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レビュー

概要

『そして、バトンは渡された』は、家族の形を「血縁」で決めない物語です。主人公の優子は、幼い頃に母を亡くします。父とも海外赴任を機に別れます。優子は継母を選びます。その後も大人の都合に振り回され、親が何度も替わります。高校生のいま優子が暮らす相手は、年が20歳しか離れていない「父」です。

この設定だけでも波乱です。しかし読後に残るのは、波乱ではなく温度です。血の繋がらない親の間をリレーされながらも、優子は出会う家族から愛情をいっぱい注がれてきた。優子自身が伴侶を持つとき、家族の意味がもう1度組み直されます。家族という言葉の、きれいごとと現実の両方を扱います。

具体的な内容:バトンは「親」だけでなく「言葉」でも渡されます

本書の面白さは、親が替わることを悲劇として固定しない点です。もちろん、子どもにとって大人の都合は理不尽です。ただ、優子が受け取ったものは理不尽だけではありません。

手渡されるのは生活です。住む場所です。食卓です。学校生活です。名前の呼び方です。親の言葉です。そうした細部の積み重ねが、バトンという比喩を強くします。

特に印象に残るのは、優子が「選んだ」要素があることです。継母を選ぶ。これは普通の家族像から外れます。しかし選ぶという行為があるから、優子の人生は受け身だけになりません。親が替わるたびに、優子は環境へ適応します。ただし適応は我慢ではありません。優子は、受け取った愛情を受け取り直し、自分のものにしていきます。

文庫版の紹介では、優子が伴侶を持つとき、と書かれています。物語は家族史でありながら、恋愛や結婚の場面で急に現在形になります。

過去の出来事は、未来の選択へ影響します。親が替わった経験は、優子のパートナー選びや家庭を作る感覚に影を落とします。同時に、その影は重さだけでなく支えにもなります。家族から受け取ったものは、優子の判断の土台になります。

読みどころ:優しさが説教にならないところです

心温まる物語は、説教に寄ると薄くなります。本書は寄りません。優子が傷つく場面もあります。大人が不器用な場面もあります。だから優しさが具体に感じられます。優しさは、完璧な大人が与えるものではありません。未熟な大人が、それでも差し出すものです。その現実味が、読後の温かさにつながります。

また、担当編集者のコメントでは、本屋大賞だけでなく王様のブランチの賞やキノベスの第1位にも選ばれたと触れられています。評価の高さはもちろんですが、それ以上に「身近な人が愛おしくなる」という紹介文が腑に落ちます。読み終えたあと、親や友人やパートナーとの距離が少し変わります。

担当編集者の紹介では、著者自身が「こういう気持ちになる話を書きたかった」と語ったことにも触れられています。読後に残るのは、感動の押しつけではなく、静かな肯定感です。さらに解説として、俳優の上白石萌音さんの名前が挙げられています。人生の節目ごとに読み返したくなる、といった趣旨の言葉が紹介されており、物語が一度きりの感動ではなく、生活の中で効いてくるタイプであることが示されています。

類書との比較

家族小説は、血縁の強さや断絶の痛みで読ませることが多いです。本書は、血縁の外側にある家族の力を描きます。親が替わるという出来事を、傷としてだけでなく、関係の学習として描き直します。だから、悲しい話として閉じません。読後に「自分もやり直せるかもしれない」という感覚が残ります。

さらに本書は、家族を「固定された名詞」ではなく「動詞」として描きます。世話をする。待つ。食べる。話す。謝る。選ぶ。こうした行為が積み重なって、家族に見えてくる。血縁が先にあるのではなく、行為が先にある。ここが、読んでいて救いになるところでした。

こんな人におすすめ

家族の形に悩みがある人におすすめです。親と距離がある人にも合います。血縁だけが家族だと言い切れない経験がある人にも刺さります。結婚を前にして、家族の意味を考え直したい人にも向いています。

感想

読んでいて一番強かったのは、優子が「愛されること」を疑わないところでした。親が替わる経験は、普通なら不信を作ります。しかしこの物語は、疑いの物語ではありません。受け取る物語です。受け取ってしまうからこそ、別れも痛い。痛いからこそ、優しさが本物になります。

家族は、揃っていれば良いわけではありません。続いていれば良いわけでもありません。渡されたものを、どう受け取って次へ渡すかです。本書は、そのバトンの重さと温かさを同時に描いた小説でした。

優子の人生は、説明すると複雑です。ただ、読んでいる間は不思議と複雑に感じません。家族の形が変わっても、日々は続くからです。続く日々の中で、誰かが料理を作り、誰かが帰りを待つ。そうした当たり前が、当たり前ではない人にとって、どれほど大きいかが伝わってきます。家族をテーマにしつつ、生活の手触りを描く小説としても強い1冊でした。

高校生の優子と、年齢差の小さい「父」という設定は、最初は奇抜に見えます。しかし読み進めると、奇抜さより親密さが前に出ます。親子だから大事にするのではなく、生活を一緒にするから大事になる。そういう順番が丁寧です。家族を「与えられるもの」ではなく「育つもの」として描くから、読後に身近な人の顔が浮かぶのだと思います。

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