レビュー
概要
「貯金」を単なる収支の記録ではなく、“しあわせ貯金”という概念で再定義し、今の暮らしの穏やかさと未来の安心感の両立を目指す一冊。著者はファイナンシャルプランナーでありながら、家族や地域とつながる暮らしを尊重する暮らし方提案をしている。毎月の積立よりも、「今日の自分が嬉しくなる選択」と「十年後に後悔しない選択」の両方に目を向けることを丁寧に説く。
読みどころ
- 第1章で「3つの貯金」を定義する。数値で積み上げる“お金貯金”に加え、時間や健康、人とのつながりも貯金になり得るという提示が、実践的な貯め方・使い方の両者をつなげている。具体的には、子どもとの休日の過ごし方に「プチルーティン」を入れ、先送りしていた健康診断を「しあわせ貯金」のひとつとして位置づける。
- 第2章では「家計の整理術」を家族会議のプロセスで紹介。家計簿アプリや銀行サービスより先に、「家族の価値観を紙に書く」ワークを入れ、結果的に無理のない貯金額やリスク許容度を自然に決める流れにしている。単純な節約ではなく、食事や趣味の選び方を一緒に見直す可視化が他書より丁寧だ。
- 第3章では「未来のために貯める」パートで、5年後・10年後のライフイベントを描き、それに必要なステップを逆算する。たとえば家をリノベーションするなら、今の生活習慣の“粗”を手帳に書き出し、そこから必要なキャッシュフローと捨てていいアクティビティを判断する。心のゆとりを減らさずに、支出を自然にシフトできる仕掛けが多い。
- 第4章の後半では、お金の話をタブーにしない家族文化を育てるための会話例を紹介。年齢別の話題の作り方、親が先に失敗談を話すと子どもが率直になるというエピソードなど、トーンまで整えている。
類書との比較
『お金の教養』が知識の整理に重きを置いて資産の基礎知識を網羅するのに対し、本書は「今日の選択」を軸にしている。両者はどちらも金融の基本を押さえているが、『お金の教養』が“知識を身につける”ことに集中し、「しあわせ貯金」は“知識をどう暮らしになるかに翻訳する”点で補完関係にある。たとえば、総資産の計算をする前に「朝の光を浴びながら5分、家族と会話する」など習慣の改善を並べた部分は、ほかの家計本では読めない。
こんな人におすすめ
・忙しい日々のなかで「来年のための貯金」は頭にあるけれど、今の暮らしも楽しみたいと感じる人。数値だけでなく、時間や健康のあり方を同じ土俵で語るため、無理なく毎月の財布を調整できる。
・家計の話をしたくても出てこない家庭。価値観を可視化するワークや会話例があれば、気まずさを減らして自然に話題を共有できる。
・これから先のライフイシューに備えたいシニア世代。定年後の時間をどのように使うかを「しあわせ貯金」の感覚で整理する章があり、未来の使い方を描ける。
感想
通読して驚いたのは、お金の話が感情と回路で繋がれていたこと。貯金という言葉が数字だけの世界でなく、朝の自分がホッとする時間や、両親への感謝の手紙を書くときの気持ちまで含むように作られていて、「貯める=我慢する」では決してない。シンプルな表現で、今日の選択が未来の安心につながるプロセスを丁寧に追っていくので、読後には気持ちの余白が広がった。自分の手元にいる資産だけでなく、時間や体調といった“目に見えにくい通貨”をどう使うかの視点が特に日常の判断に効いてくる。