レビュー
概要
生まれて間もない赤ちゃんをあやしながら、お母さんが同じ歌詞を繰り返す――そんな静かな冒頭から話が始まり、子どもは2歳、9歳と成長していく。夜になっては母親の手が布団の中へ伸び、しっかり眠れていることを確かめては「アイ・ラヴ・ユー、フォーエバー」という歌声をささやく。ヨドバシの商品紹介にもあるように、時代と世代を越えて感動の連鎖を呼ぶアメリカのロングセラーが、日本では乃木りか訳、梅田俊作画でA4変・32ページの質感で届いた(岩崎書店/1997年)。 たった一冊で年齢差を飛び越えて、親の声掛けの細部と、子どものうっとりした顔や少しずつ広がる世界が交錯する。おおらかな線で描かれた後半のページには、父親世代まで入った三世代の間を母の歌が巡る設計があり、版元の紹介文にある通り、「夜の寝かしつけ」が家族の儀式として確実に積み重なる様子が視覚的にも伝わる。
読みどころ
この絵本の読みどころは、同じ言葉をリフレインしながら時間をジャンプさせ、母と子の距離を絶妙に測り続ける視点だ。幼なじみだった夜泣きの瞬間も、思春期を迎えた扉の前も、母が曲を奏でるように手を伸ばす場面が並び、読者は成長という時間の長さよりも、心の連続性に注目するようになる。ロバート・マンチの原作に対して翻訳者乃木りかが拾った「いつまでも」「どんなときも」のリズムは、日本語の抑揚を残しつつ、絵本全体の色合いを薄い水彩タッチに溶け込ませる梅田俊作の線と合わさって、ページをめくるたびに「今ここ」で包まれていく。
- ポイント1:母の手が届く範囲が、ふだん見る「家庭の時間」なのに、ページをめくると9歳の扉や夜明けの風景につながるという構造で、時間の厚みを実感する。
- ポイント2:翻訳では常に「フォーエバー」が「ずっと」の語感と混ざるような言葉選びで、原文の反復に息づく音を日本語でも再現している。
- ポイント3:小さな羽ばたきのようなリズムに対し、梅田俊作の色調が夜の濃淡を丹念に表現し、壁の影が母子を見守る「光の軌跡」を描いている。
類書との比較
親子の絆を扱った絵本としては、『おおきな木』や『だっこして』のように与えることで満たされる物語もあるが、ここで示されるのは、与える側も受け取る側も同じ流れの中にいるという構図だ。『おおきな木』で描かれる一方通行の犠牲に比べると、『ラヴ・ユー・フォーエバー』はかなり具体的に「抱きしめる―手を離す―また抱く」という循環を見せて、読者に共鳴するリズムを刻む。『きみがいてくれたから』のような、子どもの成長と親の変化を同時に描く作品とくらべても、今回は母の歌が見守りの心象を担い、最後に父親世代がクライマックスを引き継ぐ構造になり、全3世代のループ感が強くなっている。
こんな人におすすめ
出産前後の父母や、家族が増えて愛情の継承を考える家庭に掲示したい一冊だ。夜の寝かしつけで定着した言葉が、子どもから親の背中へと戻っていく経験は、いま進行中の育児の不安を抱える人にこそリアルに響く。「いま伝えておきたいひと言」が、ページをめくれば必ずよみがえるような構成で、保育者や学校の図書に置いても、世代を担当する先生方の「小さな儀式」になる。
感想
具体的な言葉とゆったりした絵のバランスが、かえって強い余韻を残す。序盤で何回も同じくだりに戻ることで、行動と時間の差が薄くなり、子どもが大人になるにつれて、母の愛がむしろ厚くなるのではなく、愛そのものが循環しているように感じられる。最後の折り返しで大人になった子どもが別れのために母を抱きかえす場面で、「アイ・ラヴ・ユー」の歌声が新しい世代へ託されるのを感じ、読後にそっと自分の手を胸に当てたくなる。 少し心配になるのは、台詞の繰り返しが増える中で「毎晩同じことを言う」と読者が退屈に思うタイミングもあることだが、そのたびに背景の光が暗くなり、最終ページまでの運びと連動するので、逆に心地よい揺れを生んでいる。見返すたびに「これほど自分も誰かに向けて言葉を託していいのだろうか」と問い直させる力があり、納得の一冊。