なら関係です。 成長欲求なら成長の道筋です。 公欲ならやりがいです。 仮置きでもいいので、迷いが減ります。
類書との比較
- 1on1の本は、対話の型が中心になりがちです。本書は、対話の前に「離職の心理」を4つに分け、原因を見誤らない土台を作ります。
- マネジメント本は、抽象的な理想論になりがちです。本書は、実例を多く扱い、現場の温度感で理解を進められます。
- 採用の本は、集め方が中心になりがちです。本書は、定着と育成を主題に置き、人手不足対策を「流出防止」から始めます。
- 評価制度の本は、制度設計が中心です。本書は、年代や意欲、能力といった違いを前提に、個別対応へ落とします。
こんな人におすすめ
- 部下が辞めそうで不安な人
- 離職理由が見えず、対策が空回りしている人
- 定着と育成をセットで強くしたい人