レビュー
概要
『クリスマスって なあに』は、子どもが抱く「クリスマスって結局なに?」という素朴な疑問に、絵本としてまっすぐ答えてくれる一冊です。クリスマスツリーやプレゼントの話だけで終わらず、なぜその日を祝うのか——ベツレヘムの星、マリアとヨセフ、羊飼い、そしてイエスの誕生という物語へ、無理のない導線でつないでいきます。
ディック・ブルーナの絵は、線が太く、色数が少なく、情報が絞られている。その分、読み聞かせをする側が言葉で補いすぎず、子どもが「絵を見て感じる」余白が残ります。ページ数もコンパクトで、季節の行事絵本として毎年手に取りやすいサイズ感です。
読みどころ
1) “行事”と“由来”を同じ絵本の中で結びつける
クリスマスは、日本だとイベントとして定着している一方で、「何のための日?」を子どもが理解するのは難しい。この絵本は、そこを難しい説明で押し切らず、物語として自然に伝えます。
ツリーや贈り物にワクワクしている子ほど、「でも、なぜ?」が置き去りになりがちです。ここで由来の話に触れておくと、行事が“消費”だけではなく、“意味のある時間”として残ります。絵本の役割として、とても健全だと思います。
物語の中には、星に導かれてやってくる人たちや、贈り物、赤ちゃんが飼い葉桶(まぐさおけ)で眠る場面など、クリスマスの核になるモチーフが短く収まっています。長い説明や難しい言葉がなくても、絵として「いつもの日ではない」感じが伝わる。だから、未就学児でも“なんとなく分かる”から入れるのが良いところです。
2) ブルーナの簡潔さが、宗教的なテーマを“怖く”しない
宗教に関わる題材は、構えた語り口だと距離ができます。でもブルーナは、線と色を削ぎ落とすことで、話を「教義」ではなく「物語」に戻してくれる。子どもにとっては、まず物語として出会うことが大切で、そこから先の理解は成長とともに自然に広がっていきます。
読み聞かせの現場でも、親が全部を説明できなくていい。「星が導いたんだね」「みんなが会いにきたんだね」と、絵の中の出来事を一緒に確かめるだけで、十分に意味が立ち上がります。
宗教色の扱いに迷う家庭もあると思います。そういう場合も、ここで語られているのは「ある文化の大切な物語」だと置けば、押しつけになりません。行事の由来を知ることは、信仰の強制ではなく、世界の理解の入り口でもあります。むしろ、由来を知らないままイベントだけ消費してしまうほうが、子どもにとっては不思議が残る。絵本は、その不思議をちゃんと回収してくれます。
3) “毎年読む”ことで、記憶に層ができる
行事絵本の強さは、反復にあります。同じ絵本を同じ季節に読むと、子どもの中で「去年のクリスマス」「今年のクリスマス」がつながり、時間の感覚が育ちます。
『クリスマスって なあに』は文章も絵も過剰でない分、年齢によって受け取り方が変わります。幼い頃は絵の色や形、少し大きくなると星や旅の意味、さらに大きくなると「祝うとは何か」へ。毎年の“再会”に耐えられる作りです。
類書との比較
クリスマス絵本には、サンタの物語に寄せたもの、ツリーや飾り付けの楽しさに寄せたもの、キリスト誕生の物語を丁寧に描くものがあります。本書は、誕生の物語を中心にしつつ、子どもの「イベントとしてのクリスマス」の感覚も否定しないバランスが特徴です。
よりドラマ性の強い絵本を求めるなら別の選択肢もありますが、毎年の定番としては、ブルーナの簡潔さが強い。読み聞かせの負担が小さく、絵の記憶が残るタイプです。
こんな人におすすめ
- 子どもに「クリスマスの意味」をやさしく伝えたい人
- サンタやプレゼントだけでなく、由来にも触れておきたい家庭
- 読み聞かせが苦手でも、短く繰り返し読める絵本を探している人
- 毎年の定番にできる行事絵本が欲しい人
感想
この絵本の良さは、「クリスマスは何?」という問いに、背伸びせず答えているところです。子どもにとっては、行事の意味づけはすぐに分かりきるものではありません。でも、毎年読むうちに、点が線になっていく。
クリスマスの時期は忙しく、イベントはどんどん消費されがちです。そんな中で、この絵本を開く時間は、少しだけ速度を落とし、「祝うってなんだろう」と立ち止まれる時間になります。子どものためだけでなく、大人にとっても“意味を取り戻す”一冊だと思いました。
読み聞かせをしていて面白いのは、子どもの質問が年齢で変わることです。最初は「星ってなに?」「なんで赤ちゃんがここで寝てるの?」という素朴な疑問。次は「どうしてプレゼントをあげるの?」へ進み、さらに「みんなでお祝いするってどういうこと?」になる。『クリスマスって なあに』は、その質問の変化に毎年付き合えるだけの余白がある。行事絵本として、長く家に置ける理由がそこにあると感じました。
内容紹介では、星にみちびかれて東方の3博士の旅がはじまること、そしてイエス・キリスト誕生の物語を通してクリスマスの意味をやさしく伝える絵本だと説明されています。ページ数も多くないので、子どもが眠くなる前に読み切れます。だから、イベントの“前”に慌ただしく読むのではなく、当日が終わった夜や、翌日の落ち着いた時間に読むのも合います。行事を「盛り上げて終わり」にしないで、物語として心に残す。そんな使い方ができる絵本です。