『クニミツの政 (新装版) 1』レビュー
出版社: ゴマブックス株式会社
出版社: ゴマブックス株式会社
『クニミツの政(新装版) 1』は、「政治を変える」という巨大なテーマを、喧嘩と祭りの温度で引きずり出す漫画だ。主人公は武藤国光。学歴ナシ、金ナシ、頭脳ナシ。代わりに、どでかい志がある。腐った日本の政治を変えるために、「政(マツリ)」へ突き進む。説明だけ読むと荒唐無稽に見えるが、1巻はそこへ至るエネルギーを、勢いだけでなく現実の不満として立ち上げる。
この巻でまず効いてくるのは、政治が「遠い世界」ではなく、生活の延長として描かれることだ。政治の話は、専門用語が出た瞬間に距離ができる。ところが国光は、難しい言葉で語らない。怒りと熱で走る。走りながら巻き込む。だから読者も、政治を勉強するのではなく、政治へ巻き込まれる。
「政(マツリ)」という読み替えは象徴的だ。政治を祭りにする。これは軽さではなく、参加の敷居を下げる工夫だと感じた。投票や制度の話は、参加しないと始まらない。でも参加の入口は、理屈ではなく感情にある。国光の突進は、その入口を作る。政治の世界を、関係者だけの会議室から引きずり出す役割を担う。
また、新装版の1巻として、シリーズの始まり方がはっきりしているのも良い。国光は万能の天才ではない。学歴も金もない。頭脳もない。だからこそ、勝ち方が工夫になる。正攻法で勝てない人が、どうやって道を作るか。その筋書きが、世直しの物語として読める。
この作品の面白さは、政治を美談にしないところにもある。理想を語るだけでは、現実が動かない。現実を動かすには、敵も出る。足を引っ張る人も出る。利害も出る。国光がぶつかるのは、抽象的な悪ではなく、具体的な人間だ。だから、熱いのに生々しい。
読み終えた後に残るのは、「政治は難しい」というあきらめではない。「政治は泥くさい」という納得だ。泥くさいなら、関わり方はいくらでもある。国光の走り方は、その可能性を見せる。
国光は、物語の開始時点で、頼れる武器をほとんど持っていない。学歴がない。金もない。頭脳もない。だから、普通の政治ドラマのように、会議室で理屈を積んで勝つ展開になりにくい。ここがこの作品の強さだと思う。理屈で勝てないから、現場へ出る。現場で人を動かす。その動きが「政(マツリ)」の読み替えと噛み合う。
政治を遠く感じる理由は、言葉の難しさだけではない。参加できる手触りがないからだ。国光は、そこを壊す役回りになる。怒りや不満を、ただの愚痴で終わらせない。誰かの行動へ変換する。だから、読んでいると政治が「ニュース」から「当事者の舞台」へ近づいてくる。
また、世直しの物語として、国光のやり方は荒い。けれど荒いからこそ、無関心の壁を割れる。丁寧な説明は、丁寧なまま無視されることもある。最初の火種は雑でも良い。そこから参加者が増えれば、火は育つ。本作は、その火種の作り方を物語として見せる。
国光は、理想を語る前に欠点が出る。学歴がない。金もない。頭脳もない。だから、夢物語に見える。だが、その不利を引き受けた上で走るから、物語が現実の速度に近づく。正しさより、まず動く。そこから人がついてくる。政治の物語を、教科書ではなく熱量として読める。
政治に関心がある人ほど、制度の細部へ目が行く。関心がない人ほど、政治を自分から遠ざける。本作は、その中間を作る。制度の説明を省き、体温を上げる。その上で、政治が生活の延長であることを思い出させる。1巻は、その入口として強い。
政治ドラマより、「世直しの体温」を前に出す。 政治を扱う漫画は、権力闘争や駆け引きに寄りやすい。そうした類書は、ドラマとしては面白いが、読者が参加者になる感覚は薄い。
本作は逆だ。制度の説明より先に、現場の体温を出す。国光は、論理で勝つより、勢いで状況を変える。もちろん現実の政治は勢いだけでは動かない。だが、現実でも最初の火種は勢いだ。無関心を破る力が要る。そこを描けるのが、漫画の強みだと思う。
また、政治の物語が苦手な人ほど、本作の入りやすさが効く。難解さで遠ざけるのではなく、感情で近づける。世直しを「自分とは無関係」から引きはがす。そこが類書との違いになる。
国光のやり方は荒っぽい。けれど、荒っぽさが必要な場面もある。政治を遠い場所から近い場所へ引っ張る1巻として、勢いの強いスタートになっている。
熱量のある作品だが、読む側が無理に政治へ詳しくなる必要はない。まずは国光の走り方を追えばいい。その上で、現実のニュースが少しだけ違って見えたら、この1巻は十分に役割を果たしている。
政治の入口として、これ以上にわかりやすい導入は多くない。