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レビュー

概要

バーチャル美少女ねむが「メタバースの勘所を知っている原住民」として2022年にまとめたルポルタージュ。メタバースは単なる技術的なトピックではなく、個人が新しいアイデンティティを獲得し、「解放」と「創造」が同居する荒野であると筆者は語る。書籍は2021年10月のMeta社への社名変更をリアルタイムで追跡した体験から始まり、VRChatやcluster、ハロウィンなどのイベントまで、仮想空間の「異種」が混在する様子を肌感覚で描写。聞き取り対象にはVRアーティスト、イベント主催者、技術スタッフが含まれ、総合的な視点で「今のメタバース」がどこにあるのかが浮かび上がる。

そのための短いエッセイが各章に散りばめられ、書き下ろしインタビューの抜粋や、実際に触ったヘッドセットのスペック比較、ライブ配信で使った背景画の作り方などが厚みを加えている。章をまたいで出てくるのは当事者たちの「あの時どうしたか」という記憶で、それがまるで旅のガイドブックのように連なっている。

さらに、物理空間との継ぎ目も描写し、自宅のPCでVR機材を操作する様子が紹介されている。 アバター作りではモデリングソフト越しに人肌を感じる工程が現場の視点で説明され、単なる技術解説ではなく、「自分の身体をどう再構成するか」という問いかけを受け止める文学的な寄り道になっている。物理の仕事と仮想の感覚の同居を体験させてくれる点も魅力だ。

読みどころ

  • 原住民の視線: Vtuberとしてのスキルとメタバースに生きる実感をそのまま文章化した文体が特徴。メタバース住人のインタビューから、仮想空間での礼節、暗黙のルール、社会的な階層のようなものが浮かび上がる。夜のイベントで多言語が飛び交う情景、他者のアバターと距離を縮める感覚などが細かく描かれており、他のメタバース本が理論説明を優先するのとは対照的だ。
  • 造形と技術の距離感: アバターの制作や逆算的な生活設計に関する章では、MayaやVRoidのモデリング、VRCSDKによるインタラクション設計に触れ、現実との折り合い方を提示。グラフィックのクオリティが1世代前のゲームに近いという洞察と、逆に自由度の高い入場体験のバランスを調整する手法が対談形式で示されている。
  • 「荒野」を旅するレポート: 太陽の沈まない仮想シティ、ハードウェアへの期待と現場アーキテクトの苦労、メタバースの内側に生まれた経済まで網羅。現地の人間が相談するような口調で書かれており、読者が地図を持って歩き回るような、臨場感あふれる構成だ。
  • アイデアを使いきるワークシート: エッセイの合間には「このイベントをどう設計するか」「どのようなUXを与えるか」を書き出す欄があり、ステップごとにアイデアをまとめられる。実際のイベント主催者やインフルエンサーが考えた問いを参考に、自分なりのメタバース設計図に落とし込みやすい。

類書との比較

『メタバース進化論』は『メタバース ― 変わる仕事・変わる暮らし』や『メタバース入門』といったテックベースの概説書と違い、体験者の視点から「住人の頭の中」を開く点がユニーク。筆者がVtuberであり、蔑称ではなく「荒野の住人」としての肩書を持つため、内輪の事情から技術的課題まで一気通貫で語り、外部の「観光客」的な解説書よりも深く入り込むことができる。その一方で、そうした視点が少人数のコミュニティであるがゆえに見落としがちな、大手企業のプラットフォーム戦略に関する記述は薄め。対照的に『メタバースの正体』のような産業分析書はアーキテクチャに強いが、メタバースの内部感覚までは伝えきれないため、両者を併読すれば外側と内側の両方を理解できる。

こんな人におすすめ

デジタルネイティブなサウンドデザイナーや、ライブ配信で拡張現実を取り入れたい映像プロデューサーにも刺さる内容。作りたいクリエイターほど「どういう経験を提供したいのか」という問いの露出が高く、実際のイベントを段階的に設計するためのトリガーを使えばチームの合意形成も進む。 メタバースの感触を得たいクリエイター、ライブ配信を手がけるVtuber・プロデューサー、そしてゼロから仮想イベントを立ち上げようとするマーケターなどに手に取ってほしい。技術書で得られない「参加者の動機」や「アバターを再設計する時に持つべき倫理」といった問いを散りばめており、読者の問いを広げるきっかけも用意する。意思決定の初期段階にある人ほど刺激を受けるだろう。

感想

各章に散りばめられた当事者の声がメタバースを「観光地」ではなく「生活圏」に変えていく。特にクラスタで開催されたファンミーティングの描写は、テクノロジーの不足を逆手に取りながら感情を育てていくプロセスを示し、広告文脈でよくある抽象的な言葉とは違ったリアリティを生む。読後は「今」と「これから」をつなげる荒野で、自分がどのようなアバターを作るべきかという想像を延々と広げ続ける、そんな力を持った一冊だ。巻末の索引を見返すたびに、「自由」と「制約」のバランスをどう板挟みするかという問いが蘇り、頭の中にあるモヤモヤをラフスケッチ程度に落とし込む習慣がついた。

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    大手出版社で書籍編集を10年経験後、独立してブロガーとして活動。科学論文と書籍を融合させた知識発信で注目を集める。
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    佐々木 健太

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